「アンチテーゼ」って言葉の意味は?
アンチテーゼは反対意見、反対理論という意味
「アンチテーゼ」という言葉の響きを、どこかで聞いたことがありませんか? 「アンチ」と「テーゼ」に分けると、何となく日常的に耳覚えがある言葉になりますね。「私はヤクルトファンで、●●のアンチだから」「残酷な天使のテーゼ、カラオケで歌うの好き」と言ったように。
「テーゼ」は何かに対する肯定的な「主義」「主張」「理論」「意見」などを指す言葉で、「アンチ」は反、非、対の意味を表します。つまり、「アンチテーゼ」は「テーゼ」を否定する「反対意見」「反対理論」「ある主張を否定する主義や姿勢」という意味になります。
「アンチテーゼ」は哲学的用語で「反定立」や「反対命題」と呼ばれ、初めに立てられた肯定的命題に対する否定的命題のことです。「ヘーゲルの弁証法」では、ある立場を否定する段階を指します。
「ヘーゲルの弁証法」とは、「正→反→合」のプロセスである「テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ(統合案)」という思考方法のこと。二つの意見の矛盾を解決し、よりよい結果を導き出すことを「アウフヘーベン」といいます。
アンチテーゼの言葉の由来は
「アンチテーゼ」の語源はドイツ語の哲学用語「antithese」です。アンチテーゼはテーゼ「these」の反対語「anti」のついた言葉であるため、「these=命題・主張」と対の意味を持つ反対語となります。
アンチテーゼの正しい使い方例
アンチテーゼの意味は、すべてが否定的意味と思ってしまうかもしれませんが、単に否定、反対する時に用いるのではなく、あくまで肯定的な主張・命題がまず存在していて、その主張を否定することがアンチテーゼとなります。
◆(テーゼ)「着物は日本を代表する文化です」
(アンチテーゼ)「着物は日本を代表する文化とは言えない。なぜなら、日常生活で着物を着る人はほとんどいないからです」
「アンチテーゼ」とは「肯定意見を認めつつも否定する」を意味します。つまり、その意見(肯定的な命題がしっかり提言されている)を認めた上で、それに対して意見することが「アンチテーゼ」です。
一方的に「着物は日本を代表する文化ではない」という主張は「命題のない個人的な意見」に過ぎませんから、「アンチテーゼ」にはならないわけです。
◆(テーゼ)「猫はかわいくて、誰からも愛される」
(アンチテーゼ)「かわいいというのは主観によるもので、すべての猫をかわいいといえるかは意見が分かれる。またアレルギー反応を起こす人にとっては、愛する存在とは言いきれない」
誰もが当たり前だと感じているようなことでも、主観によるものである場合は、その意見を肯定しつつも、多角的な見方をすることで反対理論になります。これが「アンチテーゼ」です。
アンチテーゼの間違った使い方例文もご紹介
◆「あの人は、どんな意見にも必ずアンチテーゼを唱える」
意味もなく、どんなことにも頭から反対、否定する人に対してこの言葉を使うと、相手の発言そのもの、人格を貶しているようなニュアンスになります。反論することと、誹謗中傷することは全く意味が異なります。
◆「『これは、アンチテーゼとして言っているだけです』と前置きすれば、中傷しても問題ない」
「テーゼ」に対して「アンチテーゼ」があるように、「アンチテーゼ」に対する反対意見や批判があるのは当然ですが、ただ、それを大義名分に誹謗中傷、個人情報に関わる情報漏えいなどはあってはいけないことです。
アンチテーゼの類似語・対義語は?
◆類似語について
「アンチテーゼ」の類語は日本語で訳すと「反対理論」「反対意見」「反定立」「正反合」となりますが、「正反対」「対照」「対句」なども類語といえます。
反対意見:物事を否定する意見
反定立:肯定的に意見する定立に対し、それを否定する意見
正反合:「定立・反定立・総合」の省略形。
対称:左右の釣り合いが取れている(シンメトリー)
◆対義語について
「テーゼ」が対義語になりますが、「テーゼ」は命題、定立、提題という意味です。
最後に
「アンチテーゼ」は「反対意見」「反対理論」といったごくシンプルな意味を持つ哲学用語となります。そもそも「テーゼ」は、ドイツ人哲学者のカントやヘーゲルが使った哲学用語が、そのままカタカナ語として輸入された言葉で、「証明されるべき命題」あるいは「証明すべき言明」という意味で使われます。
会議など討論の場では、まず「テーゼ」と、それに対する「アンチテーゼ」を提示して、それらを討論することでよりよい案を導き出すこともできます。
ただし、あくまでも「肯定的な命題や主張」があるのが前提となりますから、「アンチ」という言葉を必要以上に意識して、単に反対、反発するだけにならないように気を付けましょう。
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