「気づけば、毎日そのことばかり考えてしまう」、「やめようと思っても、手放せない」…。そんなときにぴったりの言い回しがあることをご存じですか? 昔の人も、私たちと似たような気持ちを抱えていたのかもしれません。
古く聞こえるけれど、どこか現代の感覚にも通じる言葉をたどると、思わぬ場面で使えるヒントが見えてきました。
「病膏肓に入る」とは? 読み方と意味、由来をおさえよう
「病膏肓に入る」とは、私たちの日常の中でよく使える意味を持つ言葉です。詳しく見ていきましょう。

「病膏肓に入る」の読み方と意味
「病膏肓に入る」は「やまいこうこうにいる」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
病(やまい)膏肓(こうこう)に入(い)・る
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《「膏」も「肓」も、病気がそこに入ると、治療しにくい所。中国、春秋時代、晋の景公が病気になったとき、病気の精が二人の子供となって膏と肓に逃げこんだので、病気が治らなかったという「春秋左伝」成公一〇年の故事による》
1 病気がひどくなり、治療しようもない状態となる。
2 物事に熱中して抜け出られないほどになる。「付き合いで始めたゴルフが今や―・ってしまった」
[補説]この句の場合、「入る」を「はいる」とは読まない。
「病膏肓に入る」は、「病気が身体の奥深くにまで進み、手の施しようがない状態」になることを表しています。また、そこから転じて、「あることに強く熱中し、簡単には抜け出せなくなっている様子」を言い表すようになりました。
「病膏肓に入る」の由来
「病膏肓に入る」は、中国の古典『春秋左伝(しゅんじゅうさでん)』に記された故事に由来しています。
春秋時代、晋(しん)の国の君主・景公(けいこう)が重い病気になったときのことです。
秦(しん)の国から名医を呼ぶことになり、その直前に景公は夢をみます。夢の中で、病魔が2人の子どもの姿になり、「名医が来るから、肓(こう)の上と膏(こう)の下にかくれよう」と話していたのです。
やがて医者が到着して診察したところ、病の根が深く、すでに治療が及ばない体の奥の部位にまで達していると判断し、手を引きました。
この出来事がもとになり、「膏肓に入る」という言い回しは、「治療のしようがないほど悪化している状態」や、「どうにもならないところまで入り込んでしまった状態」を表す言葉として使われるようになりました。
参考:『日本国語大辞典』、『日本大百科全書』(小学館)

「膏肓」とは?
「病膏肓に入る」の「膏肓」について、辞書にはこう記されています。
こう‐こう〔カウクワウ〕【×膏×肓】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《「膏」は心臓の下部、「肓」は隔膜の上部》
1 からだの奥深いところ。ここに病気が入ると治らないという。
2 漢方の経穴(けいけつ)の一。背中の第4胸椎下から、大人で約6センチの所。
[補説]「こうもう」は誤読。
「膏肓」は、「膏」が心臓の下、「肓」が横隔膜の上にあるとされ、体の奥深い部分を指します。病気がこの場所に入り込むと、治療が難しいと考えられてきました。
また、漢方では「膏肓」を経穴(けいけつ)=ツボの一つとし、第4胸椎の下から指およそ4本分(約6センチ)の位置にあるとされています。ただし、「病膏肓に入る」という表現で使われる「膏肓」は、このツボの意味とは異なります。
故事における「膏肓」は、薬や針も届かない深いところを象徴的に表現しています。
「病膏肓に入る」の例文から見える日常のハマりごと
「病膏肓に入る」は、もともとは病気に対して使われていましたが、現在では感情や趣味など、抜け出せなくなった状態全般を表す言葉としても活用されています。日常での使いどころを、例文を通して確認してみましょう。
付き合いで始めたゴルフが、今や病膏肓に入ってしまった。
はじめは何気なく始めたゴルフが、今や生活の中心になるほど熱心に行っているような様子を表しています。こうした使い方は、「ある物事に極端に熱中して、手のつけられないほどになる」様子を表すものです。

SNSにのめり込むあまり、彼の生活は病膏肓に入っているようだった。
現代的なテーマであるネットやSNS依存にも、「病膏肓に入る」は使えます。深刻な状況を冷静に客観視しながら、伝えるときの言い方として有効です。
医師は首を横に振り、「病膏肓に入った状態です」と静かに言った。
「病膏肓に入る」のもともとの意味である「不治の病にかかる」、「病気が進行しすぎて治療が難しい」を表した使い方がこちらです。現代ではあまり耳にしませんが、重みのある表現ですね。
最後に
「病膏肓に入る」は、もともと病が深く進んだ状態を表す言葉でした。今では夢中になりすぎた様子や抜け出せなくなっている状況にも使われています。直接、言いにくいことを、少し控えめに伝えたいときにも役立つ表現です。意味を正しく理解していれば、日常でも無理なく使うことができるでしょう。
TOP画像/(c) Adobe Stock