コロナ禍のメンタル不調に自宅でできるケア
IKKOさんやSexy Zoneの松島聡さんなど、著名人が罹患したと発表される“パニック障害”。突然強い不安感に襲われ、動悸や呼吸困難、めまいといった“パニック発作”に見舞われるのが特徴です。
私は鎌倉市で鍼灸院を開業している鍼灸師・心理カウンセラーですが、実は、私自身がパニック障害を患い、苦しみ、6年かけて克服した過去があります。パニック障害の原因は十分にわかっていませんが、研究は進んでいて、脳の機能、いわば誤作動によるもの、ということは解明されています。電車の中でなんの前触れもなく「死ぬかもしれない」と恐怖を覚えるほど息が苦しくなり、激しい動悸やめまいなども起きるのに、精密検査をしても「どこも異常なし」という診断結果が出るのがパニック障害。「異常なし」なのに症状が続くため、さらに不安や恐怖が強くなり症状が悪化する… というのが、パニック障害をこじらせるパターンです。
コロナ禍で、私たちは常にも増してストレスにさらされる日々を送っています。誰もがかかっても不思議ではないパニック障害を知り、自身でケアできる方法をお伝えします。
パニック障害を引き起こす心とからだの状態
パニック障害を発症する人は、几帳面、社交的、協調性があるなど、「性格がいい」「つき合いやすい」と、周囲から思われている人が多いようです。
こういうタイプの人は、責任感が強くプレッシャーを感じやすい、緊張しやすい、気にしやすい(他人の目が気になる)といった面も併せ持っていることが多いものです。いろいろなことを「がんばらなくちゃ」と思いがちなので、ストレスに対する感受性が高く、不安をため込みやすい傾向もあるようです。
不安に敏感なのは、じつは「不安体質」という体質。ほかの人よりも不安を抱きやすく、特定の物や情報などに対して過敏に反応するので、パニック障害になりやすいといわれています。こう書くと「パニック障害になったのは、私の性格のせいなのね」と落ち込んでしまうかもしれませんね。
でも、そうではないのです。体質と性格はまったく別のものです。体質は自分が意図してそうなるものではありません。例えば、花粉症でくしゃみが止まらなくなるのは、「アレルギー体質」だからですよね。性格によってアレルギー体質になるわけではありません。不安体質も同じこと。持って生まれたものなので、自分の意志でコントロールできるものではないのです。
しかし、そういう不安に陥りやすいあなたの「体質」はそのままに、あるがままの自分であり続けながら、セルフケアできる方法があるのです。
脳、心、からだ-この三つの緊張をときほぐし、恐怖を少しずつやわらげていき、最終的にはパニック障害を克服するのが、私が見つけた影森式メソッドです。まずは自律神経を整えて緊張をほぐすことから始めてください。そして不安をコントロールする方法を覚えたら、「イメージトレーニング」をスタート。
少しずつ、あなたのペースで、試していきましょう。
■影森式メソッドとは?
パニック障害を克服するには、まず心とからだの緊張をときほぐし、リラックスすることが欠かせません。不安や恐怖心が交感神経の緊張をもたらし、これがパニック発作の引き金となる可能性があるからです。
私の鍼灸院にいらしたパニック障害の方のからだに触れると、ほとんどみなさん、からだがこわばっています。忙しい現代社会では、睡眠不足や過労、人間関係でのストレス過多の状態に陥りがちで、これがパニック発作を引き起こす誘因となる場合もあります。その事実に気づいて生活を見直すことが、症状の悪化を防ぐことにつながります。
私たちが暮らす現代の社会は、誰もが自律神経のバランスを乱しやすく、ストレスがたまりやすい環境にあるという認識で、自身をもっといたわる時間を持つべきだと思います。緊張しているからだをほぐせば、心もほぐれていきます。パニック障害に悩んでいる人はもちろん、不安感が強い人や緊張しやすい人も、「おもち呼吸法」と「ツボ刺激」で自律神経を整えましょう。
「おもち呼吸法」を毎日行ううちに、しだいにリラックスする能力が高まっていきます。そうすれば、心とからだが深く落ち着いてきて、外からのプレッシャーやストレスに対し、むやみに反応しないようになるのです
■おもち呼吸法とは?
規則正しい生活を心がけていても、ときに「発作が起きそう!」「なんだか不安で胸が押しつぶされそう」という感覚に襲われることもあります。発作が起きそうになったら、すかさず心とからだの緊張をほぐして、不安な気持ちを鎮めましょう。
心とからだは密接に結びついているので、心が緊張するとからだもこわばってしまいます。不安や恐怖を感じていると、呼吸は浅く、速くなります。この浅く速い呼吸が交感神経を刺激するので、そこに動揺やストレスが加わると、さらに呼吸は浅く速くなり、動悸や発汗などの症状が起きてしまうという悪循環に。
これを逆手に取って、まず、からだをリラックスさせることで、心の落ち着きを取り戻そうというのが、この「おもち呼吸法」です。
自律神経は意識とは関係なく働いているので、「心臓のドキドキを止めて!」といくら命令しても、ドキドキを止めることはできません。でも、呼吸だけは自分の意志で速くしたり、遅くしたりすることが可能です。落ち着いてゆったりと呼吸することで、副交感神経が優位になり、心とからだの緊張がほぐれ、深くリラックスすることができるのです。
私がおすすめしている「おもち呼吸法」は、とろけるおもちをイメージしながら息を吐くというもの。
◆おもち呼吸法のやり方
【1】軽く上半身をストレッチしてから行いましょう。口はストローを吸うときのようにすぼめて、からだの力を抜きながらフッと長めに息を吐きます。
そのとき、頭の上でとろとろに溶けていくおもちをイメージしてください。全身の力が抜けていくとともに、おもちが頭の上で溶けていきます。ゆっくりゆっくり時間をかけて、少しずつ息を吐きます。
【2】息を吐き切ったら、お腹をふくらませながら鼻から息を吸い込みます。吸うときには好きな香りをイメージして、お腹をふくらませましょう。
十分に空気を取り入れたら、一拍おき、とろとろと溶けていくおもちをイメージしながら、ゆっくり少しずつ息を吐きます。息を吸うときは交感神経が働き、吐くときに副交感神経が優位になるので、吐く息を長くするように意識してください。
力んでいたからだがゆるみ、頭のモヤモヤもスッキリ。エネルギーがみなぎってくるのが実感できるでしょう。この「おもち呼吸法」を習慣にして続けることで、しだいに自律神経が整っていきます。
1回につき5分ほど行い、1日2回を目安に続けてください。からだがリラックスして眠りにつきやすくなるため、みなさんには就寝前にも行うことをすすめています。いやな感情にとらわれたり、不安な気持ちが高まってきたときも、この「おもち呼吸法」を行うと気分をリセットすることができます。
また、呼吸法を行うときに森の中をイメージすると、より深くリラックスできます。木々の緑、木漏れ日などを思い浮かべ、鳥のさえずりや小川のせせらぎ、風にそよぐ木の葉の音を感じ、土の匂いやひんやりとした空気を吸い込んでみる。
五感で森の中を感じながら、ゆったりと「おもち呼吸法」をおこなってみてください。
『パニック障害 大丈夫! かならずよくなる』発売中
ここでは一部しか紹介できませんでしたが、『パニック障害 大丈夫! かならずよくなる』では、パニック障害との向き合い方を詳しく紹介しています。興味があれば本を読んでみてください。
▲『パニック障害 大丈夫! かならずよくなる』(河出書房新社)
著者:影森佳代子(鍼灸師、心理カウンセラー)
定価:本体1350円(税別)
イラスト/林ユミ
鍼灸師・心理カウンセラー 影森佳代子(かげもり かよこ)
鍼灸師・心理カウンセラー、鎌倉ひまわり鍼灸院 院長。
1964年生まれ。ボストン大学教養学部心理 学科卒業。同志社大学大学院修士課程修了。早稲田医療専門学校鍼灸学科卒業。心理カウンセラーを経て、鍼灸師として独立。 延べ施術数は2万件以上。 30代でパニック障害を発症するが、心理学と東洋医学を統合した独自のメソッドで自ら克服。現在は「影森式メソッド」としてパニック障害に苦しむ人たちにノウハウを伝え、多くの治療実績を上げている。オンラインでの相談・指導も行う。