「見かけ至上主義」「ブランド品好き」のルーツは動物にあった!?
「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
見かけをよくしたいのは動物も同じ
流行の服、バッグ、靴、腕時計など有名ブランド品は人気があります。身につけると自分がすごーく大きくなった気分になり、うきうきします。だから、かなり高価でも買ってしまいます。高価なものほど売れる傾向さえもあります。
この行動の源は、サルよりももっと前の動物の時代にさかのぼれます。たとえば、シカの角を思い出してください。いくつにも分岐して立派ですね。ただし重いので、頭の上にのせているシカの首への負担は尋常ではありません。では、なぜシカは、苦労してまでも角を進化させているのでしょうか。…… それは生殖上の利点があるからです。
動物だって見かけの良し悪しでモテが決まる
シカで立派な角を持っているのはオスです。オスは精子バラマキ戦略で多くのメスと交渉したがる行動特性を持っているため、メスをめぐってほかのオスと戦います。
まれに角をつき合わせて戦うこともありますが、本気で戦うと双方にとって痛手です。そこで、角の立派さを見せ合うことで、勝敗を決める手段が進化しています。このような行動を生物学でディスプレー(見せつけ)といいます。
メスのシカから見ても、オスのディスプレー行動には大きな利点があります。重く大きな角は維持するのが大変なので、無理をしてそれを実現できるオスは強く健康であることを示しています。結果的に、立派な角を作る遺伝子が生き残っていくのです。
暇なオスほどファッショナブル!
同様の例が鳥類にもあります。ゴクラクチョウなどに見られるきらびやかな飾り羽です。オスに特徴的ですが、行動観察からすると、オス同士で見せ合うというよりは、メスにアピールするのが主目的のようです。
ツバメやスズメのように共同で子育てをする鳥類の種では、オス・メスの見かけの差が小さいことがよく知られています。つまり、メスが単独で子育てする種に、オスのほうが大きかったり、きらびやかな飾り羽を持っていたりする傾向があるのです。ひまなオスがそういうことに精を出しているのですね。
さて、ヒトの生態についての話に入ります。多くの動物と同様に、ヒトの祖先でも、オスがディスプレー行動をして、オス同士で張り合っていたと推測できます。ゴリラと同様に、ヒトでもオスの体格がメスより平均して大きいのは、その名残です。しかし、狩猟採集時代に一夫一妻制が導入されると、魅力的なオスをめぐってメスが競争する状況も生じ、メスのディスプレー行動も強く出現しました。
男女によってディスプレイの仕方が異なる
もともと、子孫へ引き継がれたディスプレー行動の遺伝子は、男女両方が備えもっていました。旧来は、性ホルモンによって、男性に際立って顕在化していたものが、両性に顕在化するように進化したのです。
それでも依然として、ディスプレー行動の性差がありました。男性は「強さ」であり、女性は「美しさ」です。これらの差が、生殖における事情から生じたのは、前述した通りです。
さらに文明社会では、それに「財産」が加わったのです。男性ならば「高級外車」を運転して「強さ」をアピールし、ライバルを出し抜くことができるようになりました。
女性ならば、ブランド品に身を包んで「美しさ」を演出することができます。強さや美しさは、それだけでも動物的な優越感につながりますが、文明の時代では財産がアピールできて、さらに優越感の相乗効果があるのです。
ブランド品は格差社会でますます高騰化
ブランドは、もともと品質の訴求から始まっています。それなりに長く使ってみないと耐久性などの性能がわからない商品を、ブランドによって性能保証することで、高くても売れる状態が作られたのです。
「このブランドを買えば間違いない」という消費者の意識は、「良い性能の商品を届けたい」という生産者の立場からも価値がありました。
ところが、ブランド品が財産のアピールに使われるようになると、高ければ高いほどアピール効果になるので、本来の性能に見合う価格を超えて、止めどもなく高くなってしまうのです。
しかし昨今では、庶民の経済状況から遊離した高価な「高嶺の花」商品になって、誰にも見向きもされないブランド品も増えてきました。ブランド品は生物学的な源と同時に、格差などの社会的状況を映し出しているのです。
『生物学的に、しょうがない』発売中!
▲『生物学的に、しょうがない!』(著者:石川幹人・出版:サンマーク出版)
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進化心理学者 石川幹人
1959年、東京都生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。
東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知科学、遺伝子情報処理。【生物進化論の心理学や社会学への応用】【人工知能(AI)および心の科学の基礎論研究】【科学コミュニケーションおよび科学リテラシー教育】【超心理学を例にした疑似科学研究】などの生物学や脳科学、心理学の領域を長年、研究し続けている。
「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。主な著書に、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『その悩み「9割が勘違い」』(KADOKAWA)、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)ほか多数。