「定時」と「残業」
「定時」って言葉を聞いたとき、どんなイメージを思い浮かべますか? 「定時上がり」など、職場でよく聞く言葉ですよね。また、「定時で帰れなくて困っている」という声も聞きます。この記事では、社会保険労務士の塚原美彩さんと一緒に考えていきましょう。
ちょうど先日、Oggiブレーンの方から、こんなお悩み相談をいただきました。
「残業=頑張りという価値観の職場に辟易しています。私は他の方に比べれば残業時間が短い方ですが、定時に帰りづらい雰囲気があります。労働時間が長いと心身ともに辛いので、どうすれば労働時間を短くできるのか悩んでいます」(Xさん・27歳・女性/東京都)
Xさんの会社は、残業が常態化しているようですので、心身への負担は相当なものでしょう。塚原さんにお話をおうかがいしました。
「このように、定時に帰りにくい雰囲気がある会社は、まだまだ多いようですね。
しかし、今後多くの会社は、長時間労働をやめざるを得ない状況になるでしょう。というのも、日本全体としては、働き方改革などの流れがあり、残業に対して、様々な法規制がかかってきているからです。これは、大企業だけのお話ではありません。
これまで、中小企業では、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、25%とされていました。しかし、2023年4月1日からは、この率が50%に引き上げられます。つまり、残業をさせれば、それだけ会社に人件費の負担が増えると言えますね。
また、近年では、サービス残業や未払い残業代を巡る訴訟も増加傾向にあり、企業は残業を削減せざるを得ない環境になっていくでしょう。
Xさんの場合、まずは会社へ、残業削減を提案してみるのも一つの手ではないでしょうか。その際、『労働時間を短くしてほしい』というだけでは、なかなか理解を得られないもの。
まずは、決められた時間の中でしっかりと業務をこなし、誠実に仕事をしているという姿勢や、成果物を見せるようにすると、交渉がしやすくなります。
また、提案の際は、なるべく小さなステップから始めることがポイント。例えば、『金曜日は、原則定時帰り』など、まずは一部分から提案すると、通りやすくなるかもしれません。
さらに、社内で賛同してくれる仲間を作っていくと、話が進みやすくなるでしょう」(塚原さん)
ただ、会社の風土によっては、こういった提案を聞き入れてくれないこともありますよね。もっと悪質な場合は、サービス残業を強いるという会社も。こういった場合、労働基準監督署の力を借りるしかないケースもあるようです。
「とはいえ、最近では、残業を減らす取り組みをしている企業も増えてきていますよね。そういった会社へ転職するのも、一つの手段ではないでしょうか。」(塚原さん)
ここからは、定時の法律上の定め、定時退社のポイントも一緒に見ていきましょう。
定時の法律上の定めは?
定時とは、法律上、どのように定められているのでしょうか? 「定時」とは、あらかじめ決まっている時刻を指す言葉で、文脈やケースによって時刻は変わっていきます。
一般的に、会社で使われる「定時」とは、所定の始業・終業時刻のこと。例えば、始業が8時、終業が17時、休憩1時間などの場合でイメージすると、分かりやすいですね。
ちなみに労働基準法上、1日の労働時間は、一定の例外を除き、原則8時間までとなっています。
ご自分の定時が何時なのか知りたいという方は、就業規則や労働契約書を確認してみましょう。そこに、始業と終業の時刻という記載があるはずです。シフト制の場合は、複数のパターンがあるでしょう。
なお、始業時刻と終業時刻は、会社が労働者へ、必ず説明する必要がある事項です。
定時退社とは?
定時退社という言葉を、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
職場における定時とは、一般的に所定の始業・終業時刻を指すと解説しました。ですので、定時退社というと、「あらかじめ決められた通りの終業時刻に退勤する」という意味になります。これを「定時帰り」や、「定時上がり」と呼ぶことも。
シフト制の場合、何時から何時までと定められているシフトの時刻が、その人にとっての定時となります。様々なパターンがありますが、いずれにせよ定時退社は、決められた時刻通りに退勤することを指すと言えるでしょう。
定時退社のポイントは?
残業が続くと心身が疲弊してしまうため、やはり定時で帰りたいですよね。そこでここでは、定時で帰るためのポイントとして、重要な要素をピックアップして解説します。ご自身のワークライフバランスを見直すためにも、参考にしてみてくださいね。
1:定時から逆算する
定時で帰るためには、定時から仕事を逆算して考える習慣が重要です。17時退勤の場合、何時にはこの作業が終わっている状態にする、などと逆算してみましょう。
終わらせるべき仕事をこなしていない状態で定時退社をすると、周囲から「仕事ができない人」というイメージを持たれてしまいますよね。定時でしっかりと業務を終わらせるには、逆算思考がポイントです。
2:システムなどを活用する
時間が節約できるようなシステムなどを導入するという発想も、大切なポイントです。
例えば、今まで紙で管理していたものに対して、データで管理できるようにするというイメージですね。定時でしっかりと業務をこなせる人は、こういった効率化への感度が高いという特徴があります。手作業やアナログ仕事は、なるべく自動化できないか考えてみましょう。
3:改善の4原則を使う
業務の効率化をするために、以下のような改善の4原則というフレームワークを活用することもおすすめです。
・Eliminate(排除):なくせる作業はないか?
・Combine(結合):似たような業務をまとめることはできないか?
・Rearrange(交換):作業の順序や、担当者、場所など、入れ替えた方がいいことはないか?
・Simplify(簡素化):もっと単純化できることはないか?
このような視点で、一度自分の業務を振り返ってみましょう。何かしら、改善点が見えてくるかもしれません。
最後に
この記事では、定時の法律上の定めや、定時退社のポイントを解説しました。近年では、働き方改革など、残業を抑制しようとする動きが出ています。
また、長時間労働による過労死や、メンタル不調なども問題視されていますよね。働き過ぎて体や心を壊してしまうことは、防ぎたいもの。健康的な働き方をするために、参考にしてみてくださいね。
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※本記事はOggiブレーン会員に対して2022年10月に行った「働き方アンケート」の回答をもとにしています。
塚原美彩(つかはら・みさ)さん 開業社会保険労務士
2016年社会保険労務士資格を取得。趣味は日本酒酒蔵巡り。現在は独立開業し、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。
ライター所属:京都メディアライン