「嫌い」を使いこなして、職場の人間関係の悩みとオサラバ!
この4月、新しい職場など、ライフステージが大きく変化した人も少なくないと思います。職場は変わらなかったとしても、新入社員が配属されたり、人事異動で上司が変わったりといった、変化が訪れた人も多いはず。そして新年度が数週間過ぎた、ちょうど今ぐらいの時期こそ、この人(もしくは場所や事柄)とは合う・合わないといった「好き・嫌い」も出てくる頃ではないでしょうか。
ただやっかいなのは、そうした「好き・嫌い」のうち、「好き」は歓迎されても「嫌い」はとにかく我慢すべしという風潮です。もし感情の赴くまま嫌悪感を示そうものなら、まず100%、「大人気ない」とか「心が狭い」と批判されるのがオチでしょう。だから普段はなるべく「嫌い」を見せないよう、ストレスMAX…。ああ、世の中が「好き」だらけだったらいいのに!
「そんな、『嫌い』を嫌うばかりではもったいない。『嫌悪』という感情にはとても多くのポテンシャルがあるんです」
そんな衝撃的な話をしてくれたのは、脳科学者の中野信子さん。近著『「嫌いっ!」の運用』(小学館新書)では、「嫌い」という感情の正体を脳科学的に分析し、戦略的に活用することを提唱しています。
「多くの人は『嫌い』と感じた時、なぜ嫌いなのかとその理由に目を向けるよりも、嫌いなものはつくってはいけない、『嫌い』は解消しなければいけないという社会通念が先にきてしまうんですね。
それは、子供の頃から友達は多い方がいいとか、食べ物は好き嫌いなく食べるべきだと刷り込まれて育ってきた教育もあるでしょうし、同調性を大事にしようという日本の文化も関係していると思われます。また、自分が誰かを嫌ったら自分も嫌われるんじゃないかと恐れているからかもしれません。
でも生物学的に見れば、『嫌い』をはじめとした『ねたむ』『キレる』『やっつけてやりたい』といったネガティブな感情は、生きていくために必要不可欠な防衛本能。誰にでも芽生えるごく自然なもので、決して、『嫌い=悪』ではありません。
むしろ、強いエネルギーを持つ『嫌い』をみすみす捨てたり、抑え込んで自分が苦しくなったりしてしまうのはもったいないこと。戦略的に運用していけば、他人との付き合いがぐっと楽に、あなたの人生がもっと豊かになりますよ」(中野さん・以下「」同)
「嫌い」を嫌わなくていいとは、なんて心強いお言葉! 実は、故スティーブ・ジョブスさんや秋元康さんなど、成功者も「嫌い」を大事にしてきた人たちなのだそうです。
すぐに始められる「嫌い」との付き合い方
でもどうやって「嫌い」を大事にすればいいのでしょうか? 中野さん、Oggi読者もいますぐ始められる「嫌い」との付き合い方を教えてください!
「たとえば、嫌いな人がいたら、なぜ自分はこの人のことが嫌いなのかと深掘りしてみる。そうして行き着いた答えが、“自分と似すぎているから”とか“自分と正反対だったから”という理由になったとしましょう。似ているから嫌なのだとしたら、自分も誰かからそう見られているのかもしれない。そこに、自分の課題が見えてきます。
また正反対すぎて嫌なのだとしたら、改めて自分が大事にしている信念や、こだわりを再認識することができます。
つまり、『嫌い』を知るということは、自分を知ることなんです。これに気づけば、『嫌い』という感情を抱くことに特に嫌悪感も罪悪感も湧かなくなるでしょう。何より“全てが嫌い!”と感情に支配されて苦しむことから解放されると思います。
おすすめは、文字にして書き出す方法。頭の中だけでは思考が整理しづらいので、手書きでもパソコンでも、嫌いなことや嫌いな人の“何が嫌なのか”を書き出してみるといいですよ。思った以上に整理ができますし、客観視することで気持ちもスッキリしていくはずです」
たしかに、「何が嫌いか」を入り口にしたら、その裏に潜む「何が好きか」がすっと出てきました。それどころか、嫌いな人の嫌いなポイントが明確になったら、それ以外の「嫌いじゃない」部分が浮かび上がってきたから不思議です。とにかく嫌い! だったのが、ある意味その人を認められるように。感情的にならなくなる、これだけでも大きな変化です!
そんな「嫌い」への偏見が消えたところで、Oggi読者が職場で出会いがちな「嫌な人」について、どう捉えて、どう対応していけばいいのかを教えてもらいました。
「嫌いな人」のタイプ別、対応の仕方
【やたらとマウントを取ってくる人】
「世の中にまだまだたくさんいますよね(笑)。でも、そういう人は、マウントを取らないといられない人であることが多いでしょう。認めてもらいたくてしょうがない、いつも不安な人。とはいえ、それをダイレクトに指摘しても、その人は認めないでしょう。
やり込めることが目的なら別ですが、自分の居心地をよくすることが第一義であれば、あなたの立場を認めていますよという態度を見せて攻撃を抑制するのが上策でしょう。とはいえ、言われっぱなしも嫌ですよね? だから認めてあげながらもチクっと返してもいいと思います。
仕事の面でマウントを取ってくる先輩だったら、しれっと『先輩の時代はそれが大事だったんですね~』と言ってみる方法もあります。若さとかモテでマウントを取ってくる後輩だったら、数年後に自分も同じ立場になったときじくじくと痛みを感じてもらえるように、マウントを取ろうとする未熟さやうしろめたさを彼女の記憶に刷り込むように呪いをかけてあげましょう。
『いまの年齢や立場ではわからないかもしれないけど、私も傷つかないわけじゃないからね?』『あなたはもっと人の気持ちのわかる人だと思っていたけど、意外とそうでもないのね。残念だな』等と、悲しい顔、がっかりした顔をしていうとか。不快に感じているときちんと伝えることも、風通しの良いチームづくりという意味では、大切な業務の一環といえるでしょう。
ただ、もうあと半年でこの会社をやめるしもう二度とこの人に会うこともない、などという場合は、ガツンと言い返してもいいと思います」
【人の手柄を自分の手柄のように持っていく人】
「手柄を奪われるというのは、男性よりも女性が被害に遭いやすいというデータがあります。相手がそんなことするはずないだろうと思っている人ほど、被害に遭いやすいという側面もあります。
そうされないために、日頃から対策を講じておく必要があると思います。いまon-goingの仕事を同僚や後輩など、周囲に知らせておく。一生懸命やっている途中経過もきちんとアピールする。そうすれば、相手もうかつに手を出せなくなりますし、いざそうなってしまった時に、周りに証言して味方になってくれそうな人をつくっておくのです。
ただよく聞くのは、不倫等の公にできない関係にあった男性上司や同僚のために陰ながら一生懸命尽くしてきた彼女が、関係がこじれた途端、そのことを持ち出して、手柄を奪われた、パワハラだ、セクハラだ、と騒いでしまう例です。結果として搾取されたことになったかもしれませんが、見る目がなかったのは自分です。これは、本質的には別物ではないでしょうか」
【相手には凄く細かい事を要望してくるのに自分はかなりルーズな人】
「全員が当てはまるわけではないのですが、男性はマウントを取りたがり、女性はフェアであることを求める傾向があるようです。ダブルスタンダードを許せない気持ちが生じやすい。
『先輩はいつも本当にきちんとしているので、私たちみんな勉強になります~』と、周囲に聞こえるように言ってもいいと思います。誰かが吹き出してくれたりするとなおいいですね」
【自分のペースでずっと話しかけてきて仕事の邪魔をする人】
「これは普通にその人に注意した方がいい事案(苦笑)。『先輩の話が面白いからつい聞いてしまうんですけど、それだと私の手が止まって先輩をお待たせすることになるので、仕事させてください』とか、『これから集中するので返事できません』などと、はっきり伝えていきましょう。
ポイントは『Yes、But』で、あなたの話は聞きたいけれど、すみません、というポーズを取って伝えることです。」
【色恋を武器にのし上がる人】
「色恋とはいえないかもしれませんが、これは男性も一緒です。男の社会でも「男芸者」のようにして出世する人のほうが、むしろ多いくらいかもしれません。
もちろん、業務内容の水準だけで勝負しているという自負のある人にとっては、これは面白くないことでしょう。が、そうやってお酌している側にも“一分の理”があるんです。相手の機微を読み取ることを、業務の一環としてやっている可能性もあります。シンプルに、自分とその人とは違う。その人は、そういうやり方をする人なんだな、という話です。
もし、色恋をたよりに昇進しているとしたら、その人は、次にそういう人が現れる可能性に、いつもおびえていなければなりません。同じことをする人が出てきたらどうしよう、捨てられたらどうしよう、という不安を処理するのは難しいことです。だからもし後ろ盾をほのめかしてマウントを取ってくる人がいたら、そうしなきゃいけないほどの不安やトラウマがあるのかもしれないな、と読んでおくと、対処の方法も考えやすいでしょう」
【食べ方、笑い方… なんとなく生理的に嫌いな人】
「生理的に嫌いなものは抗わない方がいいのでは。生理的に嫌い、という感覚には、危険を予め察知するなど、思った以上に大きな意味があるものです。嫌いを無理に克服しなくちゃいけないという状況は限られているでしょうから、工夫してできるだけ距離を置いておくことが最も有効な解決法ではないかと思います」
【なぜか自分が褒められていると勘違いする人】
「矛盾の処理を行ったり、自分を客観的に観察したりする領域が脳の前頭葉の一部にあるのですが、社会性が高い人はそこがよく機能しているんです。一方、なかなかそれがうまく機能しない人もいる。あなたの認知は間違っているよ?と伝えるだけ無駄で、伝えようとしたそばから嫌われてしまうだけでしょう。認知できないものをいくら説明しても徒労になってしまう。また、正確に認知することが幸せかと言われたら、これもまた難しいところでしょう。勘違いしたままの方が幸せで、仕事のモチベーションが保たれるということもあります。
なので、そういう人なんだろうなと理解しつつ、勘違い発言にモヤモヤした場合は、“ん???”と大げさにジェスチャーをして、明らかに噛み合ってないことを表現しておくのはありかもしれません。相手には響かなくても、周囲にはわかってもらえますから」
* * *
チクリと言い返す時は、笑顔がポイント。伝え方も大事なんですね!
もっと詳しく知りたいかたは、ぜひ、中野さんの『「嫌いっ!」の運用』をチェックしてみてください。職場の人間関係だけでなく、自分や家族に対する嫌悪感、嫌いな作業への向き合い方などが具体的に書かれているので、今すぐ使えるハウツー本になること、間違いなしです!
「嫌いっ!」の運用(小学館)
著/中野信子
価格:858円(税込)
お話を伺ったのは… 脳科学者 中野信子さん
1975年東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。
東京大学工学部応用化学科卒業、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。
脳や心理学をテーマに研究や執筆活動を精力的に行うほか、コメンテーターとしても活躍中。科学の視点から人間社会で起こりうる現象および人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。
著書に『ヒトは「いじめ」をやめられない』『キレる!』(以上、小学館)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』(講談社)など多数。