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2020.02.18

生きづらさを抱えている人たちへ。メンタルヘルス支援を行う医者からの「生き方の指針」

幸せに生きることが難しい今の時代に。メンタルヘルス支援を行っている内科医・心療内科医の鈴木裕介先生のアドバイスを伺ってみましょう。

「自分を肯定できずに苦しんでいる人たち」に伝えたいこととは?

「自分はいつも他人に振り回されている」「まったく自分らしく生きられてない」「自分ばかりが損をしている」「今まで自分は何をしてきたのか」「だから私はダメなんだ」「自分なんて」… などの思いを抱えて生きていませんか?

そんな気持ちの人にこそ、知ってほしいこと。研修医時代に近親者の自死をきっかけに、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、さまざまな「生きづらさ」を抱える人たちの話を聴いてきたという内科医・心療内科医の鈴木裕介先生に伺います。

(c)Shutterstock.com

「生きづらさ」を感じている人は「他人のルールに縛られた、NOの言えない人」

多くの人が、他人の社会や社会が決めたルールをNOと言わずに受け入れ、自分のルールよりも優先させてしまっています。他人のルールに縛られずに生きるためには、その人間関係が自分にとって「好ましいもの」であるかどうかをしっかり見極める必要があります。人間関係のあり方やルールを見直し、好ましい人間関係を増やしていくには、何よりもまず「自分と他人の間の境界線をきちんと意識し、守る」ことが大切。

世界は「自分が責任持って守るべき領域」と「他人が責任をもって守るべき領域」に分けられる

世の中には、境界線があいまいな人、境界線をひくのが苦手な人、境界線が正しく機能していない人、ラインオーバー(他人によって境界線を侵害されている)に気づかない人、ラインオーバーされても拒否できない人がいます。

◆例えば、こんな人たち…

・他人(社会)が決めた「〜は常識」「〜は当たり前」「〜するべき」と言ったルールを、絶対守るべきものだと考えてしまう。

・他人(社会)からネガティブな評価を下され、自分でも「自分はダメな人間だ」と思うようになってしまう

・他人(社会)から無茶な要求や不公平な取引を持ちかけられた時、対抗することができず、受け入れてしまう。

相手の言動や相手との関係性にもやもやを感じたら、その段階でラインオーバーされている可能性を考えよう

今まで気づかなかった、あるいは気づかないふりをしていた他人からのラインオーバー敏感になるにつれ、自分が何をされたくないのか、自分にとっていらないものは何か、自分が本当は何を心地よいと感じ、何を求めているのかがわかり始め、「自分の境界線」「守るべき自分の領域」が明確になっていきます。

他人からのラインオーバーに敏感になり、自他の境界線や自分の領域に対する意識が高まった時の対処法

1. ラインオーバーを繰り返す相手はNOの棚に分類する

第三者に相談し、気持ちを伝える努力をしてもダメな場合は、心の中の「NO」の棚に入れ、距離をおくこと。

2. 心のアラームがなった時は、時には他人を嫌っても他人の悪口を言ってもいい

「嫌いになってはいけない」、「仲良くしなければならない」というルールから離れること。自分に嘘をつくのはよくない。

3. 誰かに謝罪をする時は、関係の改善をするためだけに行うこと

「許してもらえるならなんでもする」などの気持ちは、相手からのラインオーバーを許し、自分の人生のコントロール権を手放してしまいやすい。

4. 心が弱っているときは、自分をジャッジする人から離れること

強い言葉や感情をあらわにする人、一方的なアドバイスをする人、ポジティブすぎる人から離れ、自分で生きてきた道筋や今感じていることを、ありのまま肯定してもらえる人と会う(「相対的に安心できる相手」を探すことは大事)。

(c)Shutterstock.com

「我慢は美徳」とは、他人に我慢してもらったほうが都合がいい人たちの勝手なルール

「我慢は美徳」という価値観は、本来の感情を感じる機会を奪い、押さえつけ、今の自分に必要なものを判断する能力を奪っています。それによって疲労、食欲不振・過食、不眠・多眠、うつ症状、イライラなど体や心に症状が出てきます。これは、心と体が崩壊するというアラームが鳴っている状態です。

罪悪感は自分勝手な感情で、関係改善には役に立ちにくい感情である

罪悪感は、一見相手のことを考えているようで、実は相手の気持ちを完全に無視した行為であり、結局誰も幸せにしません。自分の中で物事の優先順位をつけ、その順位づけを忠実に守り、必要があればきちんと断ること。自分の内なる望みを守ることができれば、自分自身を信頼し、自信がもてるようになります。

人生はほどほどにポンコツでもいい

「職場や社会で『良い』とされているものを目指しすぎない」、「人生何事もほどほどにポンコツがいい」。王道ではなく少しだけ横道にそれるだけで、ものすごく楽な世界が広がっています。会社や社良いとされているコースから外れても、全く問題はありません。

「だから(D)私は(W)ダメ(D)なんだ」(DWD病)病を治療して、自分の物語を歩く

DWD病の人は、ありのままの自分を肯定することができません。存在しているだけで自分には立派な価値がある、と思うことができないため、他の多くの人たちが価値を認めてくれそうな立派な看板(学校や職業)を追い求めます。努力を重ねて出した成果を認められ、褒められることで上がるのは、「私には〜ができる」という自己効力感や自己評価であり、「何はなくとも、自分は自分であって大丈夫」という自己肯定感ではありません。

DWD病治療は、病気を認識することから始まります。信頼し、安心できる他人の力を借りながら自分のダメなところを少しずつ受け入れていくことです。

「やりたいことがあることはいいことだ」という思い込みを捨てる

「やりたいことがあるのはいいこと」という考えは、誰かが勝手に決めた価値観にすぎません。本当に自分がやりたいことと、他人に押し付けられたやりたいこととを区別し、自分の生じな気持ちを認めることが大切です。

自己肯定感は「何はなくとも、自分は自分であって大丈夫」という感覚のこと

「自己肯定感を持つこと」=「自己評価が上がること」ではありません。自己評価とは、自分の能力、仕事の成果や努力、容姿などに対し、外部から取り込んだ一定の価値基準(物差し)をもとに、自分自身が下す評価(ジャッジ)のこと。他人の価値観やルールで生き、「評価」というものに縛られ振り回されている限り、人はなかなか、自己肯定感を得ることはできません。自己肯定感を得るために必要なのは、自分を一方的にジャッジせず、自分の欠損や欠点を認めてくれる、信頼できる他人の存在が必要です。

◆自己肯定感を育む3つの必要事項

1. 一人でも二人でも、自分を欠点ごと受け入れてくれる、信頼できる他人がいること(他人への信頼)。

2. そのような他人が存在する「世界」そのものを信頼し、世界とのつながりを感じ、「世界は決して怖くない」、「自分は世界とつながっており、一人ではない」と思えること(世界への信頼)。

3. そのような他人の世界の存在をよりどころにし、「自分は自分であって大丈夫」という、自分自身への信頼感を抱くこと(自分への信頼)。

(c)Shutterstock.com

思考を外在化することで、自己肯定感を損なわずに自分を知る

自分自身を省みることは、自己肯定感を得て、NOと言える力をつけるうえで、非常に有効ですが、自分に対し、頭の中だけで「なぜ」という問いかけを行うのはNG。自分に対していくら「なぜ」を問いかけても、前向きで建設的な答えが出てくることは稀だからです。

自分を省みるやり方として役にたつのが、「思考の外在化」。自分が抱えている問題や悩みを、いったん自分の外に取り出す具体的な方法として「紙に書き出すこと」がおすすめです。

鈴木裕介先生が提唱する「幸せに生きるための方法>」

1.「本当に信頼できる一人目の大人」を探す

2.「心地よくない」「楽しくない」と感じたものは、捨てていい

嫌なことから逃げる、不本意なことを拒否する、合わないことをやめる、はすべて心地よく生きるために習得すべき必須技術。

3.「年齢」「性別」といった枠組みに惑わされない

枠組みは他者を雑に理解するための、他人都合のもの。自分がやりたいことを始めるのに、遅すぎることはない。

4. 気分が落ち着いているときには、重要な意思決定はしない

5. 自分を取り戻せる「休み方」を知る。

「休む」ことは「逃げ」ではない。誰のためでもなく、自分だけを喜ばせるための時間や価値観を育てる時間のこと。

6. 自分を救ってくれるコンテンツを見つけ出す

小説、漫画、アニメ、ゲームといったコンテンツに、命や心が救われている人はたくさんおり、またコンテンツは人を救う。

少しでも生きることがしんどいと感じたら、鈴木裕介先生のアドバイスを読んでみてください! 鈴木裕介先生の最新刊にはさらに詳しく書かれています。

NO を言える人になる 他人のルールに縛られず、自分のルールで生きる方法」鈴木裕介(医師)著 税別1,500円(アスコム)

内科医・心療内科医 鈴木裕介先生

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。

2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。

2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。

また、研修医時代の近親者の自死をきっかけとし、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動や講演、SNSでの情報発信を積極的に行っている。
著作に「無敵の研修医ストレスマネジメント」(CareNet)など。

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