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メタ認知のイメージは“もう一人の自分”
メタ認知は心理学の用語で、メタとは「高次の」、認知とは「物事を見たり聞いたり考えたり感じたりすること」を意味します。つまりメタ認知とは「見たり聞いたり考えたり感じたりすることを一段上からとらえること」という意味になります。
ちょっとわかりにくいですよね。例を挙げてみましょう。例えば部下や後輩が仕事でミスをして、しかもそれを反省している様子が見られないとき、あなたはその人にどう対応しますか?
そのミスの重大さや影響を伝えて反省してもらう、今後どうすればよいかを一緒に考える、本人に言うのは諦めて上司や同僚に愚痴る… など、思いつくままにあげてもさまざまな対応が考えられます。
そもそもその仕事がどんな内容なのか、難しいのか易しいのか、ミスの程度やミスの回数によっても対応が変わってきそうです。場合によっては本人がそれをミスと気づいていない・認識していないようなケースもあるかもしれません。また、反省しているように見えないだけで実は本人はものすごく落ち込んでいる、という可能性もあります。
あなた自身も「自分も昔ミスをして同じような態度をとったことがあるな」ということもあれば、「自分だったらどんなに小さなミスでも反省して改善しようとするのに…」と感じる場合もあるでしょう。
このように「ミスを反省していない部下・後輩」という状況には、さまざまな要素が関係しています。その仕事の内容、これまでの経緯、周囲の環境から、本人の考え方や性格、スキルのレベル、あなた自身の過去の経験や価値観など、さまざまな要素が複雑にからみあっている中で、あなたは「どんな対応をするか」を決めているのではないでしょうか。
メタ認知とは、ある状況にまつわるこうしたさまざまな要素のひとつひとつを、落ち着いて冷静にとらえることです。
上のイメージ図のように、もう一人の自分が少し高いところから全体を見渡して、いったい何が起きているのか、自分や相手は何を見て・何を感じているのか、なぜそうなっているのかをじっくり見ているようなところを思い描くとよいでしょう。
メタ認知の力を磨く5つのメリット
メタ認知は誰にでも備わっている力ですが、近年ビジネスの世界で注目されているのは、この力が磨かれるとどのような環境下でも安定して成果を出し、成長していけるようになるからです。具体的には下記の5つのメリットがあります。
1. 自律的に行動することができる
2. 広い視野で的確な判断ができる
3. 感情のコントロールができる
4. 相手との意思疎通がスムーズになる
5. 成長し続けることができる
つまりメタ認知の力が高い人は、何をするにも「誰かに言われたから/何となく取り組む」のではなく、今やっていることは「誰のため・何のためなのか」と自問自答しながら動くことができますし(1)、難しい局面でも自分の主観にとらわれず物事の全体を俯瞰して判断することができます(2)。
周囲の人との間で感情的な対立が起きても自分と相手の感情を冷静に見つめることができ(3)、建設的なコミュニケーションをとることができます(4)。
またこのように常にさまざまな角度からえながら行動していると、自分自身の特徴や傾向がよく分かるようになります。自分の長所や短所を知っているので、意識的に自分自身を変えていくこともできます(5)。
変化が激しい今の時代に特に重要なのは(5)で、このような人は異動や転職などで環境が変わっても、またプライベートでライフステージが変わっても、自分と周囲の人たちの良さを活かしながら、しなやかに活躍の幅を広げることができます。
メタ認知の力を磨く4つの問い
では、どうすればメタ認知の力を磨くことができるのでしょうか? 先ほど紹介したメタ認知のイメージ図の、フキダシにある4つの問いがキーです。
1. 何を見たのか
2. どう感じたのか
3. どうするのか
4. それはなぜか
この4つは、自分や相手の言動の裏側にある物事のとらえ方や感じ方、その背景を明らかにする問いです。同じものを見ているようでも、人はそれぞれものの見方、感じ方、判断が異なります。
起きている出来事をどの範囲でどこまで見たか、またそれに対してどう感じたかで、出来事に対する判断や評価が変わります。さらに自分のとらえ方や感じ方、判断がそうなるのはどうしてなのか、自分のこれまでの経験や価値観まで遡って考えてみることも有効です。
このように、ある出来事に対する自分の思考や感情の動きを丁寧にひも解いていくことが、メタ認知の力を磨くことにつながります。
明日からの一歩
最後に明日からすぐに実践できるアクションを紹介します。
1. 意見の合わない人に4つの問いを投げかけてみる
仕事でもプライベートでも、意見が2つに割れるような場面があったら、前述の4つの問い「1. 何を見たのか、2. どう感じたのか、3. どうするのか、4. それはなぜか」を相手に投げかけてみましょう。相手のことを、感情や価値観も含めてよく知ることが、より良い結果につながります。
2. 普段行かないような場所に行ってみる
「当たり前」が多い環境に身を置いているとメタ認知は磨かれにくいと言われています。意識的に新しい場所に出かけて行って、考え方や価値観の違う人と話してみましょう。違和感のある意見や言動に触れたら、前述の4つの問い「1. 何を見たのか、2. どう感じたのか、3. どうするのか、4. それはなぜか」で自問自答してみると多くの発見ができるでしょう。
ぜひやってみてください!
TOP画像/(c)Shutterstock.com
リクルートマネジメントソリューションズ 児玉 結
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に同社に入り、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員~管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。