独特すぎてジャンルもわからないし、こんな参加型の舞台もなかなかありません
阿部サダヲさんと松たか子さんが共演する舞台最新作は、宮藤官九郎作・演出による大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』。シリーズ最新作の今回は、「親バカ」をテーマにした泥沼バトルが、歌、ダンス、生演奏、そしてもちろん笑いと感動をミックスして繰り広げられます。…と聞いても、なんとも想像しがたいので、主演のふたりが解説。さて、どんなものになるのでしょうか。
阿部サダヲさん(以下、阿部):僕の役はミュージカル俳優で、妻と離婚したくて裁判をしているのですが、妻のことが嫌いというわけでもなさそう。裁判をやっている最中に、時空を超えた出来事が続き、実は台本を1回読んだだけでは、まだわからないことが多くて。宮藤(官九郎)さんが書いた台本には「後で考えます」ってあったりして、さらに何か起こるらしいし…。
裁判所から時代がいろんなところに飛んで、また裁判所に戻って…。それだけでなく、何役もやっている人がけっこういて、これは大変そうだなと思っているところです。移動や着替えで疲れちゃうんじゃないかな。宮藤さんは、役者を休ませたくないんですよ。

松たか子さん(以下、松):そうなんですか。私は演歌歌手の観音院かすみで、着物が多くなるのかな。宮藤さん演出作品は初めてなので、大変そうだけどそれも含めて楽しみです。全部心配で全部楽しみ(笑)。私たち夫婦は、たしかに相手を嫌いではないんだろうけど、そこに行くまでに本気で罵り合い、バトルをしていく。観客のみなさんにも裁判を傍聴していただいて、「何やってんだ」というのを楽しんでもらえればと思います。
阿部:そう、けっこうなバトルだけど、結局は「親バカ」なんですよね。
松:ふたりの子供がかわいそうになってきますけど、とってもいい兄弟なんです。とはいっても、息子役の峯田和伸さんも黒崎煌代さんもいい大人で(笑)。
阿部:役では3歳違いの子供でしたっけ。そうは見えないですけど。
松:兄弟は、年齢を書いた服を着るから大丈夫らしいですよ。とはいえ、峯田さんは私と同じ年で親子役。こんな自由な発想も舞台ならではです。以前の舞台では私、松尾スズキさん(現在62歳)を息子にしたこともあるので、今回もなんとかイケると思います!
阿部:演劇って、そういうところが面白いですよね。
「松さんの魅力はやっぱり声」(阿部さん)
――ドラマや映画での共演は多数、舞台での共演は2作目となるおふたり。今回はお互いのどんなところに期待されていますか?
松:阿部さんの舞台を拝見したことがあるのですが、なんだか切なくなる。そこが阿部さんの魅力です。そして宮藤さんとずっと一緒にやってこられているので、阿部さんを見ながら勉強させていただこうと思ってます。
阿部:松さんの魅力はやっぱり声ですよね。いつだったか、稽古場で一緒になったとき、松さんの一声を聞いて、みんなシーンとしちゃって。この声を聞けたらもうその日は何もしなくていい、というくらいすごかった。歌もすごいでしょ。松さん、本場アメリカのアカデミー賞授賞式で歌ってるんですからね(2020年第92回アカデミー賞授賞式)。それを忘れちゃいけない。尊敬します。
松:忘れていいです(照れる)。

「ドラマ『しあわせな結婚』はいったん忘れてください」(阿部さん)
――舞台演劇をまだ観たことのない方、とくに「オペラ?」「ハードルが高そう」と思っている方に向けて「楽しみ方」をアドバイスするなら…。
阿部:ビギナーなら、まず今回のこの作品を観ておけば、大丈夫。ロックオペラとはいってますが、もはや独特すぎてジャンルもわからないし、こんな参加型の舞台もなかなかありません。いい経験になりますよ。
松:いい大人が、面白いことを一生懸命やる。スカしてなんていられないくらい必死に。そんな世界を眺めて楽しむのも、いいものだと思いますよ。
阿部:あと、ドラマ『しあわせな結婚』はいったん忘れていただいたほうがいいですね。あのドラマを観ていた人は、びっくりするかもしれない。
松:そういう人の期待を裏切るのは気持ちがいいです(笑)。

▲撮影の合間に、「ミュージカルを観るなら、なにがいいですか?」と松さんに聞いていた阿部さん。阿部さんはかつて、松さん出演のニュージカル『ラ・マンチャの男』(2022年)を観劇して感銘を受けたそう。
――では舞台期間中のご自身の「楽しみ方」というと?
松:舞台が始まると規則的な生活になって、本番時間から逆算しながら生活するのがすごく好きなんです。地方滞在の前は、荷造りをしながら「なに持って行こうかな」「これ、いるかな、いらないかな」って、永遠にやっていられるくらい、楽しくて。そして滞在中は、ひとりでごはん作って、食べて、洗濯して、休演日は買い物に行って。東京でもよく行くパルコに、ほかの都市で入ってみたりするのも、楽しい習慣です。
阿部:そういえば、今回のキャストのひとり少路勇介(しょうじゆうすけ)がもてなし好きらしいんですよ。
松:そうなんですか? もてなしてもらいたい。
阿部:以前の舞台中には、藤井隆さんだけ呼ばれてもてなされたらしいんです。部屋にジャスかなんか流して、藤井さんは食われるのかと思ったみたいだけど。
松:(笑)
阿部:なので今回は、どんなもてなしをしてくれるのか、期待してます。

「楽しくないときは、妄想で楽しめますよ」(阿部さん)
――では最後に。30代のOggi読者に向けて、「30代を充実させるための」アドバイスをお願いします。
阿部:そうですね…。あの、コース料理。前菜から始まって順に出てくる、あれをゆっくり食べられる大人になってほしいです。皆川(猿時)さんは、早く食べすぎて料理人に怒られたらしいですよ。
松:出てくるとすぐ食べたくなっちゃいますよね。余裕をもつということですね、なるほど。
阿部:でも仕事でいえば、僕自身は30歳で子供ができて、その後仕事も順調になってきたのが30代。下道を走っていたのが、高速に乗ったみたいで、でもそうなったらみんな、どんどん走っちゃえ、行っちゃえ!って思います。
松:私の30代、あっという間に過ぎて、丁寧な暮らしなんて思い描く暇もなく終わってしまった気がします。もうちょっと、ゆっくり味わいたかったと思ったりもするけど、そのぶん、40代からの楽しみも増えました。でも、思うんです。楽しいことだけじゃなく、悶々とする時間やガマンすることがあっても、それもまたあっという間。そう思えば、日々頑張れるのではないでしょうか。
阿部:もし、楽しくないなーと思ったときは、「妄想」がいいですよ。休みがなくても、「もし」休みだったら食べたいもの、行きたいところ、買いたい服…考えるのが、僕はすごい好きなんです。
松:買うか買わないかは置いておいて、ただ考える。好きなだけお金もかけららるし、いいですね。
阿部:DIYもできないのに、もしガレージハウスを作ったら? 予定もないのに、もし犬を飼ったら? ってね。
松:飼ってないのにコロコロで毛を取ったり(笑)。
阿部:そう。妄想だけは自由ですからね。

▲松たか子さんは、1996〜1997年に 『Oggi』の表紙キャラクターとして登場していた。「まだ若かった私に、思い切った賭けをしてくださったなと今でも思います」(松さん)
大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』
離婚を決意しているミュージカル俳優(阿部サダヲ)と演歌歌手(松たか子)の夫婦。二人は長男(峯田和伸)の親権を巡り、法廷で泥沼の争いを繰り広げます。兄は発達障害がある、だが天才音楽家…かもしれない――。その可能性を信じて疑わない夫婦が、あの手この手で世間の同情を買おうとしたり、過去の恥部や醜聞に乗じて好感度を上げたり下げたり。子供に過度の期待をする両親の間で、その重圧を感じながら成長していく兄と天真爛漫な弟(黒崎煌代)。この家族の未来はどこに向かっていくのか…。
作・演出:宮藤官九郎
音楽:上原子友康(怒髪天)/峯田和伸(銀杏BOYZ)
出演:阿部サダヲ 松たか子 峯田和伸 三宅弘城 荒川良々
黒崎煌代 少路勇介 よーかいくん 中井千聖 宮藤官九郎 藤井隆

【東京公演】
2025年11月6日(木)〜11月30日(日)
会場:PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)
【大阪公演】
2025 年 12 月 4 日(木)~14 日(日)
会場:SkyシアターMBS
【仙台公演】
2025 年 12 月 20 日(土)・21 日(日)
会場:仙台サンプラザホール
(衣装クレジット)
松さん ブラウス¥29,700・パンツ¥29,700/ル フィル イヤリング・靴/スタイリスト私物
お問い合わせ先:ル フィル ニュウマン 新宿店 tel:03-6380-1960
撮影/田形千紘 スタイリスト/チヨ(阿部さん)、杉本学子(WHITNEY/松さん) ヘア&メイク/中山知美(阿部さん)、須賀元子(松さん) 取材・文/南 ゆかり
阿部サダヲ
1970年4月23日生まれ。千葉県出身。1992年より大人計画に参加。2008年、映画『舞妓Haaaan!!!』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2019年、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では主人公・田畑政治を演じた。2024年は主演ドラマ『不適切にもほどがある!』が大ヒット。2025年7〜9月は『しあわせな結婚』で松たか子と夫婦役を演じた。舞台作品は、『大パルコ人 メカロックオペラ R2C2 ~サイボーグなのでバンド辞めます!』(2009年)。、『ウーマンリブ』シリーズ(2015年、2023年)など、宮藤官九郎演出作品に多数出演。
松たか子
1977年6月10日生まれ、東京都出身。1993年俳優デビュー。以降、多くの舞台・映画・ドラマに出演し、2009年の映画『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。近年の主な作品は、主演ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)、映画『夏の砂の上』(2025年)、舞台は松尾スズキ演出 COCOON PRODUCTION 2021+大人計画 『パ・ラパパンパン』(2021年)、NODA・MAP『兎、波を走る』(2023年)など。大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』は、初の宮藤官九郎演出作品への出演となる。