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「忖度」の正しい意味とは?
◆「忖度」の意味は「相手の気持ちを推し量る(察する)こと」
「忖度」は「そんたく」と読み、相手の心中や考えを推し量ること、推し量って相手に配慮する、という意味で使われます。「忖」も「度」も量る、という意味合いが含まれていますから、つまり忖度するというのは、自分なりに考えて相手の気持ちや考えを推測する行為を表します。
相手の立場になって気持ちを推し量る、あるいは、その場の空気を読むということ自体は決して悪いことではなく、むしろ仕事や友人関係、家族や近所付き合いなどさまざまな場面で無意識のうちに行っていることかもしれません。
会話の中でも「そのぐらい察してよ」という発言を聞いたり、言ったりしたことがあるはずです。もともと「他人の気持ちを推察する」という意味で使われることが多く、相手を思いやる、相手に対する思いやりを表す言葉なのです。
しかし近年、政治情勢の中で「忖度」という言葉が何度も使われたことがきっかけで多くの人がこの言葉を耳にするようになりました。そのせいか、推量したうえで「何か配慮して行動する」という意味でとらえられる場合が多くなり、本来の意味とは異なるマイナスイメージを伴って使われているようです。
◆「忖度」の語源について
「忖度」の歴史は古く、中国最古の詩篇である『詩経』で「他人有心、予忖度之」と使われていました。日本でも平安時代の漢詩集『菅家後集』の中で「忖度」という言葉が使われています。
その後、明治時代になると一般的に用いられるようになり、夏目漱石や与謝野晶子らの作品の中にも見られます。ただし、当時から「相手の心中やその考えなどをおしはかること」「推量する」といった意味合いで用いられ、それ以上のニュアンスはありませんでした。
◆「忖度」という言葉が知られるようになった経緯
「忖度」は2017年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にも選ばれ、当時は「忖度」を冠した「まんじゅう」「シャツ」「弁当(御膳)」なども販売されました。
「忖度」という言葉がにわかに注目を集めるきっかけとなったのが、2017年に明らかになった「森友学園問題」です。この時、国会での答弁で何度も発言されたのが「忖度して」「忖度したと思う」というフレーズでした。
それまで、「忖度」は推量し相手に配慮する意味で使われるのが一般的でしたが、この答弁を機に、自分よりも立場が上の人間の心情を汲み取り、それに配慮した行動をする、というニュアンスとしてとらえられるようになったのです。
それ以来、国会の外でも日常的に使用されるようになり、「相手の気持ちを推察する」という本来の意味は、自分より立場が上の相手に対して「顔色を窺う」「機嫌をとる」などネガティブな意味合いへと変化していったようです。
「政権の意向をメディアが忖度する」といった使われ方は、まさに顔色を見ながら… という皮肉を込めたニュアンスですね。
「忖度」の使い方を例文でチェック
「失恋した友人の気持ちを忖度して、飲み会を開いた」
この使い方はもっとも「相手の気持ちを推し量る」の意味に近いといえるでしょう。言葉に出さなくても、相手の気持ちを察する、状況に応じてくみ取る、というのは相手を思いやることです。
「試合に負けた選手の気持ちを忖度して、言葉を選んで話した」
試合に負けた選手を前にすると、どんな言葉をかけていいのか悩んでしまうものです。そんなとき、選手たちがどんな心境なのかを察して、想像してみましょう。そういう気配りを表す言葉が「忖度」です。
「彼は取引先に対しては、何事も忖度する人。そのおかげで、直前で計画を変更して大成功だった」
「忖度する」ということは、いちいち伺いを立てるのではなく、自分で推測することです。仕事においては、顔色を窺うというよりも、相手の状況を把握して先回りして対応する、という行動がそれに当たります。
「忖度」の類語はどのようなものがある?
推測(すいそく)
ある事柄をもとにして推量すること。似た言葉では「推察」がありますが、こちらは人の事情や心中を想像したり察したりすること、思いやる、という意味を表します。
斟酌(しんしゃく)
相手の心情や事情をくみ取ること、またくみ取って手加減すること。「忖度」と「斟酌」は「相手の心情をくみ取る・考える」という点では、あまり違いがありません。
ただし、相手の心情を推し量った上で、それを汲み取り「手加減をした」という場合は「斟酌」を使うのが一般的です。それ以外の「相手の心情をおしはかる、察してあげる」場合には「忖度」を用いるのがいいでしょう。
顧慮(こりょ)
周囲の事情を深く考えて、それに気遣いすること、心を配ること。「慮」という字は「慮る」、深く考えて考慮する、思い巡らすという意味ですが、「顧慮」や「配慮」などは相手に心を配ること、気を遣うという点で類義語といえます。
「忖度」の対義語はどのようなものがある?
独善(どくぜん)
ひとりよがり、自分だけが正しいと思い込むこと。他人のことは無視して、自分の考えや利益だけを優先させようという考えや言動をさします。
身勝手・利己的(みがって・りこてき)
自分の都合・利益だけを考えてふるまう自分の利益だけを考え、他人の立場などを考えないで行動するさま。相手が求めていることを推測するという「忖度」とは真逆の行動といえますね。
わがまま・KY(けーわい)
「忖度」は察する、空気を読むことですから、他人のことを考えず自分勝手にふるまう意味を表す「わがまま」、空気が読めない「KY」は対義語になります。
「忖度」の英語表現もチェック
guess(推測する・推量する)
英語に「忖度」を意味する単語はありませんが、「推測する」の意を表す単語の一つにあげられます。
surmise(推測する)、conjecture(推測)
「忖度」が注目されるきっかけとなった森友問題で、森友学園の元理事長が日本外国特派員協会で会見を行った際、通訳はこんな単語を用いました。
「英語通訳で少々混乱を招いているようで、何通りかの言い方がありますが」と前置きしたうえで、この単語について解説していたといいます。
reading between the lines(行間を読む)
reading what someone is implying(誰かが暗示していることを汲み取る)
前記と同様に日本外国特派員協会での会見で通訳した方が紹介した英訳です。行間を読む、というのは、そこに書かれていないが、そこにある空気、雰囲気、気配を察する、というニュアンスですから、確かに「忖度」と似ているかもしれませんね。
最後に
「忖度」は最近では「権力のある人へ媚びる」という意味合いで理解する人が多くなり、ネガティブなイメージで使われがちですが、もともとは「相手の気持ちを推し量る」という相手への気配りや気遣い、察する、という思いやりのある言葉です。
忖度は決してネガティブな意味合いを持つ言葉ではなく、人間関係において、欠かせないものといえるのかもしれません。
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