働く私たちのメンタルヘルスケア
毎日を忙しく過ごす私たちの周りには、心の空模様を曇らすモヤモヤやイライラがそこかしこに散らばっています。読者から寄せられた心のお悩みに、精神科医が回答。ストレスを軽くするコツを、Q&A形式で紹介します。
【プライベート編】働く私たちの、心の“しんどみ” Q&A
Q. すべてにおいて頑張りすぎて疲れました
「SNSや友人、家族の言葉などに敏感に反応して、いい子ちゃんを演じる自分に疲れました。ときどき全部放り出したくなります」(39歳・専門職)
A. “いい子ちゃん”をやめない限り、ラクにはなれません
どうぞ“いい子ちゃん”でいることを放り出してください。きっと、自分の言動で摩擦やめんどうごとを起こしたくないんでしょう。
たとえばだれかに何か頼まれたとき、断った後の相手の反応を見るのがめんどうだから引き受けちゃう。このままでは“人のよさ”につけこまれて、負担がますます増えますよ。
まずは家族など身近な人から「イヤ」「できない」と言ってみて。事態がこじれたり、人間関係が破綻したりすることは、思った以上にありませんから。「たいしたことない」と思えたらラクになりますよ。
Q. 年々、老けていく自分が怖い…
「最近、加齢によるほうれい線や肌荒れがひどくなって気が滅入る。周囲に『若いね』と言われると余計にプレッシャーに…。老けたくない」(35歳・物流)
A. “外見”以外の自分の魅力を見つける努力を
悩みを読む限り、あなたはきっとルックスに自信があるのでしょう。容姿がご自身の存在価値のよりどころを占める割合が大きくて、それが崩れていくと「私に何が残るの⁉」と思っているのかもしれません。
確かに、自分が誇れる支柱のひとつが目減りしていく感覚は怖いと思いますが、あなたの魅力はきっとそれだけではないはず。今のうちから、ほかの柱はなんなのか考え、見つけていきましょう。
Q. 母親からの圧に押しつぶされそうです
「昔から何かと干渉してくる母。自分の中の“理想の娘像”を押しつけてくる態度にうんざり。距離感に気をつけていますが、疲弊します」(26歳・事務)
A. 「お母さんは私くらいの年代をどんなふうに過ごしてきたの」と聞いてみて
こういうときは逆に、あなたが母親にカウンセリングしてみて。「お母さんはどう生きてきたの? 私にどんな人生を送ってほしいのか理解したいから教えて」って。きっと、母親自身が果たせなかった夢や未練があるはず。
母親ではなくひとりの女性の悩みとしてとらえ直すと、母親も、自分の夢を娘に投影しているだけと気づく機会になります。あなた自身も、「この人も苦労したんだな」と思えるかも。
Q. 幼なじみの主婦のマウントに疲れます
「ふたりの子供を育てる友人から『早く結婚しないと子供産めないよ!』と言われます。仕事を頑張っている自分を否定されたようで悲しい」(32歳・金融)
A. きっとそれ、彼女の自信のなさの裏返しです
ひとつのことを強調するのは、その人が自分を肯定できる材料がそれしかないから。その友人にとっては、出産・育児を肯定することがアイデンティティを保つ方法なんだと思います。
そこで「私は仕事を頑張ってるの!」と言い返してもケンカになるだけ。「彼女はこれで心のバランスを保っているんだな」と思えばいい。ただ、聞かされるほうもしんどいもの。適度な距離をとってください。
Q. すべてが平均点の自分に、自信がもてません
「仕事もプライベートも人並みにできていると思いますが、人に誇れるものがこれといってありません。自分の強みが欲しい」(28歳・IT)
A. なんでもソツなくできることが強み!
人に誇れるものって、スペシャルなものじゃないといけないと思っていませんか? すべてをソツなくできることは、器用貧乏なんかじゃなく、相当なスキルだと知ってください。
いったん自分のスキルを強みとみなしたら、次は「自分の人生にどう役立てられるか」「仕事としてどう変換できるか」考えてみて。
簡単ではないし時間のかかる作業ですが、グルグル悩んでいるよりはよっぽど建設的。ちなみに僕の強みは“長話をするのが苦じゃなかった”こと。それを生かして、今のカウンセリングの仕事に就いています。
教えてくださったのは…
精神科医・産業医|尾林誉史(おばやし・たかふみ)
1975年生まれ。VISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長。東京大学理学部卒業後、リクルートに入社。30歳で退社し弘前大学医学部を経て医師に。著書に『元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術』(あさ出版)など。
2023年Oggi5月号「働く私のメンタルヘルス」より
撮影/河内 彩 イラスト/オカヤイヅミ 構成/佐々木 恵・酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部