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「ありんす」とは?
「ありんす」とは、「あります」「〜です」という意味です。主に江戸時代の遊郭・吉原にて使われていた言葉で、「ありんす言葉」や「花魁言葉(おいらんことば)」「廓言葉(くるわことば)」「里言葉(さとことば)」「遊里語」などとも呼ばれます。
ちなみに「花魁」とは、江戸の吉原における上級の遊女のこと。「花魁」といえば、華やかな衣装に身を包み、見習いの遊女を引き連れて練り歩く「花魁道中」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。遊女の中でも最上級ともいえる「花魁」と一夜を共にするのは、非常にお金のかかるものであったそうですが、だからこそ男性にとっては憧れの存在でもあったようです。
「ありんす」が使われていた理由とは?
では、なぜ吉原の遊女たちは、「ありんす」という言葉を使っていたのでしょうか? その理由は、遊女たちの出身地を隠すためだったと言われています。当時の遊女たちは、都会出身の者だけではなく、田舎から出てきた者も多かったそう。しかし、遊女たちは男性に夢を売る職業でもあり、地方のなまりがあると、その幻想を壊してしまいます。
そのため、どの地方出身でも、一様に「垢抜けていて艶やかな女性」を演出するために「ありんす言葉」を用いるようになったのだとか。また、身元を隠したいと考える遊女もいたため、「ありんす言葉」は遊女たちにとっても都合が良いものだったそうです。
そのほかの「ありんす言葉」を紹介!
続いて、「ありんす」以外に当時の遊女たちが使っていた言葉を紹介します。中には、時代劇や歴史物のドラマなどで一度は聞いたことがある言葉もあるでしょう。意味も解説しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
1:あちき、わちき、わっち
「わっち」「わちき」とは、「私」という意味です。これも、遊女たちの出身地を隠す目的で使われていた「ありんす言葉」なのだとか。なお、位の高い遊女は「あちき」「わちき」、それより下の遊女は「わっち」を使っていたようです。
2:ござりんす
「ござりんす」は、なんとなく意味が想像できるのではないでしょうか? 「ござりんす」は、「ありんす」と同じく「〜です」といった意味合いで、「ありがとうござりんした」などと使われていたようです。
3:ざんす
「だ」「である」の意の丁寧語で、「です」「ございます」という意味。「何ざんすか」というように使われていたようです。
4:おさらばえ
「おさらばえ」は「さようなら」です。現代でも、別れの挨拶を「さらば」と言いますよね。「さらば」は、ややぶっきらぼうなイメージですが、「おさらばえ」だと艶やかで女性らしい響きになるのが不思議です。
5:主(ぬし)
「主」とは、お客さんのことをあらわし、尊敬に値する人に対しても用いられていたのだとか。また、二人称の「あなた」という意味でも使われ、「主さん」「主」「お主」と言っていたようです。
吉原の各遊女屋で使われていた「ありんす言葉」とは?
吉原を代表する遊女屋には、「扇屋」「玉屋」「丁子屋」「松葉屋」の4つがありました。江戸時代には、「私 扇屋 知ったか 玉屋 ざんす 丁子屋 おす 松葉屋」と言われました。これは、吉原の特殊な廓言葉のうち、妓楼による特徴を並べたものです。
ここでは、それぞれの遊女屋で使われていた「ありんす言葉」を紹介しましょう。
1:扇屋
扇屋での丁寧語は「〜だんす」。例えば、「そうだんす」「はばかりだんす」などと使っていたそうです。また、「きさんじなもんだね」という言葉もあったよう。これは「ダメだね」「洒落ている」といった相反するような2つの意味が含まれていた言葉だったそうです。
2:玉屋
玉屋の遊女は、人を呼ぶときに「こんなこんな」と言ったり、振られることを「ちゃきちゃき」と言ったのだとか。また、当時流行った言葉は「ぼちぼち」。モテる客が、遊女と仲良くなったことを意味するそうです。玉屋の遊女は、ほかの遊女屋に比べてユニークな「ありんす言葉」を話していたようですね。
3:丁子屋
「ありんす言葉」の丁寧語である「ざんす」は、もともと丁子屋で使われていたものだったとか。他にも、「あなたのお好きなように」を「どうともしなんし」と言うなど、丁子屋の遊女たちの特徴と言える言い回しがあるようです。
4:松葉屋
松葉屋では、「〜でございます」を意味する「〜おす」がよく使われていたそう。例えば、「嬉しおす」「じれっとうおす」など。また、「来ました」を「来ぃした」と言っていたようです。
今でも使われている「ありんす言葉」とは?
実は、現在でも私たちが当たり前のように使っている言葉の中には、「ありんす言葉」で使われていたものがあります。ここでは、現代にも残っている言葉をいくつか紹介しましょう。
1:あがり
お寿司屋さんで聞く、「あがり」。「あがり」とは、お客さんに出すお茶のことです。遊郭では、お客さんのとれない遊女は、お茶をひいて時間を持て余していたそう。お茶をひくことは人気がないことを意味するため、縁起が悪いこととされていたのだとか。そこで、お茶のことを「上がり花」と表現するようになり、それがやがて「あがり」に変化したと言われています。
2:アタリメ
スルメのことをアタリメとも言いますが、「ありんす言葉」でもそう呼ばれていました。人から金品を盗み取ることを「掏る(する)」と言うため、当時、スルメは縁起の悪い言葉とされていたそう。そこで、スルメのことを「当たり目」と言い換えて使っていたことから、現代でもスルメのことをアタリメと言うそうです。商家、興行界などで使われていました。
3:馴染み
「馴染み(なじみ)」には慣れ親しんだ人のことを指す意味があります。「馴染み」という言葉は、鎌倉時代には使われていたという記録がありますので、語源というには少々異なりますが、遊里で同じ遊女のもとに通いなれることも「馴染み」と言いました。江戸吉原などでは、同じ遊女のもとへの3回登楼したら、「馴染み」として特別の待遇をうけたそうです。
最後に
当記事では、「ありんす」の言葉の意味や、そのほかの代表的な「ありんす言葉」を解説しました。「ありんす言葉」は独特な表現も多いですが、それが遊女としての艶やかさや上品さを演出するためのものだったとは意外でしたね。また、当記事で紹介した通り、現代でも使われている「ありんす言葉」はいくつもあります。それを探してみるのも面白いかもしれません。
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