「三方よし」は、商売に関する言葉
「三方よし」という言葉をご存じですか? 経営に関することで登場するこの言葉は、企業理念や経営方針に用いられることもあります。この言葉に影響を受けている経営者も多いんですよ。
今回は「三方よし」について、意味や由来などを調べてみました。後半では、近江商人の特徴にも触れますので、ぜひチェックしてくださいね。まずは、言葉の意味を見ていきましょう。
意味は
「三方よし」を辞書で調べてみました。
【三方良し】読み方:さんぼうよし
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
《「さんぽうよし」とも》「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ。近江商人の心得をいったもの。
「三方よし」が表すのは、売り手や買い手だけでなく、世間(社会)に貢献することも大切であるということ。「よい商売」とは、3つの異なる立場の人や組織がすべてよい状態であることを指すということです。
「三方よし」は近江商人から生まれた
「三方よし」の由来とされるのが、近江商人(おうみしょうにん)の心得です。近江商人とは、近江(現在の滋賀県)出身の商人のこと。商売上手で、江戸初期以来、多くの成功者を出したことで知られています。近江商人は、近江を含む全国各地で活動していたそうですよ。
現在では大企業となっている例もあり、今も滋賀県出身の起業家を近江商人と呼ぶことがあります。
「三方」について、さらにくわしく
「三方よし」の「三方」について、もう少し掘り下げていきましょう。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」について、それぞれが意味することを紹介します。
「売り手よし」が意味すること
「売り手よし」の「売り手」とは、商品やサービスを売る側の人を指します。「売り手よし」の状態が表すのは、提供する商品やサービスが買われ、利益を得られていること。利益を獲得できなければ、事業は頓挫しますから、売り手にとってはたいへん重要です。
加えて、買ってくれた人の役に立てた、仕事の中で自分自身が成長できたなどの実感が伴うことも大切でしょう。これがないと、本当の意味での「売り手よし」にはならない可能性があります。
買い手によろこんでもらいながら、自分自身も成長し、利益を挙げる。それが、社会貢献につながるということが、「売り手よし」の状態といえるでしょう。
「買い手よし」が意味すること
商品やサービスを買う側を「買い手」といいます。消費者やユーザーも買い手に該当すると考えてください。
「買い手よし」の状態は、買い手のニーズに合う商品やサービスを選べることでしょう。買い手は、売り手が提供する多数の選択肢から、自分が求めるものや、自分の目的に見合ったものを選びますが、それが常に有益とは限りません。
特に現代は、買い手のニーズが細分化され、多様化しています。そのため、売り手である企業は、買い手のニーズを明確に把握しながら、商品開発や販売を進めなければなりません。さまざまな工夫をこらし、買い手が満足できる商品やサービスを提供することが、「買い手よし」につながるといえるでしょう。
「世間よし」が意味すること
この「世間よし」とは、売り手と買い手以外の第三者や、自社を取り巻く環境や社会全体のことを意味します。
たとえば、自社の売上が伸びることで地域活性化につながるのであれば、それは「世間よし」にあたるでしょう。しかし、自社の商品を提供することで大量のゴミが発生し、それが道などに散乱する事態になったら、「世間よし」にはなりません。
売上が増え、買い手がよろこんでいるとしても、地域住民や行政に多大な迷惑や損失を与えているのなら、それは「三方よし」にはならないのです。
また、地球環境に配慮した商品やサービスを提供できているかどうかも、重要です。社会問題化する事象を緩和したり、改善したりする要素がある事業活動を継続することも、「世間よし」に含まれます。
近江商人の特徴
今も語り継がれる近江商人について、商売の特徴などを見ていきましょう。
近江商人は鎌倉時代から活動?
近江商人は、江戸・大坂・京都などに店舗を構え、地道に活動しながら日本の商業界を支えたとされています。鎌倉時代から活動がみられ、室町時代には市(いち)、座、行商による商業が発達しました。江戸時代に入ると商域は全国に拡大。さらに勢いを増し、商業界を支えるまでの存在になったのです。
特に活発だったのが、蒲生(がもう)、神崎、愛知(えち)といった湖東地域の商人です。彼らは集団で隊を組み、旅をしながら商売をしました。荷物を運ぶ馬を引いたり、荷物を自ら背負ったりしながら、美濃や伊勢、若狭、越前方面と京都を結び、行商して歩いたとされています。
近江商人の特徴は行商
上述したように、近江商人の商いは行商が始まりだったようです。行商で市場を開拓し、商売をするのに必要な資本が貯まると、目星をつけた地域の重要な場所に出店。商品の輸送や保管といった、現代でいう物流センターのような役割を担う場所を各地に設けました。
出店を基点として、その周辺まで行商の範囲を広げることもあれば、店舗の営業に移ることもあったようです。近江商人の中でも、特に手広く商売をした人は、出店を店舗とし、その土地で仕入れた商品を他の地域に運んで販売するという「産物廻し」をして、大きな利益をあげました。
さらに、質屋や金融業(金貸しなど)にも手を伸ばし、大名貸し(だいみょうがし:江戸時代に大名にお金を貸し付けた)を行う近江商人も多かったとされています。
近江商人は何を売っていた?
近江商人が売っていたのは、近江産の麻布や蚊帳、茶、生糸、漆器や薬など。多種多様の商品を扱っていました。また、各地域のさまざまな物産も売っていたといわれます。
近江商人は質素倹約に暮らしながら、巧みな商法とずば抜けた発想力、圧倒的な行動力で、多くの人がよろこぶ商品を各地に提供しました。また、得た利益を積極的に社会や地域に還元していたことでも知られます。そのような姿勢を持ち続けた近江商人だからこそ、時代が変わっても教訓となる心得を残せたのでしょう。
参照:『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)
最後に
近江商人の心得として伝え継がれる「三方よし」について紹介しました。実は「三方よし」は、現在の企業活動で重視されるCSRにつながると考えることがあります。CSRとは、企業の社会的責任のこと。自社の利益追求だけでなく、環境改善や社会の発展のために取り組むことを指します。「三方よし」は、企業の在り方の本質を説いた心得といえるかもしれませんね。
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