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2022.08.18

自宅トイレで流産し放心… 染色体と胞状奇胎検査をすべきなのかわからない<30代の不妊治療vol.110>

妊活歴が3年目に突入した主婦ライター・34歳クロサワキコの不妊治療体験レポ Vol.110。夫の精索静脈瘤の手術や人工授精、体外受精とステップアップを重ねていくなかで感じてきたリアルな本音をお届け。今回は流産の翌朝、病院で医師から処置の説明を受けた時の話。

自宅のトイレで流産。強い孤独感に襲われる【30代からの不妊治療】

妊活を始めて3年。現在34歳の私の体験から、妊娠を考えているカップルにとって少しでも役に立つような情報をレポート形式でお届けします。

前回は、妊娠8週目に自宅で流産してしまった時の話をお届けしました。激しい痛みが続くなか、トイレに落ちてしまった小さな胎嚢と思われる白っぽい塊と、赤い血の塊のようなもの。夫がすぐに拾い上げてくれて病院へ電話をしたところ、医師から「恐らく流産されてしまったものと思います」と言われた私たち夫婦。私は放心状態で、頭も心も完全に“無”になってしまっていました。

当直の医師から、電話での説明が続きます。

医師「そしたら明日の朝、持って病院へ来られますか? 染色体の検査などは無理に受けられなくても大丈夫ですので、今晩ご夫婦でよく話し合っていただいて。とはいえ、今回の流産は偶発的なものですし、この時期の流産は染色体異常によるものが多いので、また次回に向けて気持ちを切り替えていって…」

そのあとも電話で説明が続いていたのですが、この状況で「気持ちを切り替えて」と言われても全然無理で。広い世界で私だけがひとりぼっちになってしまったような感覚に襲われました。

私のおなかにはついさっきまで赤ちゃんがいたのに。今はもう…。切り替えるなんて、できない…。スマホを持ったままぼんやりする私を見かねて夫が電話をかわり、その後の説明を聞いてくれました。

そして今になって冷静に思えば、自宅のトイレで流産してしまったことは悲しいことではあるけれど、自動で流れてしまう機能が付いているトイレではなかったことや、夫が拾い上げてくれたこと、お別れの時間を持てたことは救いでもありました。

夫と価値観や方向性の違いが浮き彫りになる

(c)Shutterstock.com

この日の夜は、しばらく頭も体もフリーズした状態が続きました。考えても仕方がないけれど、「もっとこうすれば、ああすれば、」結果が違ったのではないかという後悔ばかり。やっと来てくれた赤ちゃんなのに…。一緒にいられた時間があまりにも短すぎました。

「明日の診察もキミひとりなのかねぇ。こんな時でも一緒に説明すら聞けないのかな」

「あ、うん…。ほかの妊婦さんもいるだろうし、コロナだからしょうがないよ」

「なんか、先生が染色体検査をどうするか話しておくように言ってたけど、どうする?」

「無理に受けなくてもいいって言ってたけど…」

「まぁでも、これからまた移植って時に、原因がわかっておいたほうがいいとかあるのかね?」

「わからないよ。今そういうこと考えられる状態じゃない」

「そういう投げやりな言い方しないでよ。つらいのは自分ばっかりみたいに」

この時、夫は次の移植に向けた話を医師から聞いていたようです。静かに喪に服したい私と夫の会話には、今までにないほどの温度差がありました。まだ胎嚢の段階とはいえ、今まさに出てきてしまったばかりという状況で、私はとても前を向ける余裕なんてなかったのです。

一番の味方だと思っていた夫と向いている方向が違う。流産がつらかったのはもちろん、これから先の人生、この人と一緒にやっていけるかどうかを一気に追い詰められたような気分でした。この方向性や価値観の違いは、翌朝になっても埋まらず…。

「ネットで見たんだけどさ、“9週の壁”っていうのがあって、この時期の流産はしょうがないみたいだよ。移植の時期とかも考えてたんだけどさ…」

「それ、今私に言ってどうなるの?」

「ピリピリしないでよ」

「だったら、しょうがない、しょうがないって言わないでよ。もっと安静にできてれば、こんなことにならなかったかもと思って、こっちはずっと後悔してんの。全然しょうがなくないの。流産後の処置だってどうなるかわからないし、今胎嚢とはいえ赤ちゃんが手元にいる状況で、すぐに次の妊娠なんて考えられない。もう黙ってて」

「それは悪かったよ。場にそぐわない発言だった…」

家ではずっとこんな状況が続きました。私のなかでは、あの時動かなければ… という後悔と同時に、なんであのタイミングで夫は外出してしまったのかという怒りも募ってしまい…。

そしてこの日は、出てきてしまった胎嚢を持参して病院へ行かねばならないのです。私としては、まだ赤ちゃん(流産してしまった胎嚢ですが)と離れなければいけない寂しさが込み上げていたのですが…。次いつ移植するとか、妊娠するとか、何かと前向きすぎる夫の性格が、この時は私をひたすらに苛立たせたのです。

しまいには夫の顔も見たくなくなって、いつも一緒に行っていた病院もひとりで行くことに…。道すがら、バッグにしまった袋をたまに見つめてはただただ涙がこぼれました。

「ごめんね。私がちゃんとしてなかったから。ごめんね。せっかく来てくれたのに」

この子がおなかにいてくれた間に一緒に感じられたこと、あのお店で食べたケーキが美味しかったなとか、あの公園のお花がキレイだったなとか、そういう小さいことを全部覚えていてあげたいなと思いました。

何もしてあげられなかったけれど、短い間に一緒に過ごした思い出を私だけは忘れないで生きていく。いつもの歩きなれた病院までの道には、私の短い妊婦期間の思い出がたくさんあふれているようで、何でもない景色が特別なもののように思えました。

エコーで完全流産が判明。染色体の検査はどうする?

(c)Shutterstock.com

待合室で順番を待っている時間は、今までの人生で一番過酷に感じました。マスクの下で口元にギュっと力を入れながら必死で泣くのを堪える私。周りは幸せいっぱいの妊婦さんばかり。待ち時間はほんの10分くらいだったと思うのですが、それがとても長く感じられ、ひたすらつらかったです。

診察室へ呼ばれ入ると、いつものN先生はおらず、はじめての女性医師・J先生でした。

医師「こんにちは。昨日当直だった医師から状況は聞いたのですが、大変でしたね。出てきてしまったものは今日持ってきていますか?」

「はい…」

バッグのなかから袋を取り出し、先生に渡しました。これでお別れ。さようなら、ありがとう。私は声をあげて、うわっと泣き出してしまいました。

医師「こればっかりはね、本当に経験した者にしかわからないつらさがあるよね」

先生に背中をさすられながら「すみません」とだけ返事をしました。

医師「いいんだよ、いっぱい泣いて。流産は小さなお産なの。体も心もつらいんだから、我慢しないでどんどん涙を流していいの」

気持ちを切り替えるなんてできない。しょうがなかったなんて思えない。この時期の流産はよくあるといいますが、まさか自分がそうなってしまうなんて。おさえていた感情がどんどん沸き上がって、涙が止まりませんでした。

医師「おなかはもう痛くない?」

「はい。ただ昨日の夜からこんな調子で、油断をするとひたすら涙が出てきてしまって」

医師「うん、みんなそうだよ」

「これ…、この涙は… いつまで続くんですかね。夫はなんか…、もう…、話が合わなくて。家でも私だけ泣いてる感じだから…、部屋に閉じこもるしかなくて…」

医師「うん。わかる、わかる。ご主人も悲しんでいるとは思うけれど、悲しみの深さがちょっと違うんだよね」

悲しみの深さが違う…。まさに、そうだと思いました。自分が特別弱い人間なんじゃないかと思うくらい夫と温度差があったけれど、これは仕方がないことなのかもしれません。

たくさん涙を流したけれど、先生から「そういうふうに一度宿った命のことを大事に思ってあげる時間が大切」と言われ、慰められました。少し涙がおさまってから、子宮のなかをエコーで検査することに。

医師「まだ出血がありますね。それでは機械が入ります」

エコーに写った私の子宮のなかは空っぽになっていました。この間まであった黒くて大きな胎嚢の影がすっかり消えてしまっていて、「空っぽになっちゃったんだ…」と改めて現実を直視してまた胸が苦しくなりました。

医師「持ってきていただいた胎嚢、すごくきれいな状態でしたよね。子宮のなかに残ることなく完全に出てきていて、これなら手術の必要はなさそうです」

もし子宮のなかに残ってしまうと、日帰りの手術を受ける必要があるという説明を受けました。私の場合は、全部出きってしまった「完全流産」という診断でした。

流産後の検査。胞状奇胎は保険適用、染色体は自費…

(c)Shutterstock.com

エコー検査が終わり、診察室では改めて検査の説明がありました。

医師「今回は残念な結果ではありましたが、完全流産だったので手術の必要はないし、子宮への影響もほぼないです。ちょっとまだ考えられないかもしれないけれど、次回また妊娠を考える時にも、今回の流産の影響はほとんどありません」

私は涙をこらえながら黙って説明を聞いていました。

医師「それで、染色体の検査なんだけど、どうしますか?」

「昨日、当直の先生に無理に受けなくてもいいと言われたのですが、みんなはどうしているのですか?」

医師「う~ん、それぞれかな。費用が自費になってしまうので、高いんですよ。確か6万円くらいかかるので、受けないという人も多いです」

「こんな時でも、保険がきかないんですね…」

医師「そうですよね。胞状奇胎の検査は保険がきくので、こっちは受けておいてもいいかなと思います。『ぶどう子』ともよばれる疾患なんだけど、子宮のなかにぶどうの房みたいなのができてしまう病気の検査もあって、クロサワさんの場合ほとんど可能性は低いと思うんだけど、どうしましょうか」

私は、検査に関する話し合いが夫とまともにできていないことをJ先生に打ち明けました。

医師「そうだったんだ。クロサワさんご本人的には、染色体の検査は受けておきたい?」

「…わからないです。どうしたらいいんだろう」

流産のショックからまだ立ち直れていないなか、次から次へと決めなければならないことが立て続きます。

医師「う~ん、4割くらいは染色体の異常と言われているので、ほとんどの人が流産したとしてもその後問題なく妊娠できているし、今回無理に受けなくてもいいかなとは思うよ」

「染色体の検査を受けると、性別もわかったりするんですか?」

医師「うん。細胞がきちんと残っていないとわからない場合もあるけれど、今回はたぶん大丈夫だと思う。仮にもし細胞がうまくとれなかったりして、検査結果が出なかった場合は3万4千円だったかな…、半分以上返金になります。もし検査を受けるようなら、検査部のほうから詳しい料金表をもらってくるけれど…」

「…」

夜に流産して、翌朝に検査をどうするか聞かれても、正直、頭がうまく追いつきませんでした。お金の話を言われても、計算できるような状態ではなくて。しかも私の場合、夫と険悪な雰囲気のまま検査の話し合いをまともにできず…。

医師「ご主人にも聞いてみる?」

「顔も見たくないし、電話で話したくもないです」

医師「そしたら、私から電話して説明して聞いてみましょうか?」

「そうしていただけると助かります…」

この時もまだ、悲しみや怒りが収まらないままでした。でも、短い間ではあったけれど授かった命は私だけのものではないし、ひとりで決めることはできませんでした。というわけで、医師から夫に電話をしてもらった時の話はまた次回したいと思います。

これまでの記事▶︎不妊治療体験レポ

TOP画像/(c)Shutterstock.com

クロサワキコ

34歳・主婦ライター。妊活歴3年目。男性不妊の治療や人工授精に体外受精、ステップアップを重ねていくなかで感じた不妊治療のリアルな本音を発信しています。

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