渡りに船とは好都合なことを意味する慣用句
「渡りに船」とは、必要なときに必要なものがそろったり、望ましい状況になったりして好都合なことを指す慣用句です。たとえば、「おいしいお菓子が食べたいなあ」と思ったタイミングで、友人が有名なパティスリーのお菓子を手土産に持ってきたようなときは、「渡りに船」といえます。
なお、「渡りに船」と表記することが一般的ですが、「渡りに舟」と記載することもあるようです。いずれも意味は同じで、タイミングよく幸運な出来事が起こることを指します。
渡りに船の語源
渡りに船の語源は、仏教の経典の一つ、法華経(ほけきょう)のなかにあります。法華経では、病気になったときに医者が来るように、暗いときに灯りを灯すように、川を渡るときの船のように仏の慈悲は必要なときに必要な形で示されると説明されています。
渡りに船は、元々は仏の慈悲といった尊いものを得られることを指す言葉です。しかし、現在では、悪いことをしようとしたときに都合よく物事が進むときにも使われます。たとえば、ひったくりをして逃げている泥棒の目の前にタクシーが通りがかり、うまく逃げられたときも「渡りに船」と表現します。
なお、かつては「渡りに船」ではなく「渡りに船を得る」「渡りに船を得たる」と表現することが多かったようです。現在では「得る」「得たる」が省略されて、「まさに渡りに船だ」のように使うことが一般的です。
「渡りに船」の状況は運だけでは起こらない
必要なときに必要なものがそろうことは、幸運としかいえない状況です。そのため、「渡りに船」も、基本的には努力して実現したことには使いません。
たとえば「毎日走り込みを続けたことで、マラソン大会に入賞した。まさに渡りに船だった」とはいいません。努力ではなく、幸運によって生じたことを渡りに船と表現してください。
しかし、実際のところ、努力と幸運は無関係ではありません。努力をすることで幸運に恵まれやすくなるのも事実です。たとえば、プレゼンをしているときにたまたま社長が見ていて、発表内容を気に入り、プロジェクトリーダーに直接任命されたとしましょう。
社長がプレゼンを見たというのは偶然ですが、いつでもベストを尽くしてきたからこそ、社長が感銘を受けるような発表内容になったともいえます。渡りに船の状況をつくりだすためにも、運だけに頼るのではなく、地道な努力が必要なのです。
渡りに船と類似する言葉を例文でご紹介
「渡りに船」のように、必要なときに必要なものがそろうことや好都合なことを示す表現としては、次のものが挙げられます。
・地獄に仏
・日照りに雨
・闇夜の提灯
・願ったり叶ったり
・おあつらえ向き
いずれも似たような意味ですが、使われる状況が異なります。例文をとおして、ニュアンスの違いを見ていきましょう。
地獄に仏
「地獄に仏」とは、地獄で仏に出会うように、苦難に直面しているときに救いを得たときに使う慣用句です。地獄は困難な状況、仏は思いがけない助けを指します。たとえば、次のように使いましょう。
・いつの間にか登山道から外れて、迷ってしまった。日が傾き、どうしたものかと困っていたら、山菜採りのおばあさんが現れ、下山する道を教えてくれた。まさに地獄に仏だ。
「渡りに船」も「地獄に仏」も、どちらもラッキーな状況で使う言葉です。しかし、「渡りに船」は困った状況ではなくても使えますが、「地獄に仏」は苦難に直面しているときのみ使える点が異なります。
日照りに雨
「日照りに雨」とは、待ちかねていたことが起こったときに使う言葉です。「旱に雨(ひでりにあめ)」と記載することもあります。たとえば次のように使いましょう。
・金欠で、もう3週間も厳しい生活を送っている。今日は待ちに待った給料日だ。日照りに雨とはこのことだ。
「渡りに船」はラッキーな出来事が起こったときに使う表現ですが、必ずしも待ちに待ったときに使われるのではありません。予想外のことが起こったときにも、それが自分にとって必要で嬉しいことなら「渡りに船」と表現します。
一方、「日照りに雨」や「旱に雨」は、待ち望んだ状況になったときだけ使われる言葉です。なお、「日照り雨」とは、日が照っているときに雨が降ることです。間違えないようにしましょう。
闇夜の提灯
「闇夜の提灯(やみよのちょうちん)」とは、困り果てているときに、頼れるものや希望するものに巡りあうことです。「闇夜の灯火(やみよのともしび)」とも表現します。
街灯がない時代、闇夜は現在よりも暗かったと考えられます。真っ暗で心細いときに、提灯を持っている人に出会ったり灯火が見えたりすれば、ほっとして嬉しくなるでしょう。次のように使ってみてください。
・外国語で話しかけられて困っていたら、語学に堪能な友人が助け舟を出してくれた。闇夜の提灯とはこのことだ。
願ったり叶ったり
「願ったり叶ったり」とは、希望と一致することや願いどおりになることを意味する言葉です。たとえば、次のように使います。
・水曜日だけ、しかも夕食付きの家庭教師の仕事を紹介してもらった。水曜日以外毎日実験があり、一人暮らしの私にとっては、まさに願ったり叶ったりの好条件だ。
おあつらえ向き
「おあつらえ向き」とは、注文どおりであること、あるいは希望どおりであることを意味する言葉です。「お」をつけないで「あつらえ向き」と表現することもあります。
・今日は運動会におあつらえ向きの上天気です。
・駅からわずか1分。電車通勤の人におあつらえ向きの物件だ。
渡りに船を適切な場面で使おう
渡りに船は、都合よく物事が進むときに使う表現です。「闇夜の提灯」や「日照りに雨」、「地獄に仏」などが類似する表現として挙げられますが、いずれも元々置かれた状況などが異なるため、正しい表現を選ぶようにしましょう。