この記事のサマリー
・「武士の情け」とは、強者が敗者に対し名誉を重んじてかける、深い思いやりのことです。
・本来は「見逃す側」が使う言葉。自分が許しを請う際に使うのは控えましょう。
・類語には「寛大な措置」や「不問に付す」などがあります。
「武士の情け」という言葉を、単なる「見逃してほしい」という懇願の意味で使っていませんか? 実はこの言葉、本来は「強者が敗者へ示す高潔な慈悲」を指す、武士道精神に根ざした深い表現です。
本記事では、「武士の情け」の意味や背景、現代社会での使い方、さらには類語や英語表現まで徹底解説します。
「武士の情け」の意味と語源
まずは、意味と歴史的背景について詳しく深掘りしていきます。
「武士の情け」の意味
「武士の情け(ぶしのなさけ)」とは、強者が弱者や敗者に対して、その立場や名誉を重んじてかける、思いやりのある計らいを意味します。
「武士」と「情け」、それぞれの意味を辞書で確認しましょう。
ぶ‐し【武士】
昔、武芸をおさめ、軍事にたずさわった身分の者。中世・近世には支配階級となった。さむらい。もののふ。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)なさけ【情け】
1 人間味のある心。他人をいたわる心。人情。情愛。思いやり。「武士の―」「浮き世の―」→御情(おなさ)け
2 男女の情愛。恋情。また、情事。いろごと。「深―」「薄―」
3 風情。おもむき。あじわい。
「落花啼鳥の―も心に浮かばぬ」〈漱石・草枕〉
4 もののあわれを知る心。風雅を解する心。風流心。
「―ある人にて、かめに花をさせり」〈伊勢・一〇一〉
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「武士の情け」の背景にあるもの
「武士の情け」という言葉の背景には、「武士道」があるといえるでしょう。武士道では、忠孝・尚武・信義・節操・廉恥・礼儀などを重んじます。
辞書では次のように説明されていますよ。
ぶし‐どう〔‐ダウ〕【武士道】
日本の武士階級に発達した道徳。鎌倉時代から発達し、江戸時代に儒学思想と結合して完成した。忠誠・勇敢・犠牲・信義・廉恥・礼節・名誉・質素・情愛などを尊重した。士道。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
散り際の見事さや潔さを尊ぶ武士の世界では、追い詰められた敵を情け容赦なく討つことは、かえって武士の恥とされるケースもありました。
参考:『日本国語大辞典』(小学館)

「武士の情け」の使い方を例文で確認
「武士の情け」というフレーズは時代劇などでよく使われますね。ここでは、どのように使うかを例文とともに見ていきましょう。
大勢の前で叱らずに個別に声をかけたのは、武士の情けというものだろう。
相手の立場や面目を守る配慮を示しています。「恥をかかせない」という行動が、この言葉のニュアンスに合います
彼は相手の実力を見抜いた上で、あえて一歩引いて勝ちを譲った。あれこそ武士の情けだ。
強者が力を誇示せず、弱者の面目を保つ形で振る舞う場面です。「情け」は甘さではなく、相手を思う計らいとして描かれています。
敗軍の将に逃げ道を残したのは、武士の情けであり、同時に誇りでもあった。
相手を完全に追い詰めず、筋を通して敬意を示す態度を表しています。歴史物・小説調の文章でも使いやすい表現です。

知っておきたい関連語と類語
「武士の情け」とあわせて覚えておくことで、より表現の幅が広がる関連表現を紹介します。特に武士にまつわる慣用句は、現代のビジネス道徳にも通じるものが多く、知的な会話のネタとしても有効です。
武士に二言はない
「武士に二言はない」とは、一度口にした約束は守るという誠実さと覚悟を示す言葉です。ビジネスにおける信頼関係の根幹に通じる考え方といえます。
武士は相身互い
「武士は相身互い(あいみたがい)」とは、同じ立場にある者同士、困った時は助け合うべきだという意味を持ちます。
花は桜木人は武士
「花は桜木(さくらぎ)人は武士」とは、花は桜が第一であるように、人では潔い武士が第一であることを表す言葉です。
華やかさと散り際の潔さを良しとする日本人の美意識は、武家の台頭が背景にあるといわれています。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
言い換えに役立つ類語
状況や相手との関係性に応じて、「武士の情け」をより現代的に言い換える必要がある場合に役立つ表現を紹介します。
寛大な措置
過ちを厳しく責めず、心広く扱うこと。ビジネス文書や公的な報告で「武士の情け」をフォーマルに表現したい際に最適です。
不問に付す(ふもんにふす)
ミスや問題を把握した上で、今回はあえて追求しない、という意思を示す際の実用的な言い回しです。

「武士の情け」に関するFAQ
ここでは、「武士の情け」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1:「武士の情け」のNGな使い方はありますか?
A1:自らの不祥事やミスに対して「武士の情けで隠してほしい」と乞うのは避けましょう。本来は「見逃す側」の美徳を指す言葉であり、自分から救済を迫るために使うと、無責任で厚かましい人物だと誤解されるリスクがあります。
Q2:「武士の情け」と「情けは人のためならず」は関係がありますか?
A2:直接的なつながりはありませんが、「他者に情けをかけることは巡り巡って自分のためになる」という考え方は、武士の「相身互い」の精神と通じるところもあり、日本的な慈悲の心を表す点で親和性があります。
Q3:時代劇以外で使われることはありますか?
A3:政治家の会見やスポーツ解説、あるいはビジネスコラムなどで、潔い幕引きを促す際や、対戦相手への敬意を示す表現として今も登場します。
最後に
言葉は時代とともに変化するものですが、「武士の情け」のように歴史と文化が詰まった表現を正しく使いこなすことは、大人の教養として価値があるといえますね。相手のプライドを尊重しながら手を差し伸べる精神は、現代の人間関係においても欠かせない「徳」といえるでしょう。
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