嘱託職員の「嘱託」って?
「嘱託職員」は働き方の一つです。しかし、実際にどのような働き方をするのか、正職員や契約職員と何が違うのか知らない人もいるでしょう。今回は、さまざまな視点から嘱託職員について紹介します。正職員にはない特徴がありますので、働き方を考える際の参考にしてください。
まずは、嘱託職員の「嘱託」の意味を見ていきましょう。
意味
【嘱託/▽属託】
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
1:仕事を頼んで任せること。委嘱。「資料収集を—する」
2:正式の雇用関係や任命によらないで、ある業務に従事することを依頼すること。また、その依頼された人やその身分。
嘱託職員の「嘱託」が表すのは「2」の意味。正職員としてではなく、定まった期間、非正規雇用で働くことを指します。
厚生労働省の定義では「定年退職者等を一定期間再雇用する目的で契約し雇用する者」が嘱託社員にあたるとされています。
引用:厚生労働省 用語の解説
職員と社員は違う?
嘱託職員を「嘱託社員」と表すこともありますが、厳密に言うと職員と社員は意味が異なります。
職員は、官公庁や会社、学校などに在籍し、職務を担当する人のこと。社員は、会社の一員として勤務する人を指します。行政機関や学校などでは嘱託職員と呼ぶことが多いですね。
雇用形態などはどちらも同じことが多いので、この記事では「嘱託職員」に統一して紹介します。
嘱託職員と正職員の違い
ここからは嘱託職員と他の雇用形態の違いを見ていきましょう。まずは正職員について紹介します。
正職員とは
正規雇用で、雇用期間の定めがないのが正職員(正社員)です。基本的には定年まで雇用され、フルタイムで働きます。定年退職後、企業と従業員のどちらも継続雇用を希望する場合は、嘱託職員などの契約で勤務をすることが多いでしょう。
嘱託職員と正職員の違いは
嘱託職員も正職員も、勤務先に直接雇用されるという点は同じです。大きな違いは、雇用期間の定めの有無。また、仕事内容や勤務日数、担う責任などに差がある場合は、給与や福利厚生面も異なります。
契約職員と何が違う?
嘱託職員と似たイメージのある契約職員について見ていきましょう。
契約職員とは
契約職員(契約社員)とは、雇用期間を定めて雇用契約を結び、フルタイムで働く人を指します。業務範囲や条件が明確で、雇用条件も限定的です。
嘱託職員と契約職員の違い
嘱託職員と契約職員の契約形態に大きな違いはなく、勤務先に直接雇用されるという点も同じです。企業によっては、定年後の再雇用者を嘱託職員と呼び、それ以外の有期雇用契約の職員を契約職員と呼ぶことがあります。
嘱託職員のメリット
ここからは嘱託職員のメリットを見ていきましょう。雇用される側のメリットを中心に紹介します。
時間や日数を調整しやすい
フルタイム勤務が通常の正職員と比べ、嘱託職員は勤務時間や日数を調整しやすい面があります。労働基準法違反にならない範囲内で、柔軟に設定できることが多いでしょう。
通常、定年退職後の再雇用で働く嘱託職員は、健康状態などに応じて、働く時間を調整してもらいやすいといえるでしょう。また、残業や早出、休日出勤はなしとする契約で働く人もいます。
参考:厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」
自分の知識やスキルを生かせる
それまで自分が培った専門的知識やスキルを生かし、負担を軽減しながら働くことができるのも、嘱託職員のメリットです。
また、管理職など責任の重い役割を担うことから退くことが多いため、かかるストレスは正職員より少ない傾向にあります。したがって、負担を軽減した状況で、やりがいを持ちながら働き続けることができるでしょう。
条件によっては社会保険に加入できる
雇用期間や勤務時間、その他加入条件を満たせば、嘱託職員は勤務先の社会保険や雇用保険に加入することができます。各種の労働法にも守られるため、安心して働くことができるでしょう。
有給休暇を使える
嘱託職員も、有給休暇を付与されることがほとんどです。基本的には正職員と同様に算出した日数が付与され、有給休暇が発生する時期なども同じです。
社会保険や有給休暇の付与については、求人票や雇用契約書に明記されていることがほとんどです。もし記載がない場合は、採用担当者に尋ねてみましょう。
嘱託職員のデメリット
嘱託職員のデメリットについても見ていきましょう。次の事柄は、デメリットと考える人が多いかもしれません。
希望通りの条件で働けないことも…
嘱託職員の場合、希望通りの条件では働けないということもあり得ます。もちろん、あまりに不合理な条件は問題になるでしょう。ですが、通常、嘱託職員の業務内容や役割などは、会社の裁量や経営方針などによって決まってきます。ですので、必ずしも希望通りの条件で働けるとは限らないという点もおさえておきたいポイントです。
ボーナスや退職金がないケースも
嘱託職員にはボーナスや退職金の支給がないというケースもあります。また、ボーナスもないケースや、あったとしても正職員よりも大幅に少ないケースが多く見られます。
また、正職員と仕事内容が異なる場合、労働契約の内容によりますが、給与は低くなるのが一般的です。正職員から嘱託職員になると、収入は大幅に下がる可能性が高いことを意識しておきたいですね。
再雇用の場合、部下が上司になることもある
定年退職後、再雇用制度を使って嘱託職員として勤務する場合、部下が自分の上司になる可能性があります。立場が逆転することになるため、ストレスに感じたり、プライドが傷ついたりするかもしれません。この点は十分に意識するほうがいいでしょう。
就業規則や雇用契約書はしっかりチェックを
嘱託職員として勤務する際は、就業規則や雇用契約書の内容を十分に確認しましょう。「嘱託職員」と記載されていても、実際の契約内容は異なっていたというケースがあるからです。勤務開始後に気づき、職場と揉めるということがないよう、内容をしっかりとチェックしてください。
最後に
嘱託職員について、意味やメリット・デメリットなどをまとめました。年金だけでは生活できないといわれる現代において、定年後に嘱託職員として働くことができるのは、大きなプラスになるかもしれません。嘱託職員として勤務する場合は、事前に雇用契約書などをしっかりチェックし、内容に間違いや問題がないかを確認しましょう。
TOP画像/(c)Adobe Stock
【監修】塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)さん
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。ライター所属:京都メディアライン