「ご飯論法」とは?
「ご飯論法」という言葉、聞いたことありますか? 政治や国会に興味がある人は、耳にしたことがあるかもしれません。聞いたことがない人は「政治の話題でなんで、ご飯の話が?」と不思議に感じることでしょう。
ここではまず、「ご飯論法」の意味について確認していきます。
意味
「ご飯論法」とは、議論の際に追求を逃れるため、わざと論点をずらして回答すること。「朝ごはん(朝食)は食べましたか?」という質問に対して、実際はパンを食べたにもかかわらず「ご飯(米)は食べていない」と答える例から「ご飯論法」という名前がつきました。
「ご飯論法」は、法政大学の上西充子教授の旧Twitter上でのつぶやきがきっかけとなり、生まれた言葉。2018年、国会で加藤勝信厚生労働大臣と野党の答弁を聞いていた際、その議論の噛み合わなさを、上記の「朝ごはん」の例を用いて比喩しました。
このツイートは話題を呼び、ブロガーの紙屋高雪さんが「ご飯論法」と命名。その年には、「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10に選出され、二人は共同受賞をすることになったのです。
事例
事例として挙げられるのは「ご飯論法」という言葉が生まれるきっかけにもなった、当時の加藤厚生労働大臣の答弁。当時、安倍政権下で進められていた働き方改革関連法案に基づく、高度プロフェッショナル制度に関する答弁が行われていました。
しかし、「ご飯論法」が大きな話題を呼んだ理由は、そういった答弁が一度ではなく、これまでも、そして現在でも多く見られることにあります。過去に話題となったのは、国有地が安価に売却された森友学園問題、獣医学部新設の経緯が問題視された加計学園問題、税金が私的利用された可能性がある桜を見る会問題、日本学術会議の任命拒否問題など。
それらの問題を追及された際の首相、大臣、政府高官の答弁が「ご飯論法」であると言われています。
例文で使い方をチェック!
政治とご飯、一見相入れないように見えるふたつの言葉ですが、「ご飯論法」については理解できましたか? 言葉が生まれたきっかけは国会答弁でしたが、そのような言い逃れは日常生活で耳にすることもありますよね。意味がわかればユーモアすら感じる「ご飯論法」という表現。日常の会話でも使える例文をチェックしてみましょう。
父親に学校で起こした問題について追及されたら、ご飯論法で切り抜けよう。
「ご飯論法」とは、明言したら非難されることが分かっていたり、後ろめたい気持ちがあるなど、追求をのがれたいときに使うもの。時間を稼ぐことで相手の怒りが落ち着くかもしれません。
昨夜の帰宅が遅かったことを問いただしても、夫はご飯論法ばかりだ。
「ご飯論法」は、一見質問に答えているように見えて、答えていないことが特徴。相手が論点をすり替えられていることに気づかず、次第に混乱して追求できなくなったり、追及する気をなくすこともあります。
無意味なご飯論法はやめて、腹を割って話そう。
「ご飯論法」は、その意味や経緯、事例からもわかるように、決して推奨されるものではありません。個人的な事情や時間の制約など、背景には様々で複雑な状況があるにせよ、相手と真摯に向き合わない、ずる賢い手段とも言えます。むやみに「ご飯論法」を繰り返していると、相手の信用を失ってしまうかもしれません。
類語、言い換え表現とは?
「ご飯論法」は、比喩から生まれたために、その字面から意味が推測しづらい上に、国会答弁など政治的な知識がないと、その意味を知らない人も多そうです。実際、流行語大賞にノミネートされた際には、「もっとも流行していないと思うものは?」というアンケート結果で「ご飯論法」が2位に選出されてしまいました。
では、「ご飯論法」と言いたい時は、どのような言葉で言い換えることが可能なのでしょうか?
言い逃れる
「言い逃れ」とは、うまく弁解して、責任を逃れようとすること。「言い抜け」ともいいます。追求を逃れるために、とにかく何か話す点が「ご飯論法」と同じです。
言葉巧み
「言葉巧み」とは、話し方や口先がうまいこと。「ご飯論法」が成り立つのは、意味のない内容でもスラスラと話したり、難しい言葉を並べたりして、まるで質問に答えているかのように聞こえてしまうから。よく聞いていないと、論点がずれていることに気づかないのです。
すり替える
「すり替える」とは、人に気づかれないように、別のものと取り替えること。「ご飯論法」は、質問の内容の核心には触れず、歪んで捉えて別の視点から答えます。まさに「論点のすり替え」といえます。
きな粉餅論法とは?
「ご飯論法」と同じく、政治家の答弁を揶揄する「きな粉餅論法」という言葉を知っていますか? きな粉餅論法は、明らかにその人がやったという状況が揃っていても、直接的な証拠にはならないと言い張って、追求を逃れることです。野党議員が、笑い話として紹介したのがきっかけだそう。
きな粉餅論法という名前の元となった例え話は次の通り。ひとつだけあったきな粉餅がなくなっていた時、その部屋の中にたった一人でいた人間の口にきな粉がついていたら「あの人がきな粉餅を食べたな…」と思うでしょう。
しかし、その人に「きな粉餅を食べました?」と聞くと「食べていない」と。そこでさらに「口にきな粉がついているよ」と追及すると「口のきな粉については現在調査中だ」と答えるのです。
獣医学部新設の経緯が問題視されている加計学園問題において、当時の安倍首相は頻繁に加計理事長と食事やゴルフを楽しんでいたそう。しかし、問題の話題については「一切聞いたことがない」と主張。「それはあり得ない」と考える人たちに「きな粉餅論法」と比喩されています。
ストローマン論法とは?
「ストローマン論法」という言葉もあります。相手の意見を捻じ曲げて捉え、それを論破することを意味します。ストローマンとは、日本語で藁人形のこと。倒しやすい相手の比喩として用いられています。
相手の意見の全体ではなく、一部分だけを切り取って扱うことで、極端な印象を持たせたり、本来の意味とは違う印象を持たせたりして、論破しやすくするのです。歌手の宇多田ヒカルさんが、歪んだ情報を元に論争が起きることに疑問を抱き、ツイートしたことがきっかけで、もともとあった「ストローマン論法」という言葉が話題になりました。
最近では、橋下徹氏がロシアのウクライナ侵攻に関して、日本国内でも当時「戦え! 一色」のムードがあったという内容のツイートをした際、そのような風潮はなかったと反論する人達から「ストローマン論法」ではないか、との意見も出ました。
最後に
「ご飯論法」について、意味や使い方、言い換え表現まで解説しました。また、「きな粉餅論法」や「ストローマン論法」も紹介。議論は政治だけでなく、身近な生活の中でも大切にしたいもの。どんな問題も、有意義な議論をして効率的に解決していきたいですね。
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