「心の不調」が引き起こす症状には、副作用の少ない漢方を
仕事、恋愛、育児…。忙しい毎日を送っていると、知らず知らずの内に「心」の不調が生じていることも少なくありません。何となく気持ちが落ち着かない、些細なことにイライラしてしまう、夜眠れない。こんな症状があるときは「心」が悲鳴を上げているサインかも知れません。放っておくと、心身に重大な影響をもたらすことも…。
そんなサインに気づいたときにおすすめなのが漢方薬です。副作用が少なく、手軽に購入できる漢方薬は全身の様々な不調に対するセルフケアの強い味方。「心」の不調に対して効果があるものも多くあります。
【目次】
・そもそも不眠ってどんな症状?
・不眠に効く漢方。それってどんなもの?
・イライラに効く漢方。それってどんなもの?
そもそも不眠ってどんな症状?
実は「不眠」は正式な医学用語ではありません。一般的には、寝つきが悪い、眠りが浅い、夜中や明け方に目が覚めてしまう、など睡眠の長さや質が低下する症状全般のことを指します。
このような睡眠の障害を引き起こす原因は様々あり、身体の痛みを引き起こすケガや病気、頻回な咳が出る風邪や睡眠時無呼吸症候群のように熟眠を妨げる症状が現れる病気など身体的な不調が原因のこともあります。気温や寝具の状態など環境的な要因もあるでしょう。しかし、ストレスや悩みなど精神的な原因によって不眠に悩まされている方も少なくないのが現状です。
しかも、精神的な原因による不眠は長く続くことが多く、慢性的な寝不足によって日中の活動性が低下したり、気分の落ち込みを引き起こすことも…。
一日に必要な睡眠時間には個人差があります。また、一時的な睡眠の乱れは不眠とは言いません。朝起きたときに「寝足りない」、「すっきりしない」、「眠くて起きられない」… こんな感覚が三週間以上続くときは不眠を疑いましょう。
不眠に効く漢方。それってどんなもの?
◆「不眠」に漢方薬は効くの?
不眠が長く続くと、単に「眠れない」といった症状だけでなく、身体的・精神的に様々な影響を及ぼすことになります。中には集中力や注意力が低下して思わぬ事故につながることも…。私たちが健康的な生活を送るには十分な長さと質のよい睡眠が不可欠です。
そのため、長く続く不眠は治療が必要となります。現在、不眠の治療は、眠気を誘う脳内物質を調整する睡眠薬や不安などを和らげる抗不安薬などを用いた薬物療法が主体となっています。これらの薬物療法は薬の作用によって人為的に眠気を引き起こしたり、心の乱れをストップさせたりすることによって睡眠の改善を目指す治療方法です。
一方、古代中国から続く漢方医学の世界では、薬によっていわば強制的に睡眠の不調を改善するのではなく、不眠を引き起こす体質を改善することで結果として、不眠の解消へ導くことに重きを置いています。漢方医学で用いられてきた漢方薬も直接的に睡眠を誘う作用はなく、良質な睡眠がとれるような体質を取り戻す作用を持ちます。
そのため、即効性はありませんが、服用を続けることによって少しずつ体質が改善され、より自然な睡眠を導いてくれる効果が期待できるとされているのです。
◆「不眠」におすすめの漢方薬
では、不眠によいとされる漢方薬にはどのようなものがあるのでしょうか? 不眠に悩んでいる方におすすめの漢方薬をご紹介します。
もともと体調がよかった方には…
「不眠」に悩まされる前や体調や体力に問題がなく、健康的な生活を送られていた方には次のような漢方薬がおすすめです。
・柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
精神的な不安を感じやすく、それが原因となって「不眠」を引き起こしている方におすすめです。とくに血圧が高めの方、便秘がちの方に適しているとされています。
・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
気持ちが落ち着かず、イライラするといった症状を和らげる効果があります。また、ストレスによる動悸や胃もたれ、胃痛などを改善する効果もあるとされています。気分が高ぶって眠れないという方に特におすすめです。
もともと体調が思わしくない方には…
「不眠」に悩まされる前から体調が悪いことが多く、体力の低下などを自覚されていた方には次のような漢方薬がおすすめです。
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
ストレスによる頭痛やめまい、不安、そして不眠などを改善する効果のある漢方薬です。心の不調による不眠に悩まされている方におすすめで、また女性ホルモンの乱れや更年期障害などによる症状の改善にも有用とのこと。生理前などに不眠になりやすい方にもよいでしょう。
・抑肝散(よくかんさん)
精神の高ぶりや怒りやすさ、イライラといった症状を緩和する効果が知られており、乳児の夜泣きなどにも用いられています。気持ちが落ち着かず寝つきが悪い方におすすめです。
イライラに効く漢方。それってどんなもの?
◆そのイライラの原因は?
些細なことでイライラしてしまう…、原因もなくイライラして落ち着かない…、こんな気持ちの乱れに悩まされたことがある方は少なくないでしょう。
これらイライラの原因の多くは、自律神経の乱れによるもの。自律神経の乱れは、疲れやストレス、環境の変化など様々な要因によって引き起こされますが、女性の場合は生理前や更年期など女性ホルモンバランスの乱れも大きな原因となります。
一時的なイライラであれば、適当にやり過ごすこともできるでしょう。しかし、イライラが長く続くと日常生活に支障を来すだけでなく、睡眠障害や抑うつ気分などを引き起こし、心身ともに重大な影響を受けることも少なくありません。
このため、長引くイライラは軽く考えず、適切な対策や治療を行うべき症状の一つでもあるのです。
◆漢方薬でイライラは改善するの?
イライラを改善するための治療は薬物療法が主体となります。現在広く使用されているのは、神経の高ぶりの原因となる脳内物質の働きを弱めたり、産生量を低下させたりする効果のある薬で、一般的には「精神安定剤」などと呼ばれるものです。
一方、漢方医学の世界では不眠と同じくイライラの原因となる体質を改善して、気持ちが落ち着きやすい状態へ導く効果が期待できる漢方薬が使用されます。
◆イライラにおすすめの漢方薬
では、イライラを改善してくれる漢方薬にはどのようなものがあるのでしょうか? ここではイライラにおすすめの漢方薬をご紹介します。
ストレスが原因でイライラする方には…
・柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
日常的にストレスを感じることによってイライラしやすい方におすすめの漢方薬です。身体にこもった熱を発散させることで心を落ち着かせる効果があるとされ、ストレスに伴う動悸や睡眠障害を改善する効果も期待できます。また、更年期障害の諸症状にも効くとされています。
些細なことで怒りっぽくなった方には…
・抑肝散化陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
自律神経のバランスを整え、気持ちを落ち着かせる効果がある漢方薬です。些細なことで怒りっぽくイライラしがちな方におすすめ。特にストレスを感じることが多くなった、ストレスの耐性が低くなった、と感じる方に効果があります。
また、胃腸の働きを整える成分も含まれているためストレスによる食欲低下などにも良いでしょう。
その他にも不眠やイライラに良いとされる漢方薬は数多くあります。薬局やドラッグストアなどで手軽に購入できるため、どのようなものを選べばよいか迷ったときは薬剤師に相談してみましょう。価格は種類やメーカーによっても異なりますが、1週間分で2,000~3,000円程度が相場です。
長く続けたい場合は、医療機関で処方してもらうこともでき、保険適応となりますので経済的に購入することもできます。
また、漢方薬は基本的に副作用は少ないとされていますが、中にはアレルギーが出たり吐き気などの胃腸症状が現れることもあります。また、「甘草」と呼ばれる成分が含まれるものは高血圧やむくみを引き起こすことも。安全性が高いとはいえ、漢方薬も薬の一種ですので長く続けるときは十分に注意しましょう。
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成田亜希子先生
一般内科医。プライベートでは二児の母。
保健所勤務経験もあり、医療行政や母子保健、感染症に詳しい。
国立医療科学院などでの研修も積む。
日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会所属。