朝三暮四とは
「朝三暮四(ちょうさんぼし)」には、次の3つの意味があります。
朝四暮三(ちょうしぼうさん)と表記されることもあるようです。それぞれの意味や日常会話での使い方を例文を通して紹介します。
ちょうさん‐ぼし〔テウサン‐〕【朝三暮四】
出典:小学館 デジタル大辞泉
《中国、宋の狙公 (そこう) が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという「荘子」斉物論などに見える故事から》
1 目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないこと。また、うまい言葉や方法で人をだますこと。朝四暮三。
2 生計。くらし。「己れが—に事欠かぬ限りは」〈魯庵・社会百面相〉
意味1.目先の違いに気をとられ実は同じと気がつかないこと
あるスポーツクラブで、入会すると1,000円の商品券をもらえるキャンペーンを実施していたとしましょう。キャンペーンが適用されるには、少なくとも3か月はスポーツクラブを退会できないという条件付きです。
入会時に商品券を受け取るのと、3か月後に受け取るのでは、実質的には同じです。しかし、人によっては「早く受け取りたい」という気持ちが強く、入会時に商品券をもらうほうがうれしく感じるかもしれません。
〈例文〉
・入会時に商品券を渡すようにしたら入会する人が増えた。朝三暮四とはこのことだ
・まさしく朝三暮四だね。目先の違いに気をとられる人が多いようだ
意味2.うまい言葉や方法で人をだますこと
入会3か月後に商品券を渡す場合も、入会時に商品券を渡す場合も、スポーツクラブ側の負担は変わらないでしょう。しかし渡すタイミングを工夫して、入会希望者を増やせる可能性もあります。
また、3か月間の継続が条件であることを隠し、入会するだけでもらえるような印象を与えるような宣伝をするなら、ある意味では入会希望者を誘導しているともいえるかもしれません。
〈例文〉
・入会するだけで商品券をもらえるといっているけれども、実質は朝三暮四だ。途中で退会すると商品券を返還しなくてはいけないらしい
意味3.生計、暮らし
朝三暮四は、生計や暮らしという意味でも使われることがあります。
〈例文〉
・朝三暮四に事欠く
・浪費を続けていたため、朝三暮四が成り立たなくなった
朝三暮四の由来
朝三暮四は、中国戦国時代のエピソードから生まれた故事成語です。
宋の国に住む狙公(そこう)は、サルを何匹か飼っていました。狙公が「朝にトチの実を三つ、暮れに四つやる」といったところ、サルたちは少ないと怒り出します。そこで狙公が「朝に三つ、暮れに四つならどうだろうか」といい直すと、サルたちはたいそう喜んだそうです。
実際にサルにやるトチの実の数は同じですが、朝に多く渡すといったことでサルたちが満足するようになりました。このエピソードから、朝三暮四は「目先の違いに気をとられて実際は同じことに気づかない」の意味で使われるようになったといわれています。
また、トチの実をやる立場から見れば、言い方一つでサルを納得させた、つまりサルをだましたともいえるでしょう。そのため、言葉や方法を工夫して相手をだますことを「朝三暮四」と表現することもあります。
朝三暮四と類似する言葉、間違えやすい言葉
「朝令暮改(ちょうれいぼかい)」は朝三暮四と異なる意味の故事成語ですが、いずれも「朝」と「暮」が含まれるため混同しやすい言葉です。意味の違いについて、具体的な例文を使って紹介します。
また、次の表現は、朝三暮四と類似する意味を持つ言葉です。
・木を見て森を見ず
・物は言いよう
・口車
・三百代言
それぞれの意味や使い方、朝三暮四とのニュアンスの違いについて見ていきましょう。
朝令暮改
「朝令暮改」は、朝に出した命令を夕方にはもう改めることで、中国の歴史書・漢書に記載されたエピソードに由来する故事成語です。また、方針などが絶えず変わって定まらない様子を指すこともあります。「朝改暮変(ちょうかいぼへん)」ともいいます。
・朝令暮改はいつものことだが、あまり頻繁に方針を変えるのは、顧客からの信頼も失うのではないだろうか
・朝令暮改では会社は成長しないだろう
朝令暮改は「言うことがすぐに変わる」や「一貫性がない」といったネガティブな意味で使われる言葉です。しかし、「間違いをすぐに認める」や「柔軟性がある」「適応力が高い」と考えれば、朝令暮改は決してネガティブな言葉ともいえないかもしれません。
木を見て森を見ず
「木を見て森を見ず」とは、小さいことに心を奪われて、全体を見通せていないことのたとえです。
・木を見て森を見ずでは、いつまで経っても会議の結論は出ない
・売上が一時的に落ちているが、そのような些末なことに一喜一憂していては、木を見て森を見ずだ
物は言いよう
「物は言いよう」とは、同じことでも言い方によって、よくも悪くも印象が変わることです。
・自分の意見を通したいなら、物は言いようというように、相手に配慮した言い方をすることが必要だ
・「派手だ」という言葉を不快に感じる人もいるから、これからは「華やかだ」と表現して。物は言いようでしょう?
口車
「口車(くちぐるま)」とは、口先だけの巧みな言いまわしのことです。
・また必要のないものを買ったの? どうせ口車に乗せられたのでしょう
・彼の口車に乗って、つい味方することを約束してしまった
三百代言
「三百代言(さんびゃくだいげん)」とは、代言人の資格がないにもかかわらず、他人の訴訟や談判などを扱う者のことです。また、相手を巧みに言いくるめる弁舌や、それを用いる者を指して使うこともあります。
・あの人は三百代言だ。うまくだまそうとする気持ちが透けて見える
・とんだ三百代言に当たったものだ。依頼料は高額だが、何の役にも立たなかった
朝三暮四の意味を押さえよう
朝三暮四は、目先のものを少し変えるだけでだます人・だまされる人に対して使われる言葉です。エピソードを理解しておくと、より的確なシチュエーションで使えるでしょう。紹介した例文も参考に、朝三暮四や朝令暮改などの故事成語を使いこなしてください。
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