半夏生(はんげしょうず)についての豆知識
半夏生(はんげしょうず)とは七十二候の1つで、1年を72に分けた1つの区分です。そもそも七十二候とは、1年を24に分けた二十四節気をそれぞれ3つに分けたものを指します。
半夏生であれば、立春から数えて10番目の二十四節気である「夏至」を3つに分けた最後の候です。夏至は、時期が早いものから順に、「乃東枯(なつかれくさかるる)」「菖蒲華(あやめはなさく)」「半夏生(はんげしょうず)」の3つに分かれています。いずれも5日ほどの日数からなり、15日ほどの夏至を構成します。
なお、半夏生は「はんげしょうず」と読みますが、漢字をそのまま読んだ「はんげしょう」という読みも間違いではありません。昔の暦や文献にも「はんけしやう」と振り仮名が振られているものもあり、時代とともに読み方や表記方法が変わっていったと推測されます。
田植えを終わらせる目安にも使われた
半夏生は夏至(二十四節気の1つのため、約15日間の期間を指すこともありますが、最初の日を「夏至」と呼ぶこともあります)から11日目を指します。地域によっても異なりますが、夏至前後の初夏は農家にとっては忙しい時期で、田植えや養蚕などが並行しておこなわれます。
半夏生は夏至の終わりということもあり、田植えを終わらせる目安としても使われていたようです。「はんげ(半夏生のこと)の後に農なし」や「ちゅう(夏至のこと)は外せ、はんげは待つな」など、半夏生よりも前に田植えを終わらせるように戒めた言葉も残っています。
半夏生に関する言い伝えも多い
半夏生は夏至から11日目からの5日間です。夏至が6月20日なら7月1日から5日までの5日間、夏至が6月21日なら7月2日から6日までの5日間を指します。また、太陽黄経が100度を通過する日としても定義します。
半夏生の時期は梅雨と重なることも多く、「天から毒が降ってくる日」「物忌みをする日」というようにネガティブな言い伝えも少なくありません。いずれの言い伝えも外出を避けるように促すものであることからも、家で養生しようという意味も含まれていると考えられます。
半夏生(はんげしょう)という植物もある
半夏生(はんげしょう)という名前の植物もあります。日本を含む東アジア一帯に植生するドクダミ科の植物で、水辺などの湿地に自生します。6月の終わりごろから白い花穂をつけ、花穂の下の葉が半分ほど白くなるのが特徴です。
半分だけ化粧をしたように白くなっていることから、「半化粧」と呼ばれるようになったと考えられています。また、花穂をつける時期が七十二候の半夏生と被ることから、「半夏生」の漢字があてられるようになりました。
また、半夏(はんげ)と呼ばれる花もあります。カラスビシャクという別名もある薬草で、ちょうど半夏生の頃に開花します。半夏が咲くまでに田植えを終わらせるようにした地域もあるようです。
カラスビシャクはサトイモ科の植物で、根茎を乾燥して生薬として使われることもあります。丁寧に抜き取ったつもりでも、根が地中深くに残っていると枯れずに芽を出して花をつける繁殖力の強さが特徴です。根絶が難しいため、農家にとっては頭を悩ませる植物のひとつともいわれています。
半夏生の時期に味わう食べ物
動植物が生命力にあふれる半夏生の時期は、食べ物がおいしくなる時期でもあります。また、田植えなどの労働で疲れた身体を癒すためにも、半夏生の頃は栄養のある食べ物をしっかりと食べることが推奨されてきました。
半夏生のときに味わう食べ物をいくつか紹介します。地域によっても風習が異なるため、ぜひお住まいの地域で、半夏生の食について調べてみてください。
タコ
関西地方では、半夏生の頃になるとタコを食べる風習があります。
タコが吸盤で吸いつくように、苗の根がしっかりと地面につき、豊かな実りになるようにといった願いが込められているといわれています。また、豊かな実りを祈って、豊作祈願の際にタコを神前に供える地域もあるようです。
タコにはアミノ酸の一種であるタウリンが豊富に含まれているため、疲労回復の効果が期待されます。田植えで疲れたときにタコを食べるのは、栄養学的に見ても根拠のあることといえるでしょう。
うどん
香川県では、半夏生の頃になるとうどんを食べる風習があります。
元々日常的にうどんが食べられている地域ですが、半夏生の頃は特別にうどんを食べるようです。半夏生の時期は小麦の収穫を迎えるため、収穫したばかりの小麦でうどんをつくり、収穫作業をした人々をもてなしたことが始まりといわれています。
なお、香川県の「本場さぬきうどん協同組合」では、7月2日をうどんの日と定めました。7月2日はちょうど半夏生の頃にあたるため、昔からの風習を知らない方でもうどんを食べる時期となっています。
焼き鯖
福井県の若狭地方では、半夏生の頃になると焼き鯖(鯖を太い竹ぐしでまるごと刺し、じっくりと焼いて調理したもの)を食べる風習があります。
江戸時代から続いているといわれるこの風習は、田植えで疲れた身体を癒し、蒸し暑い夏を乗り切るために始まりました。また、この時期の鯖を「半夏生鯖」と呼び、おいしく味わうためのメニューも数多く考案されています。
小麦餅
奈良県や大阪南部では、半夏生の頃に収穫した小麦を使って、小麦餅をつくる習慣があります。小麦餅とも呼ばれますが、「半夏生餅(はんげしょうもち、はげっしょうもち)」とも呼ばれ、その時期ならではの甘味としても親しまれています。
小麦餅は、つぶした小麦にもち米を混ぜて餅状にこね、きな粉をまぶしたシンプルなお菓子です。田の神様に感謝を示すときは、小麦餅を「さなぶり餅」と呼び、お供えのひとつとして使います。
初夏の疲れも溜まる時期!ゆっくりと過ごそう
半夏生は初夏の疲れが溜まってくる時期です。梅雨で外出が難しいこともあるため、無理をせず身体を労わり、おいしいものを食べてゆっくりと過ごしましょう。