「片付けが苦手なのは人類に共通」と言い切れる理由
「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
片付けはみーんな苦手だった!?
あなたの家の押し入れは、もう何年も使っていない物でいっぱいになっていませんか。どこに何があるかわからない状態で、「確かあったはずなんだけど、見つからないからまた買ってしまった」という経験も少なくないでしょう。
狩猟採集の生活を送っていた人類は、物をあまり持っていませんでした。なにせ獲物を追って移動しながらの生活ですから、せいぜい身につけられる程度の物しか持てなかったのです。だから、片づけるという習慣もなければ、その概念さえなかったにちがいありません。
ところが、文明の時代になって私たちは家を建てて定住し、物を所有するようになったのです。季節に応じた服や装飾品、食事を作るための道具、家具や調度品、雑貨、レジャー用品、電器製品、文房具など、数百個から数千個の物で家の中はあふれかえっています。
それらの物を整理整頓できていない人がほとんどでしょう。物が片づけられないのは、第一に、太古の時代から片づけるという作業をしてこなかったので、それに伴う能力が生物学的に進化していないからです。
片付けるには高度な能力が必要
だから、一生懸命に訓練して身につけないといけません。
物を使用する場面や頻度に応じて、それぞれをしまう場所を適切に決めて、使用するときには探し出せるように管理しなければなりません。使用後には、決めた場所に戻すことも重要です。よく考えると、この作業には高度な能力が必要であることがわかります。あなたが片づけられないのは、ごく当然の傾向なのです。
さらに第二の理由があります。私たちは物を多く所有したがるので、スペースを超えた量の物が家にあるのです。状況に応じて最適な道具を使うと便利ですし、今流行の雑貨が家にあると生活が充実してくるでしょう。
すると、どんどん物が増えます。もうやらなくなった趣味の道具や、流行の去った雑貨が「まだ使えるし、いつかまた使うかも」と整理できないまま放置されるのです。
「片付けられないなら捨てる」は正しかった
仮に使おうと思っても見つからない所有物は、ないも同然です。片づけの妨げになるので、捨てたほうがいいでしょう。ところが、捨てると財産を失う気がして捨てられないのです。すでに価値がなくなっているのに、愛着だけが残り、所有にこだわるのです。
あなたが物を捨てられないのも、ごくあたり前です。現に少しなら物を所有していたほうが、生活に有利ですよね。でも片づけられなくなるのは、物の持ち過ぎなのです。さあ、メルカリで売り払っちゃいましょう。気分が楽になりますよ。
『生物学的に、しょうがない』発売中!
▲『生物学的に、しょうがない!』(著者:石川幹人・出版:サンマーク出版)
こちらの記事で紹介した内容はほんの一部だけ。書籍では他にもイライラ、不安、ダラダラ、暴飲・暴食、依存、孤独…… 全部をポジティブに諦める方法が紹介されています。
「やる気が出ない」「ついつい食べ過ぎてしまう」「イライラしちゃう」「フラれてつらい」…… などの悩みがあるアナタ、ぜひチェックしてみてください!
TOP画像/(c)Shutterstock.com
進化心理学者 石川幹人
1959年、東京都生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。
東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知科学、遺伝子情報処理。【生物進化論の心理学や社会学への応用】【人工知能(AI)および心の科学の基礎論研究】【科学コミュニケーションおよび科学リテラシー教育】【超心理学を例にした疑似科学研究】などの生物学や脳科学、心理学の領域を長年、研究し続けている。
「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。主な著書に、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『その悩み「9割が勘違い」』(KADOKAWA)、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)ほか多数。