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2025.12.27

「事独り断むべからず、必ず衆と論うべし。」古典に学ぶ意思決定術

「事独り断さだむべからず、必ず衆と論うべし。」は、第104代内閣総理大臣である高市早苗首相が所信表明演説の結びで用いた言葉。これは、聖徳太子の「十七条の憲法」における一節です。このフレーズを現代語的に解釈しながら、アラサー世代が古典の教えを活かせるポイントを解説します。

並木まき

「事独り断むべからず、必ず衆と論うべし。」の意味は?

「事は独り断(さだ)むべからず、必ず衆(もろとろ)と論(あげつら)ふべし」の意味からチェックしておきましょう。

現代的な言い方をすれば、
・重大な事柄は決して独りで決めてはならない。
・必ず多くの人々と共に話し合うべきである
という意味です。

この“些細な事柄は独りで決めてよくても、重大な事柄は独断ではダメ。多くの人と一緒に検討をするべきだ”という考え方は、SNSでも職場でもなにかと“即断・即決”が求められがちな今の時代において、ビジネスパーソンとしての意思決定のスキルを磨くうえでも役立つものです。

ひとりで決めないほうが物事はうまくいく3つの理由

(c)Adobe Stock

日常生活の多くの場面では、“自分で決めたほうが早いし簡単”だと思いがちですが、重要な選択ほど“視野の狭さ”のせいでミスを生む面も否めません。

複数の視点が入ると安定した判断ができる側面もあります。ひとりで決めないほうが物事がうまくいく理由を解説します。

♦︎視点が増えるとリスクを見落とさないから

自分の経験や価値観だけでは、どうしても判断に偏りが出てしまいます。特に仕事では、思わぬ落とし穴が“他人のひとこと”で見つかるケースも珍しくありません。

たとえば、自分では完璧だと思っている企画でも、同僚から「ターゲット層はそこじゃないのでは…?」と指摘をされてハッとするなど、大きなミスを防ぐには他者の視点が重要です。

♦︎周囲の「暗黙知」を借りることができるから

職場やコミュニティには、経験してきた人にしかわからない独特のノウハウ、つまり「暗黙知」が存在します。
新人時代だけでなく中堅世代になったとしてもまだまだ理解できていない「暗黙知」もありがち。誰かに相談することで、その“知恵”を自然と取り込めるのは大きなメリットでしょう。

♦︎決定への納得感が上がるから

独断と比べて複数での議論を経た“決定”は、結果がどうであっても周囲に「納得感」が残りやすい面があります。
これはメンタルの安定にも非常に有益で、“結果”を独りで抱えないほうがあとから自分を責めにくいメリットも大きいのです。

職場の意思決定で“独断”が危険な3つの理由

バツマークをする女性
(c)Adobe Stock

アラサー世代からは後輩をもったりプロジェクトを任されたりと、ビジネス上における判断の重みも変わってきます。
そのため「ひとりだけの判断」は、チームに思わぬ影響を与えがちです。
独断が危険な理由を解説します。

♦︎情報不足による「誤った前提」で判断してしまうから

自分の目の前にある情報だけでは、どうしても視野が狭くなりがち。本人が広く情報を収集しているつもりでも、全体像を見誤る可能性があります。

職場で起きる判断ミスの多くは、能力不足ではなく情報不足から生まれるともいわれるため、周囲への相談や意見を求める姿勢は情報の偏りや誤解を修正する検証の作業としても非常に有益です。

♦︎独断は「コスト増」につながりやすいから

ひとりで決めた事柄に対してミスが出ると、その修正のために作業のやり直しやスケジュールの再調整、説明のやり直しなど多くのコストが発生します。

仕事によっては、ひとつの判断ミスがドミノのように連鎖して、自分だけのトラブルでは済まなくなる事例も…。
ひとたびミスが起きると周囲の負担が想定外に膨らんでしまいがちですから、ミスを防ぐ意味でも事前に相談をしながら進める姿勢が求められます。

♦︎透明性に欠けて信頼を失いやすいから

ひとりの判断で物事が動いてしまうと、周囲は困惑や反発を強めがちに。
「聞いてないんだけど」「勝手に進められるとやりにくい」などの不満も溜まり、チーム内に不信感を生む原因にもなるでしょう。

信頼の蓄積は、キャリアの武器にも直結。だからこそ、物事や意思決定に対しては“透明性”が重要なのです。
周囲からの信頼を損ねないためにも、情報を共有しながら進める姿勢が大切です。

「ひとりで決める」が招く怖いデメリット3つ

(c)Adobe Stock

「ひとりで決める」、つまり独断にはビジネスにおいて致命的なデメリットもあります。
主なものを解説します。

♦︎デメリット:「責任の偏り」で精神的な負担が大きくなる

ひとりで判断をすると、なにか問題が起きた時にはすべての責任が自分に集中します。「私のせいだ」「あのときに、先輩に相談をしておけばよかった…」などと後悔をしても、あとの祭り。

仕事に責任感がある人ほど、自分のせいで起きた大きなミスに対してはメンタルの負荷も大きくなります。
いわゆる“責任のシェア”ができない状況は、キャリア形成の視点からも好ましくありません。

♦︎デメリット:チームが成長しなくなる

誰かが独断で物事を進めると、他のメンバーはそのプロセスを知ることができません。

このような状況はチームの学習機会を奪う行為にもつながり、組織力の低下も招きかねないもの。
相談や経緯の共有は、思考プロセスや判断基準において組織全体で考えながら成長をしていく視点からも欠かせないといえます。

♦︎デメリット:合意形成が難しくなる

仮に、独断による判断が合っていたとしても、誰かが独りで勝手に決めた事柄に対しては周りは納得し難いもの。

「どうしてその決断に至ったの?」や「どういう意図で決めたの?」などの疑問が先にくるので、合意形成にも時間をとられます。結果的に進行も遅れやすくなるので、最初の段階から軽く議論をしておくほうがスムーズなのです。

大事な判断は相談するのがベスト

職場では、とかくスピードが求められがち。しかし「独断」は短期的には早く見えて、長期的には遅くなるのが現実ではないでしょうか。

一方、「事独り断むべからず。必ず衆とともに宜しく論ふべし」にあるように、周りへの相談を経ると一見するとスローペースでも、最終的には成果のスピードも質も上がりやすいでしょう。

古典はときに、仕事や成長に悩むアラサーにヒントを与えてくれます。「事独り断むべからず。必ず衆とともに宜しく論ふべし」の教えも、現代を生きるアラサー世代に強いヒントを与えてくれる一文なのではないでしょうか。

TOP画像/(c)Adobe Stock

並木まき

ライター、時短美容家、メンタル心理カウンセラー。企業研修や新人研修に講師として数多く携わっている。シドニー育ちの東京都出身。28歳から市川市議会議員を2期務め政治家を引退。数多くの人生相談に携わった経験や20代から見てきた魑魅魍魎(ちみもうりょう)な人間模様を活かし、Webメディアなどに執筆。

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