支払いを勤務先に申告すること、それが年末調整
年末調整とは、納税者が所得税などの税額に影響を与える支払いを勤務先に申告することです。年末調整を行うと、正しく税額が計算され、源泉徴収によって税金を多く払い過ぎたときは還付、税金が少なすぎたときは追加徴収されることがあります。
勤務先から給料を受け取っている人は、給料の中から税金が差し引かれていることが一般的です。しかし、その年に課税対象額や税額そのものが変わるような支払い、例えば生命保険料や住宅ローンの返済などがあった場合には、税金の過払いや不足が生じているかもしれません。
勤務先から渡される申告書に正しく記入し、申告した内容が正しいことを証明する書類、例えば生命保険料を支払った証明書などを添付して年末調整を行いましょう。申告書が受理されると、税額が正しく計算され、還付や徴収が実行されます。
確定申告との違い
年末調整では、勤務先を通して税額の調整手続きをします。しかし、すべての人が勤務先で所得税などを源泉徴収されているのではありません。例えば個人事業主などの自分で税金を納めている人は、年末調整ではなく確定申告で税額の調整手続きを行います。
また、実施する時期も年末調整と確定申告では異なるので注意しましょう。年末調整はその名の通り、年末にその年の税金に関わる調整を行いますが、確定申告は1年分の税金に関わる申告や調整を翌年の2~3月頃に行います。時期がずれているため、年末調整で手続きを忘れた場合には確定申告を利用することも可能です。
確定申告と年末調整を併用するケース
通常、会社員や公務員などの給与取得者は、年末調整だけで税額の調整手続きは終えられます。しかし、以下のようなケースでは年末調整と確定申告を併用することに。
・年末調整で保険料控除などの手続きをし忘れたとき
・医療費控除の手続きが必要なとき
・住宅ローンを開始した翌年
・副業による所得が20万円を超えているとき
住宅ローン控除については、以下の「その他の控除」で詳しく解説します。
年末調整で申請できるもの
年末調整で申告できるのは、控除を受けられるものです。控除とは差し引くことを意味する言葉で、控除が多いと税額が減ることがあります。
また、控除には「所得控除」と「税額控除」の2種類があるので覚えておきましょう。所得控除とは課税所得額を減らす控除のことで、年末調整で申請できる生命保険料控除や地震保険料控除、配偶者控除などが該当します。
例えば収入から必要経費(給与所得者の場合は給与所得控除など)を差し引いて求めた所得額が500万円、生命保険料などの所得控除額が100万円とすると、課税所得額は400万円です。
課税所得額が330万円~694万9,000円のときに適用される所得税率は20%なので、課税所得額が100万円減ったことで所得税額は20万円節税できる、と考えられますね。
一方、税額控除は税額そのものが減る控除のことです。住宅ローン控除などの制度が、税額控除に該当します。控除額が節税額となるので、所得控除に比べて大幅な節税効果を期待できるでしょう。
生命保険料控除
生命保険料控除とは、一般生命保険や個人年金保険、民間の介護医療保険などに加入し、保険料を支払っているときに適用される控除制度です。それぞれの年間保険料に応じて最大12万円の所得控除を受けられます。
ただし、一般生命保険と個人年金保険については、保険契約日が2011年12月31日以前のもの(旧制度)は保険料控除の計算方法が異なるので注意が必要です。加入するすべての生命保険契約が旧制度に該当するときは、生命保険料控除の上限額は10万円になります。
一方、2012年1月1日以降に契約した生命保険(新制度)と旧制度の保険契約が混在している場合、あるいは、すべての保険契約が新制度のものの場合は、生命保険料控除の上限額は12万円です。
年末調整で手続きをする際には、保険会社から送付される控除証明書のハガキが必要になります。ハガキに新制度か旧制度か記載されているので、間違えずに年末調整申告書に書き写しましょう。
万が一、ハガキを紛失した場合は、保険会社に再発行を要請してください。再発行までに時間がかかることもあるので、年末調整手続きに間に合うように早めに保険会社に連絡しましょう。
生命保険料控除は、他の所得控除と比べると計算が少し複雑になります。「年末調整書類の書き方|申告できる6つの控除制度についてわかりやすくご紹介」で詳しい年末調整申告書の書き方を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
地震保険料控除
地震保険の契約をしている場合は、年間保険料によって最大5万円の所得控除を受けられます。年末調整で手続きをして、所得税等を節税できるようにしましょう。
生命保険料控除と同様、保険会社から控除証明書のハガキが自宅に送付されます。年末調整申告書を提出するときに添付する必要があるので、大切に管理しておきましょう。万が一、紛失したときは、再発行に時間がかかることもあるため早めに保険会社に連絡をします。
なお、地震保険は5年、10年と長期間まとめて契約することが多い保険です。保険料をまとめて支払っている場合も、その年の保険料に該当する金額に対して地震保険料控除を申請することができるので、契約2年目以降も忘れずに手続きをしましょう。
保険会社からはその年の保険料に対しての控除証明書が年に1回送付されます。自宅に届いていないときは保険会社に問い合わせ、年末調整の期間内に控除手続きを終えられるようにしておきましょう。
社会保険料控除
会社員や公務員などの給与所得者は、通常、年金保険や健康保険、介護保険などの社会保険に関しては給与から天引きされています。加入している社会保険について、すべての保険料が給与から天引きされている場合は、年末調整で社会保険料控除の手続きをする必要はありません。
しかし、個人的に国民年金保険料や国民年金基金などに加入し、保険料を支払った場合は、社会保険料控除の申請ができます。支払った保険料全額が控除額になるので、忘れずに申請するようにしましょう。
なお、社会保険料控除の手続きをするときは、納付したことを証明する書類を添付する必要があります。日本年金機構などから送付された証明書類を忘れずに提出しましょう。
小規模企業共済等掛金控除
iDeCoなどの小規模企業共済等掛金を支払った場合は、掛金全額が所得控除額になります。掛金を支払った証明書を添えて、年末調整で申告をしましょう。
ただし、給料からiDeCoなどの小規模企業共済等掛金が天引きされている場合には、年末調整の手続きは不要です。年末調整申告書にもiDeCoの掛金等を記入する必要はありません。
配偶者特別控除
配偶者の合計所得金額が133万円以下のときは、配偶者特別控除を申請することができます。自分自身の所得と配偶者の所得によっては最大38万円の所得控除を受けられるので、忘れずに申告するようにしましょう。
配偶者特別控除の手続きには、配偶者の源泉徴収票などの所得を証明する書類の提出が必要です。配偶者がパートなどで給与所得を受け取っている場合だけでなく、自宅でクラウドソーシングなどにより収入を得ている場合も、それぞれの収入・所得を証明する書類が必要になるので受け取っておきましょう。
なお、配偶者の合計所得金額が133万円を超えるときは、配偶者特別控除の対象ではなくなるため、年末調整申告書の当該部分を記入する必要はありません。
基礎控除
令和元年度までは、年末調整において基礎控除の手続きをする必要はありませんでした。合計所得金額に関わらず基礎控除額は一律38万円と決められていたので、自動的に所得控除として計算され、課税所得額が減額されていたのです。
しかし、令和2年度以降は、合計所得金額によって基礎控除額が0円、16万円、32万円、48万円のいずれかが適用されるようになったので、年末調整時に申告して正しい控除額が適用されるようにします。
なお、合計所得金額が2,400万円以下の人は基礎控除額は48万円です。そのため、ほとんどの人は令和元年度以前よりも、基礎控除額が10万円増えます。
その他の控除
納税者本人が障害者であるときや寡婦、ひとり親、勤労学生であるときは27万円~の所得控除を受けられます。また、扶養親族がいる場合は38万円~の所得控除対象です。該当する場合は忘れずに年末調整で手続きをしておきましょう。
そのほかにも、住宅ローン控除が適用された2年目以降は年末調整で手続きが必要です。住宅ローンの返済を開始した年の翌年は確定申告で手続きをしますが、その年の年末調整からは確定申告ではなく年末調整でも手続きができます。
住宅ローン控除は所得控除ではなく税額控除なので節税効果が大きく、年に最大50万円もの所得税等を減額することが可能です。年末調整用の申請書類が税務署から送付されるので、忘れずに手続きしましょう。
年末調整で知っておきたいポイント
年末調整の手続きをすることで、所得税などの税額を減らすことが可能です。勤務先で手続きをするように言われたときは、期限内に書類を記入し、控除証明書などを添付して提出しましょう。
年末調整に関して知っておきたい以下の3つのポイントについて解説します。ぜひ参考にしてください。
還付金を受け取るタイミング
年末調整は11月~12月頃に行いますが、還付金を受け取るのは12月~翌年1月頃です。受け取り方は勤務先によっても異なります。
給料に上乗せして還付されることもありますが、給料とは別途に現金あるいは振込で還付されることもあるでしょう。給料と一緒に還付される場合には、給料明細に年末調整の金額についても記載されているので確認してください。
還付金を受け取れる人とは?
年末調整の手続きを行い、課税所得額が減った場合は、還付金を受け取ることができます。反対に課税所得額が増えた場合は12月~翌年1月の給料から徴収されるため、普段よりも手取りが減ることがあるでしょう。
医療費控除は確定申告で手続きをする
所得控除や税額控除のすべてを年末調整で手続きできるわけではありません。例えば、実際に支払った医療費の年間合計金額が10万円(総所得額が200万円未満の人は総所得額の5%)を超えた場合は、医療費控除の対象となります。しかし、医療費控除の手続きは年末調整ではできないので、確定申告が必要です。
また、寄付金をした場合には寄付金控除の対象となることがありますが、これも年末調整で手続きできないので確定申告を行います。翌年の確定申告で対象となる控除手続きを行いましょう。
年末調整の新しい流れ
年末調整の手続きは決して簡単とはいえないでしょう。正しく数字を記入することや控除証明書などの必要書類を提出することなど、手間がかかる作業も少なくありません。
年末調整の手続きを少しでも簡便化するために、次のような新しい流れも生まれています。
それぞれについて詳しく解説します。
2020年10月以降は電子化に対応
2020年10月から、年末調整の手続きは電子化に対応しました。保険会社や税務署で受け取る控除証明書類も電子化に対応し、紙の書類なしに年末調整手続きが行えるようになっています。親族の年齢によって控除額が変わる扶養親族控除なども、自動的に年齢をカウントして正しい控除額が計算されるので、手続きのミスを減らせるメリットも期待できるでしょう。
2021年以降は押印不要に
2021年の年末調整からは、書類作成に押印が不要になります。例えば扶養控除や保険料控除、基礎控除、配偶者控除、住宅ローン控除の手続きにおいては、押印なしに手続きをすることが可能です。
2024年の年末調整での変更点
定額減税が大きく話題になっていますが、これについても変更があります。そのほか、住宅ローン控除適用の手続きの変更、海外に住んでいる親族への「送金関係書類」の提出書類範囲が追加されること、書類の簡素化(保険控除等申告書、保険料控除申告書)などの変更があります。
詳しくは国税庁からの発表を注視しましょう。
年末調整の手続きを期限内にして節税しよう
年末調整の手続きをすることは、多くの場合、節税につながります。年末は何かと忙しいですが、面倒に思わず、正しい書類を添えて手続きをするようにしましょう。また、所得証明書などの添付書類を紛失しているときは、早めに再発行手続きをしてください。
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