注意力散漫! 緊張感ピーク! 移植当日の朝【30代からの不妊治療】
妊活を始めて3年。現在34歳の私の体験から、妊娠を考えているカップルにとって少しでも役に立つような情報をレポート形式でお届けします。
前回は、黄体ホルモン「ウトロゲスタン」を使っていた時に困った話をお届けしました。今回は、体外受精の移植当日の話。
ついに迎えたD17の移植日。子どもの頃からいつでもどこでもグッスリ眠れる体質だと思い込んでいたのですが、夫の政策静脈瘤の手術の日も、自分の採卵当日も、どうも私は不妊治療に関する重要な局面ではまったく眠れなくなってしまう性格のようです。本当はしっかり眠って万全の体調で挑みたかったのですが、こればかりは仕方がありません。
夫も私もなんとなく落ち着かない雰囲気で、朝からバタバタと準備をして予定通り病院へ到着。ここまではよかったのですが、受付で忘れ物をしたことに気が付きました。
私「やだ、診察券がない!」
夫「え!? いつもお財布に入れていなかった?」
私「あ! 一昨日、病院に電話をした時に診察券の番号を聞かれて、そこで取り出したんだった。入れ忘れた…!」
やむなく、受付の人に事情を説明して、診察券を再発行してもらいました。寝不足すぎて注意力が散漫になり、思考回路がうまく機能していない感じでした。いつもなら忘れない診察券をまさかこの最終局面で家に置いてきてしまうなんて。こうして時間ギリギリの9時半にリプロに到着。先に採決とエコー検査をして、待合室で番号が呼ばれるのを待っていたのですが、このあと私はもうひとつミスをしてしまいます。
「おなかが痛い」私の移植時間はいつ?
事前に「移植の時は膀胱に尿がたまっていたほうが、子宮がしっかり見やすい」とアドバイスされていた私は、朝一度お手洗いを済ませただけで、そのあとはずっとトイレを我慢していました。それどころか、夫には「尿だめしなければならないから飲み物を買ってきて」と頼み、待ち時間はひたすらペットボトルの麦茶をゴクゴクと飲んでいました。
採卵の時に待ち時間がゼロだったことがあり、移植も早々に呼ばれるのかな… と勝手に期待していたのですが、30分経っても1時間経ってもなかなか私の順番が来ません。
私「どうしよう、おトイレ行きたくなってきちゃった」
夫「ちょっと! それは困るって。受付にあとどのくらい待つのか聞いてくるから待ってて」
そうこうしている間もずっと我慢をしているので、今にでもトイレに行きたい…。すごく焦りました。どうしよう。
夫「次の次だからあと2、30分だって」
私「え~、それは無理だ。いったんおトイレいってくる」
冷や汗をいっぱいかきながら、なんとかお漏らしだけは免れたのですが、もうすぐ迫っている移植。尿だめどころか、膀胱が空っぽになっちゃった。私は焦ってまた160mlの麦茶を一気飲み。そして、そこから30分が経過してもなかなか呼ばれず、一度痛くなった膀胱も回復せず。またしてもおトイレに行きたくなったのです。もう、何をやっているのだ、私は。ひとり大パニックです。
夫「え!? さすがに今はまずいよ。もうすぐ呼ばれるから我慢してよ」
私「そんなのわかってるよ。でもトイレに行きたくてたまらないの」
こんなやりとりを繰り返しながら、やっと診察の順番がやってきました。張り切りすぎたせいで、とても苦しい思いをすることになってしまいました。
「こんにちは。だいぶお待たせしてしまって申し訳ありません。今日は採卵の人が結構多くて…」と、手術着のT先生が診察室で迎えてくれました。
私は、昨晩一睡もできなかったことや、尿だめを頑張りすぎてすでにおなかが痛いことなどを説明しました。するとT先生は…、
医師「あらら~。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。採卵を乗り越えられた女性なら、本当に移植はなんともないです。今日の血液検査の結果なのですが、ホルモン値は192と22でちょうどいいですし、エコー検査の結果では子宮内膜も14mmと厚くてばっちりですね。予定通り移植しましょう」
私「よかったです。それより、尿だめの話を聞いてはりきって麦茶を飲みすぎて、もうお手洗いに行きたいのですが、移植は何時頃ですか?」
医師「あ、そしたら個室に移ってもらって、着替えてください。すぐに移植できますよ」
こんな場面でお漏らしをしたら恥ずかしすぎるし、もう気が気ではありませんでした。看護師さんに促されるまま、採卵の時と同じ個室へ。また給食帽のような不織布のキャップと病院の術用ガウンを羽織って待機。夫は心配そうに見守ります。
私「あぁ、もうおトイレに行きたい」
夫「あとちょっとだから辛抱してよ」
私「そうは言ってもここで漏らしたら大変でしょ」
夫「伝説になるな」
私「そんな伝説、残したくないよ(笑)」
こんな調子で、移植日はずっとトイレの話をしていました…(汗)。移植は採卵と違って事前の点滴がなく、看護師さんに呼ばれたらそのまま歩いて採卵の時と同じ部屋へ移動しました。はじめてここに入った(採卵の)時は不安な気持ちで涙がこぼれそうな勢いでしたが、今回の移植は「あぁ、この部屋ね!」という余裕と、一刻も早くトイレへ行きたいという切羽詰まった状態が入り交じった複雑な気分でした。
内診台に座り、採卵の時と同じように足をベルトのような器具で固定され、上半身がゆっくりと倒されて仰向けに。するとT先生が「エコーの機械でおなか見ますね~」と言いました。モニターには真っ黒く映った大きな影。なんだろう? と思っていると…、
医師「うわ~、本当だ、膀胱がパンパン。これは苦しいね。でも頑張ったおかげで、子宮の様子がとてもよく見えますよ」
と言われました。全身全霊の私の努力が報われた気がしました。
私「はい…」
モニターに映った真っ黒の大きな物体は尿がたまった膀胱。子宮の様子もいつもよりかなり鮮明に映し出されていて、子宮内膜もはっきり見えました。よかった! しかし、息をするだけでも漏れそうなくらいしんどかったです。エコーでおなかをぐりぐりされるたびに呼吸が早くなりました。あぁ、大事な移植のタイミングで私は何をやっているのだか…。
痛くないと聞いていたのに! 移植中に一番つらかったこと
「早く移植して…」という私の願いもむなしく、足元ではT先生が何やら機械をカチャカチャしていました。
医師「今日、ウトロゲスタン使ってますよね?」
私「はい」
医師「まず入口のオリモノの掃除をします。ちょっと痛いけれど頑張ってね」
私「…! かなり痛いんですけれど。痛い。痛い。イタッ!」
医師「もうちょっとで終わるから、頑張って」
結論から言うと、私の場合は初めに行ったこのオリモノの掃除をするという処置がすごく痛かったです。耐えられるレベルの痛みが10だとすると、9に近い8くらい。
お掃除が終わると、モニターを見ながらT先生が管のようなものを入れて、真剣な表情で調整をしていました。卵ちゃんは内膜の中心に移植するそう。ドキドキしながら私もその作業を見守りました。管がいい位置に入り調整が終わると、T先生はそのまま「卵持ってきて」と指示。しばらくすると、両手で大事そうに何かを持った男性が部屋に入ってくるのが見えました。…卵ちゃんだ!
そしてその男性スタッフは、私の足元でびっくりするくらい大きな声で「移植します!」と叫びました。すると、T先生もいつもの10倍くらいの声量で「お願いします!」と叫んだのです。その時でした。
私がモニター越しに見つめていた子宮内膜の上に、まるで流れ星のように真っ白な光が、ぴゅーっと飛び込んでいくのが見えたのです。すごい! 生殖医療の輝き。神秘の光。それはまさに私と夫の受精卵が内膜の上に着地した瞬間でもありました。気が付くと、目から涙がぽろぽろ落ちていました。
医師「終わりましたよ」
とても長いように感じた移植ですが、終わってみるとあっという間でした。
私「先生、私、白く光って卵が入って行くのが見えました。思っていたより大きいんですね」
医師「あ、あの光みたいなのは空気なの。でもあのタイミングで移植してるから、いい位置に入りましたよ。お手洗いも行っていただいて大丈夫です。卵も落ちないから心配しないで」
そう言ってT先生はいつものおだやかな口調でにっこり。私は看護師から「クロサワキコさん BB 子宮内膜14cm」と書かれた紙を受け取り、その足ですぐにおトイレへダッシュ。移植が成功した喜びに浸る間もなく、漏らさずに済んだ安堵感に包まれました。トイレの鏡に映った私の顔は真っ青。本当に危なかったのです。そんなこんなで、夫が待機している個室へ。
次回は移植のあとに少し後悔してしまった話をしようと思います。
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TOP画像/(c)Shutterstock.com
※この記事は2020年の内容です。最新情報は厚生労働省HPをご確認ください。
クロサワキコ
34歳・主婦ライター。妊活歴3年目。男性不妊の治療や人工授精に体外受精、ステップアップを重ねていくなかで感じた不妊治療のリアルな本音を発信しています。