他人にマウントする人が「動物的」だと感じる感覚は正しい
「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
人は他人のウエを行きたがる
私たちは、性的な魅力のマウントをとります。
「Aくんって頭いいわねぇ」⇒「運動神経は俺のほうがウエだぜ」
「Cさんは美人だね」⇒「あの人は性悪娘って噂よ」といった具合です。
また、仕事上のマウンティングもよく行われます。
プロジェクトが成功すると「自分が優良顧客を連れてきたから」「自分の商品デザインがよかったから」「俺が休日返上で働いたから」などと、それぞれが自分の寄与をことさらに主張します。
私たちは、「成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい」と、常に人のウエを行きたがるのです。
マウントしがちな人はサルの社会を生きている
マウントの起源は、チンパンジーに見られる階層社会にあります。群れの中では、下位個体が上位個体に従う順位関係があります。また、若者が成長して壮年者が老いていくと力関係が変わるので、常に順位交代の闘争が生じます。
「俺はウエを目指したくないから」と、闘争から距離を置くことはできません。いじめられて最下位に追いやられてしまいます。
食べ物が不足してくると最下位には回ってこなくなり、群れの中での最初の飢え死にが予定されています。ウエを目指さなくとも、生き残るための闘争が発生します。自分よりもシタの個体がいればまずは安心ということなのです。
人には「ヒトの時代の心」と「サルの時代の心」が隠されている
人類は、狩猟採集時代の協力集団では、闘争が少ない平等社会を築いていました。
しかし、それ以前のサルの時代までに、階層社会を形成していた時期がかなり長かったようです。その結果、私たちの心には「何かと他人のウエを行きたい」と思う心理が隠れています。
企業も上下関係を利用している!?
企業では、適度に階層を導入して、そうした心理を刺激しています。昇進を動機にして残業させたり、上司からの命令によって効率的に仕事をさせたりします。私たち自身も、動物時代に慣れた関係なので、階層があることがあたり前のような気がしてしまいます。
こうして、ウエをとるマウント合戦におのずと引き込まれていくのです。マウンティングが起きるのは、企業をはじめとした階層的な環境のもとで、競争が奨励されているためです。
私たちの生得的に有している感情に隠れた上下意識がおのずと発動されるのです。順位がウエのほうが食べ物を先に得られるし、生殖相手も見つけやすい。シタに行けば、万一のときに危ないから、仕方ありません。
「みんな平等」な気持ちをオフィスに取り戻せ
とはいえ、親密な仲間だけで和気あいあいと仕事をしたいとも思います。その気持ちも私たちの生得的な感情に隠れているのです。そのような状況が許される職場であれば、マウンティングも減ってくるに違いありません。
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進化心理学者 石川幹人
1959年、東京都生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。
東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知科学、遺伝子情報処理。【生物進化論の心理学や社会学への応用】【人工知能(AI)および心の科学の基礎論研究】【科学コミュニケーションおよび科学リテラシー教育】【超心理学を例にした疑似科学研究】などの生物学や脳科学、心理学の領域を長年、研究し続けている。
「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。主な著書に、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『その悩み「9割が勘違い」』(KADOKAWA)、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)ほか多数。