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2022.08.11

34歳・不妊治療3年。朦朧とした意識のなか流産した日のこと<30代の不妊治療vol.109>

妊活歴が3年目に突入した主婦ライター・34歳クロサワキコの不妊治療体験レポ Vol.109。夫の精索静脈瘤の手術や人工授精、体外受精とステップアップを重ねていくなかで感じてきたリアルな本音をお届け。今回は、妊娠8週目に自宅で流産してしまった時の話。

まだ確定診断が出ていないのに…【30代からの不妊治療】

妊活を始めて3年。現在34歳の私の体験から、妊娠を考えているカップルにとって少しでも役に立つような情報をレポート形式でお届けします。

前回は、奇跡の自然妊娠をして喜んでいたのも束の間、医師からつらい説明を受けた話をお届けしました。今回は、妊娠8週目に自宅で流産してしまった時の話。

おなかのなかでの成長がゆっくりだと言われた私の赤ちゃん。妊娠7週目でも心拍が見えず、翌週に控えた診察の時にもしも成長が止まっていた場合、流産の確定診断がくだされる可能性を医師から説明されました。

私のなかでショックが大きく、夫と合流してからの記憶もあいまいですが、覚えていることはこの連載でなるべく丁寧にお伝えしていこうと思います。

あらかじめ流産の話をしなければならないつらさ

(c)Shutterstock.com

病院で医師からつらい説明を受けた後、家につくと更に感情が高ぶって泣いてしまいました。

「まだ流産の確定診断は出せないって言われたの。本当はさ、タイミングをとった日も排卵日の日も…、自分でなんとなくわかってたから、ずっとおかしいなと思ってて」

「…」

夫にもわかるようにちゃんと説明せねばと思うのですが、うまく話せませんでした。でも夫はずっと黙って話を聞いてくれて、時々泣いていました。

この日、夫は仕事を休んでいたのか、午後もずっと一緒にいてくれたのですが、そういうことに頭がまわらないくらい私はいっぱいいっぱいでした。ぽつぽつ話をしながら時間だけがどんどん過ぎていき…。

「来週ダメだったってなった時に、手術をするかどうかを決めておくように言われた…」

「そっか…。つらいな…」

ひとつずつ、診察室での説明を夫に伝えようとしますが、なかなか涙が止まりません。自然排出にするか手術にするか… 先生から受けたメリットとデメリットの説明を、かなり時間をかけて話しました。

「うーん…。どっちがいいのかねぇ…」

「わからない。でも1日でも1秒でも長く赤ちゃんと一緒にいたい…」

「そしたら自然排出を待つかい?」

「いつ出てきてしまうかわからないというのは…。それはそれで心配…。何もできなくなる…」

「うーん…」

会話をしながら、ふたりでただただ泣いて、夜がふけていきました。まだ、おなかのなかに赤ちゃんがいるのに。流産の確定診断がくだされたわけではないのに。事前に夫婦でこのような話し合いをしなければならないことがとても悲しかったです。

結論が出せないままお別れの時がきてしまう

(c)Shutterstock.com

ずっと続いていた、おりものに茶色い経血が混ざる状況。前回の健診前には血が赤くなっていたことをお伝えしましたが、出血量は、生理1日目のような微妙な感じが2日ほど続きました。

もう頭のなかは、おなかの赤ちゃんのことばかり。とにかく出血が止まってくれればいい、成長が続いてくれればいいと願うような気持ちでした。仕事はおろか、日常生活のなにもかもに手が付かない状況です。

「明日って会社休める?」

「どうした?」

「…」

「午後に会議があるから、それが終われば休めるよ」

「いつ何があるかわからないから、外に行きたくなくて」

「そうだよね。じゃあ14時には休めるようにしておくよ。必要なものがあれば買ってくるからメモをしておいてくれる?」

「え…、うん…」

本当は買い物を変わってほしいとか家事を頼みたいとかそういうことではなくて、もし何か起きた時にひとりだったら… と思うと怖くて怖くてたまらないから、ただ一緒にいてほしかったなというのが本音でした。が、夫は休みをとったからには家のことをテキパキとこなしていく性格。そして、私の体の異変は夫の外出中に起こりました。

◆生理2日目くらいの出血量に

朝からほとんど横になって過ごしていて、髪は寝ぐせだらけ、メイクもしないまま、ずーっとパジャマでゴロゴロしていた時です。玄関のブザーが鳴りました。宅配便の受け取り…! あいにく夫は買い物に出かけていて不在だったので、私は大急ぎでベッドから起き上がり、簡単に身支度を整えて受け取りを済ませました。

なんてことない、日常のひとコマ。しかし、ふと、下半身に違和感が…。

あわててトイレへ駆け込むと、ナプキンが真っ赤。急いで動いたせいなのか、そういうタイミングだったのかわかりませんが、出血量が一気に増えてしまいました。同時にずーんと重たい感じの腹痛も悪化。この時、もうダメかもしれないと思い、また泣き出してしまいました。

寝室に戻り、夫に電話をかけました。

「生理2日目くらいの出血が起こって…、なかなか止まらない。怖い」

「すぐに帰るよ。気を確かに」

なんでこんなことになってしまったんだろう…。そればかり考えて、ひたすら自分を責めました。宅配便なんて今受け取らなくてもよかったのに。じっと安静にしていればよかったのに。私のせいだ。なんてことをしてしまったんだろう…。

出血が止まらないことで半分パニック状態でしたが、それ以上にどんどんおなかの痛みが増してくることがすごく恐怖でした。夫が帰ってくるまでの間、ひたすら泣き続け、事態は最悪の展開へ…。

◆強い痛みと弱い痛みが交互にくる

夫が家に帰ってきて気分的にはホッとしたものの、夕方を過ぎる頃には、ときどきドーンという感じの強い痛みに襲われていました。その痛みはすぐに弱まるものの完全に消えず、そんな状態を繰り返しながら過ごし、夜になると全身がクタクタになっていました。

痛みが弱い間は少し眠って、また痛みが強まって目が覚めて… を繰り返し。ですが、徐々に強い痛みを感じる時間が長くなっていき、息をするのもつらい…。だんだんと我慢の限界が近づいていきました。

◆気を失ってしまう前に

時計を見たら、21時を回っていました。どうしよう、出血もひどいし、おなかも痛いし、これは病院へ行くべきかな… と悩んでいる間にも、腹痛がどんどんひどくなっていきました。今までの人生で経験したことのないレベルで、あわててリビングへ行こうとした時には、起き上がるのもやっと。廊下で「あなた…」と声を振り絞り、夫を呼びました。

「え!? どうした?」

「病院へ電話して」

「お、おう。おなか痛い? 病院へ行く?」

夫が駆け寄ってきた時にはうずくまってしまい、汗がびっしょり。

「いいから、電話して」

これ以上痛くなったらもう気を失っちゃいそう。そうなる前に聞きたいことがある。もう、電話してと伝えるのが精いっぱいでした。おなかが痛すぎて自分で電話をしようと思っていたのに、とっさに痛みが強すぎて頭が回らないと感じたのです。

うずくまる私の横で、夫が病院へ電話。私の名前や生年月日、診察券の番号などを伝えている間にもどんどん痛みが強まります。

「電話、出られる? 先生が話せますか? って…」

「…うん」

もうどうにもならないくらいおなかは痛くて、電話どころじゃないという感じでしたが、必死で力を振り絞りました。

◆強烈な腹痛の中、産婦人科医に質問したかったこと

電話対応してくださったのは、当直の先生でした。

医師「今、ご主人から状況を伺って、クロサワさんのカルテも見ているのですが、大丈夫ですか? どのような感じですか? お話できますか?」

「もう痛すぎて、気を失いそうで…。そうなる前に、聞いておきたくて…。もし赤ちゃんが出てきてしまったら、どうしたらいいですか?」

おなかの痛みもつらかったのですが、この質問をしなければならないことが本当に悲しくて、話しながら涙がぶわっとあふれました。

医師「その時は、もし可能だったら、ジップロックのようなビニールの袋に入れて、冷蔵庫で保管して、明日でいいので病院へ持ってきてください。出てきてしまうと、おなかの痛みは和らぐんで…」

冷静になろうとしても、直面しているこの状況にただただ涙が止まりません。堪えられるレベルをはるかに超えた痛み。後半の先生の説明はうまく聞き取ることができませんでした。

もうダメだとわかっていても、赤ちゃんがいてくれるなら、おなかがずっと激痛でもいい。ボロボロの状態で、泣きながら電話をしている私を見守る夫もつらかったと思います。深呼吸をしながら、とにかく痛くて痛くてしんどいという状況を先生に伝えました。でも…、

医師「う~ん。そうですか。もしかしたらやっぱり流産が近いのかもしれませんね。でももし赤ちゃんが元気ならば、ここが頑張りどころなので、安静にしていてほしいです。今から病院へこられそうだったら、僕が診察できますけれど、どうしますか?

申し訳ないことに、クロサワさんの現在の週数だと、本当におなかに赤ちゃんがいるかどうかを確認してしまうだけになってしまうのですが…、治療や処置といったことはできない週数なんです」

苦しさと悲しさで泣きながら嗚咽する私には「もし赤ちゃんが元気ならば、ここが頑張りどころ」という言葉が刺さりました。赤ちゃんを信じよう。大丈夫、きっと大丈夫。自分に言い聞かせました。

「そしたら、家で横になっています。赤ちゃんのことも心配ではあるのですが、安静にすることが最善ならば…。今夜は家にいます」

医師「わかりました。もしまた状況が変わったらいつでも電話をしてくださいね。夜中でも病院へこられそうだったら、いつでも僕、診ますからね」

「ありがとうございます」

このあと夫に電話をかわってもらって、私は寝室へ戻りました。夫は今の内容に関する説明を改めて医師から聞いたそうです。そして、ほどなくして最後の瞬間がきてしまいました。

放心状態の私と必死の夫

医師と電話をしてから2時間ほどが過ぎた23時過ぎ。激しい痛みが続く中、トイレへ行くと、ぽちゃんと塊が落ちてしまったのがわかりました。「あぁ~」という私の悲鳴を聞きつけた夫がやってきて、ドアを開けました。

「どうした?」

「落ちちゃった」

「大丈夫。どいて」

夫がすぐにトイレから、小さな胎嚢と思われる白っぽい塊と、赤い血の塊のようなものを拾い上げてくれました。

「ふくろ、ふくろ」

「あ…」

わんわん泣いてばかりの私は、夫に指示されるままあわててキッチンへ。ジップロックを広げると、夫が大切そうに中へ入れてくれました。そしてふたりで手で包みながらしばらく無言で泣きました。

「あんまり触っているといたんじゃうね…」

「うん。しまっておこう。病院へ電話するね」

「うん」

廊下からは、出てきてしまったという状況を医師に説明している夫の声が聞こえました。目からは涙がどんどんあふれてくるけれど、私は今手のひらにいる赤ちゃんを一生忘れないようにじっと見つめることしかできませんでした。

「先生が話しできますか? って…」

「うん」

医師「今、ご主人から状況をお伺いしました。痛みってどうですか?」

「あ…。もうおなか…、痛くないです」

医師「そうですよね。恐らく流産されてしまったものと思います」

こうして私の短い妊娠が終わりました。

この連載は、妊活のカテゴリーで、かつ私自身の個人的な不妊治療の経験をお話しているもので、これから不妊治療のステップアップを考えている人たちの役に立つかもしれない内容を発信したいと思って書きはじめました。

そのような中で、わざわざこの流産のことをお話するかどうか、すごく悩みました。むやみに脅かすような話はやめた方がいいかなとも思いました。でも、30代真ん中以降からの妊娠や不妊治療には流産のリスクが伴いますし、私自身、このあとすごい孤独感に襲われて…。

だから、もしどこかに同じような経験をしてしまった人がいたとしたら、「ひとりじゃないよ。私も同じだったよ」というメッセージを送りたいなと思い、編集部の方とも話し合い、記事にすることにしました。

体外受精の移植の話の前に、もうしばらくつらいお話が続きますが、ご容赦ください。次回は流産後に医師から受けた説明の話などをしたいと思います。

これまでの記事▶︎不妊治療体験レポ

TOP画像/(c)Shutterstock.com

クロサワキコ

34歳・主婦ライター。妊活歴3年目。男性不妊の治療や人工授精に体外受精、ステップアップを重ねていくなかで感じた不妊治療のリアルな本音を発信しています。

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