「嘱託」という言葉の意味や、読み方をご存知でしょうか? 「嘱託社員」や、「嘱託職員」など、会社で聞いたことがあるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
また、「詳しく意味や読み方を知らない」という方や、「嘱託社員や嘱託職員とは、どういう働き方のこと? 契約社員とは違うの?」などの疑問をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
そこで、この記事では、嘱託の意味や読み方、嘱託社員や嘱託職員の概要、契約社員やパートとの違いなどを解説します。
嘱託の意味と読み方
嘱託は、「しょくたく」と読みます。嘱託の意味は、仕事を依頼し、任せること。例えば、「データ分析を嘱託する」などのように使います。もう一つの嘱託の意味は、正規の雇用関係ではない働き方のこと。正社員ではなく、有期雇用などの働き方を指すことが一般的です。嘱託社員や、嘱託職員などの呼び方を聞いたことがある方もいらっしゃることでしょう。
また、医療機関にお勤めの方は、「嘱託医」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。ちなみに、「嘱託医」は、医療機関や行政機関などから委託され、診察や治療行為をする医師のことです。
このように、さまざまな場面で使われる「嘱託」という言葉ですが、総じて仕事や働き方と関係の深い言葉と言えるでしょう。
嘱託社員とは
嘱託社員とは、どのような人を言うのでしょうか? 一般的なのは、定年退職後に、再雇用された人を指すケースです。今働いている職場で、このような同僚がいるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
また、会社によっては、定年退職後の人に限らず、若い人を嘱託社員と呼ぶこともあります。この場合、正社員ではない契約社員の総称として、「嘱託社員」と呼んでいることもあるようですね。職場によって、さまざまなパターンがありますよ。
実際に、「前職では嘱託社員と言えば、定年再雇用の人の呼び方だったけれど、転職後の会社では、契約社員のことを嘱託と呼んでいて驚いた」という声も耳にします。
法律上明確な定義があるわけではありませんので、実態としては、いろいろなパターンがあるようです。ですが、嘱託社員とは、いずれにしても働く期間が定められている働き方を指すことが一般的ですよ。
嘱託職員とは
「嘱託職員」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃることでしょう。「嘱託社員と嘱託職員はどう違うの?」という疑問の声も聞こえてきそうですね。ここからは、嘱託職員の概要を見ていきましょう。
嘱託職員とは、行政機関など、公務員系の仕事で使われることの多い言葉です。例えば、区役所や公立図書館などで働いている人は、全員が公務員ではなく、有期雇用の人がいることも多いことをご存知でしょうか? このような、有期雇用の職員を、「嘱託職員」と呼ぶことが一般的です。
嘱託社員と契約社員との違い
嘱託社員と、契約社員を分けて呼んでいる会社もあるでしょう。この場合、どのような違いがあるのでしょうか?
一般的には、嘱託社員は定年退職後の再雇用者の呼び方で、そのほかの有期雇用契約をしている人を契約社員と呼ぶことが多いようですね。厚生労働省の「有期契約労働者の実態」などの調査でも、次のように分けて定義づけています。
・契約社員:特定の職種で、専門的な能力の発揮を目的として雇用期間を定めて契約する者
・嘱託社員:定年退職者など、一定の期間再雇用する目的で契約する者
参考:厚生労働省資料「R元年就業形態の多様化調査(概況)」
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/19/dl/R01tayouka-gaiyou.pdf)
前述の通り、この定義とは違う言い方をしている会社もあります。例えば、仕事の内容が、「○○の資料作成やデータ分析のみ」など、限定されている人を嘱託社員と呼び、仕事の内容が幅広く、雇用契約期間が有期雇用の人を、「契約社員」としている会社も。このように、定年退職とは関係なく、仕事内容の種類によって言い方を使い分けていることもあるようですよ。
嘱託社員とパートの違い
嘱託社員とパートの違いも見ていきましょう。嘱託社員とパート(パートタイム労働者)の違いとして一般的なのは、働く時間です。「パートタイム」とは、非常勤や短時間勤務などの働き方のことを意味することが多く、これを略して「パート」と呼んでいることもあります。
嘱託社員や契約社員は常勤やフルタイムで働く人も多く、それに対して、働く時間や日数が短い人を「パート」と呼んで区別するケースが多いと言えるでしょう。
嘱託社員で働く注意点
嘱託社員として働くのは勤務日数を調整しやすいなどのメリットもある一方、給与やボーナスの金額が正社員に比べて低くなりがちというデメリットもあるようです。実際に、「こんなはずでは…」となってしまった方のケースを見ていきましょう。
Aさん(60代女性)は、定年退職後に、嘱託社員として同じ会社で働くことにしました。嘱託社員は残業もなく、「正社員に比べて仕事内容も限定的」という説明があったといいます。
「定年後は、家族との時間を優先したいので、嘱託社員ならバランスを取りやすいと思っていました」と語るAさん。ですが、実際はAさんの思い描いていた働き方とはかけ離れていました。
というのも、Aさんはこの会社で勤続20年以上の大ベテラン。「会社の生き字引」と言われるほど、さまざまな業務に精通していました。結局、若手社員の教育や、人手が足りない部門の支援に駆り出されることに。遅くまで残業をすることも多かったといいます。はじめこそ、「頼りにされている」とやりがいを感じていたAさんでしたが、だんだんと疲れがたまっていく日々。
また、正社員並みの責任や業務の幅広さにもかかわらず、賃金やボーナスの金額は正社員よりかなり低く、Aさんの中で、次第に違和感が大きくなっていきました。度重なるハードな働き方で、体調を崩しがちにもなってしまったようです。ある日、電車内で急に倒れてしまい、それがきっかけで働き方を見直す決意をしたAさん。
結果的に、Aさんは体調が回復後、会社に交渉して短時間勤務に働き方を変えてもらうことになりました。「本格的に体を壊す前に、早めに会社に働き方を相談すればよかった」といいます。
このように、嘱託社員でも、実際の働き方が思っていたものと違うというケースがあり得るというのは、気を付けたいポイントですね。
最後に
この記事では、「嘱託」の意味や読み方、嘱託社員や嘱託職員の概要、契約社員やパートとの違い、嘱託社員の注意点などを解説しました。働く上で重要なキーワードですので、おさえておくと安心ですね。
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塚原美彩(つかはらみさ) 塚原社会保険労務士事務所代表
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサルの傍ら、ポジティブ心理学をベースとした研修講師としても活動中。HP:塚原社会保険労務士事務所 ライター所属:京都メディアライン