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「貧すれば鈍する」の読み方
「貧すれば鈍する」は、「ひんすればどんする」と読みます。日常生活では「貧(まず)しい」や「鈍(にぶ)る」といった訓読みを使うことが多いので、読み間違いには注意しましょう。
「貧すれば鈍する」の意味
小学館デジタル大辞泉によると、「貧すれば鈍する」は「貧乏すると、生活の苦しさのために精神の働きまで愚鈍になる」という意味があります。
貧乏になると、毎日の食事や生活費の支払いなど、生きていくことで一杯一杯になってしまい、心に余裕がなくなってしまいます。心配事ばかりが増え、利口な人でも知恵が働かなくなってしまう状況を表したことわざです。
「貧すれば鈍する」の由来
「貧すれば鈍する」の由来は明確にはわかっておらず、昔からの人々の暮らしの中で生まれた知恵や経験、教訓が起源となりできたことわざであるという説と、『論語(衛霊公)』が由来となっている説があります。ここでは、『論語』が由来となっている説を解説します。
「小人窮すれば斯に濫す」が由来?
『論語(衛霊公)』に孔子の「小人窮すれば斯に濫す」という言葉が登場します。
「小人(しょうじん)窮(きゅう)すれば斯(ここ)に濫(らん)す」とは、「徳のない品性の卑しい人は、困窮すると自暴自棄になり悪事を行う」という意味です。「貧すれば鈍する」と似た意味を持っていますね。
「鈍する」と「窮する」の違い
由来という説がある『論語(衛霊公)』では、「鈍する」ではなく「窮(きゅう)する」という表現が使われています。「窮する」は「行き詰まって身動きができない」「貧乏する」という意味があります。
「窮する」を用いた言葉
「貧すれば鈍する」に似た関連する「窮する」を使った言葉があるので紹介します。
「貧すれば窮する」
「貧すれば窮する」は「貧すれば鈍する」と似ていますが、少しニュアンスが異なります。「窮」は「行き詰まる」という意味なので、「貧乏すれば行き詰まる」になります。対して「鈍」は「頭の回転が悪くなる」なので、少し意味合いが違ってきますね。
「貧すれば鈍する 鈍すれば窮す 窮すれば通ず」
「貧乏すれば精神の働きまで愚鈍になる、精神の働きが鈍くなれば行き詰まる、事態が行き詰まって身動きがとれなくなると、かえって思いがけない活路が開けてくるものである」という意味になります。
「窮すれば通(つう)ず」は、中国の古典『易経』(えききょう)に出てくる言葉です。「窮地に追い込まれると、かえって名案が浮かび、行くべき道が開けるものだ」という意味があります。座右の銘にしたい言葉ですね。
「貧すれば鈍する 衣食足りて礼節を知る」とは
「衣食足りて礼節を知る」は、「貧すれば鈍する」の類語です。ここでは、「衣食足りて礼節を知る」の意味や「貧すれば鈍する」との違いを説明します。
「衣食足りて礼節を知る」の意味
「衣食足りて礼節(れいせつ)を知る」は、「人は着るものや食べるものなどの物質的な不自由さがなくなって、初めて礼儀に心を向ける余裕ができてくる」という意味です。「衣食など生活に困っているうちは心に余裕がない」ともいえますね。
「衣食足りて礼節を知る」の由来
中国春秋時代の思想家・管仲の記した『菅子』という書物が由来とされています。『菅子』の牧民編に「倉廩実則知礼節、衣食足則知栄辱」という記述があります。
斉の桓公に仕える宰相だった管仲は、国を強くするためには、まず国民の生活を豊かにすること重要だと考えます。「倉廩(そうりん)」は米蔵のことを指し、「栄辱(えいじょく)」は「栄誉」と「恥辱」のこと。
つまり、「米蔵が満たされていれば礼儀と節度をわきまえるようになり、衣服や食料が豊かであってこそ名誉と恥辱の違いを考えるようになる」訳すことができます。
「貧すれば鈍する」との違い
「貧すれば鈍する」は「貧乏をすると、精神の働きまで愚鈍になる」という意味なので、「物質的に不自由さがなくなって初めて心に余裕ができる」の「衣食足りて礼節を知る」とは、一見逆のことを言っているように見えます。
しかし、表現が少し異なるだけで、生活に余裕があって初めて心のゆとりが生まれるという根本的な意味は同じ。余裕ある生活の大切さを説いていますね。
「貧すれば鈍する」の類語・対義語
◆類語
貧乏暇なし
「貧乏で生活に追われ、少しも時間のゆとりがない」という意味です。日常生活でもよく使われる言葉ですね。「鈍する」にあたる表現はありませんが、貧しさのせいでゆとりや余裕がない点は似ています。
運尽くれば知恵の鏡も曇る
「運が尽きると自分の知恵も見失う」という意味のことわざです。「知恵の鏡」は“知恵がすぐれて明らかなこと”を鏡に例えた言葉で、これに“曇る”がつくことで「正常な判断を失う」という意味になります。
◆対義語
貧にして楽しむ
「貧(ひん)にして楽しむ」は、「貧乏であることを楽しむ」という意味です。貧乏すると心も貧しくなる「貧すれば鈍する」とは逆で、むしろ貧乏な状況も楽しむという心の余裕が感じられますね。
金持ち喧嘩せず
「金持ちは利益にさとく、喧嘩をすると損をするので人と争うことはしない」という意味です。得のない喧嘩はしないことから、計算に合わないことはことを例えていいます。
「貧すれば鈍する」を使った例文
貧すれば鈍するというが、仕事を辞めてから余裕がなく、すっかりネガティブになってしまった。
仕事で生活が安定していた状況がなくなると、収入はもちろん将来への不安や焦りからついネガティブなことばかり考えてしまいます。人付き合いに充てるお金の余裕も無くなるので、心まで貧しくなってしまうことも。
彼は収入が減ってかたすっかりお金に汚くなった。貧すれば鈍するとはこのことか。
何らかの理由で懐に余裕がなくなってしまい、友人にお金を借りたり食事をたかったりと、何かと意地汚くなってしまった人に対して使う例文です。収入が減ったことで性格が変わってしまった時などに使います。
「貧すれば鈍する」の英語表現
Poverty dull the wit
「Poverty」は「貧困」、「dull」は「鈍る」という意味があり、“貧困は「wit(=知性、地力)」を鈍らせる”と訳すことができます。ストレートな表現ですが、まさに「貧すれば鈍する」の言い換え表現といえます。
A light purse makes a heavy heart
「purse」はお財布、「heavy heart」は憂鬱という意味なので、「お財布が軽い(=十分なお金がない)と憂鬱な気分になる」と訳すことができます。会話の中で冗談ぽく使う時にはこちらの方が合っているかもしれませんね。
最後に
「貧すれば鈍する」という言葉を詳しく解説しました。関連する言葉がたくさんあるように、生活にゆとりを持つことはとても重要であることが伝わってきますね。大変な時期ほど、前向き、楽観的に物事を考えることが大切なのかもしれません。
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