人に簡単に頼れない理由は、「人間だから」!?
「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
人に頼るのが負担に感じるのは、「先を予測しすぎ」ているせい
「人に頼れない」という方は、心の優しい方です。人に頼ったときの負債感を過剰に予測しているのです。
負債感の出どころは、狩猟採集時代における「タダ乗り防止」の仕組みです。狩猟採集時代の協力集団では、メンバーが能力に応じた分業を行う平等社会でした。誰かが獲物を仕留めて集団に貢献したら、「次は俺が仕留めてくる」と奮起したで
しょう。この奮起の根底にあるのが負債感です。
しかし、能力には個人差があります。それに、ケガや病気で働けなくなることもあります。結果として、一部の人々が集団によってかなり一方的に支えられるという事態もあったにちがいありません。それをよしとする和気あいあいとした協力集団が、狩猟採集時代には築かれていたのでしょう。
ただ、それにも問題点がありました。一方的に支えられる立場の人々が増えると協力集団が成り立たなくなるのです。とくに、働けるのに働かないという「タダ乗り」を防止する必要が生じたのです。
防止法のひとつは威嚇です。「働けるのに働いていないではないか」と長老が怒りを向けて、当人が反省して働くことを促す方法です。ただこれは、当人の反省がなければ集団から追い出さねばならず、かなり暴力的です。チンパンジーの階層社会に回帰してしまう方法で、狩猟採集時代の平和的な協力集団向きではありませんでした。
人には「恩義を返したい」気持ちが備わっている
そこで進化したのが「負債感」です。人に支えられればそれを「借り」として感じ、「なんとか返さねば」と思うようになったのです。負債感がある人々が集まれば、能力に応じてみんなが率先して働く協力集団がいち早く築けるわけです。
以上の経緯から、人に頼れない人は「頼ったあとのこと」を考えてしまうのです。自分は何を返せるだろうか、返せないとタダ乗りになってしまう。タダ乗りのような不義理な状態は許せないと、自分を責める事態を予感し、頼らないほうがよいと思うのです。
負債感を利用する人への警戒心も働く
さらには、その負債感を利用する人もいます。頼ってきた人に恩に着せて、後で無理難題を押し付ける人です。「頼ったあとのこと」を考えると、このような支配される関係も懸念されます。人に頼るのには、いろいろと難しい心理的問題がありますね。人に頼れないのはしょうがないことなのです。
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進化心理学者 石川幹人
1959年、東京都生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。
東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知科学、遺伝子情報処理。【生物進化論の心理学や社会学への応用】【人工知能(AI)および心の科学の基礎論研究】【科学コミュニケーションおよび科学リテラシー教育】【超心理学を例にした疑似科学研究】などの生物学や脳科学、心理学の領域を長年、研究し続けている。
「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。主な著書に、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『その悩み「9割が勘違い」』(KADOKAWA)、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)ほか多数。