新型コロナウイルスワクチン「mRNAワクチン」の正体
巷には、怪しい、そして効き目のない「薬」もたくさん出回っていますが、今日お話するのは本当に大まじめに効果もあって、しかも科学的にもちゃんと根拠のある薬を紹介します。夢のような薬の話をしようと思います。
夢のようなお薬の話の第2弾は、「夢の新型コロナウイルスワクチン」!
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◆mRNAワクチンとは?
新型コロナウイルス感染拡大の第3波はもう本当にそこまできている感がありますが、新型コロナウイルスワクチンも、もう本当にそこまできているのではないでしょうか。
夢の新型コロナウイルスワクチンとしてお話しするのは、今、話題の「mRNAワクチン」について。mRNAとはタンパク質の設計図です。こんな説明、意味不明ですよね。要は、ウイルスの一部をヒトの体内で作らせるための「種」みたいに思ってください。この種をヒトの体内に打ち込むと、ヒトの体内でウイルスの一部ができる、体内でできたウイルスの一部は異物ですので、ヒトは免疫を作り出すと言うことです。
◆新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンはなぜこんなに早くできたのか?
これまでの、ワクチンといえば、ウイルス自体を不活化あるいは弱毒化して増やすという作業をしていたので時間が掛かりました。具体的には、ウイルス自体を単離して、不活化させる、そして、鶏の卵(有精卵)でウイルスを培養するというそれぞれの過程で大変な時間と労力がかかるわけです。
一方、mRNAワクチンでは、mRNAさえ作ってしまえば、あとは、人の体の中でウイルスの一部を作らせるという方法です。しかも、このmRNAの作製は、ウイルスの遺伝子配列さえわかれば、基本的にはもうこれまでの科学の力を利用するだけです。これまでに科学者達が蓄積した、知識と技術を駆使すれば、追加で必要なものは「新型コロナウイルスの遺伝子情報だけ」なのです。
すなわち、今年、1月に中国が世界に発信した新型コロナウイルスの遺伝子配列情報を得た時点で、勝負は決まっていたといっても過言ではありません。今回の場合、数年前に、ジカウイルスという別のウイルスに対するmRNAワクチンの開発をしていたグループがあり、その技術をそっくりそのままいち早く新型コロナウイルスに応用したというかたちです。
◆新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンは期待できるのか?
mRNAワクチンは、人の体の中でウイルスのタンパク質の一部を作らせて免疫を誘導するという方法ですので、基本的には、これまでの不活化ワクチンや弱毒生ワクチンなどと等価のことが生体内で起こると考えられます。
しかも、このmRNAワクチンはこれまでの科学的叡智を基にした工夫を随所に入れ込んだ優れもので、科学的にも極めて優れたものだと考えられます。他にも幾つかのアイデアでのワクチン開発は日本でもなされているようですが、そもそも科学的に全く効果の出なさそうなワクチンもある中で、今回のmRNAワクチンの期待度は極めて大です。
◆ワクチン接種を受ける? 受けない?
科学的な観点では、今回のmRNAワクチンはかなりの優れものに思いますので、個人的には日本に入ってくれば接種してもらおうと思います。日本も、多くの税金をワクチン開発に投入していますので、国産のmRNAワクチンが開発されることを期待しています。
もし、この「夢の新型コロナウイルスワクチン」の有効性がちゃんと確認できれば、たとえ今後、新たなウイルスが人類を脅かすようなことがあっても、同じ戦略で闘えば良いわけですから、人類は大きな武器を手に入れたといえると思います。
いずれにしても、日本にこのmRNAワクチンが届くまでにはもう少し時間が掛かりそう… それまで何とか凌げれば良いのですが。
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国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ