【俳優・磯村勇斗さんインタビュー】繊細な表情と言葉で包み込む優しさと調和力

磯村勇斗(いそむら・はやと)
1992年生まれ、静岡県出身。2014年にテレビドラマデビューし、翌年『仮面ライダーゴースト』で注目を集めた。2017年にNHK連続テレビ小説『ひよっこ』で人気急上昇し、以降の代表作に『今日から俺は!!』シリーズ、映画『ヤクザと家族 The Family』『劇場版 きのう何食べた?』『正欲』など多数。待機作に『今際の国のアリス シーズン3』(9月配信)・『ソウルメイト』がある(共にNetflix)。
個性を受け入れてくれる場所は必ずある
1週間の仕事が始まった月曜の夜、なんとなく重たい気持ちをふっと軽くしてくれるドラマがある。磯村勇斗さんがスクールロイヤーを演じる『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系で放送中)である。磯村さん演じる白鳥健治は、臆病で不器用で学校嫌いな異色の弁護士。放送開始前、自らと異なるこんなキャラクターを、「難しい」と語っていた磯村さん。時間が経って今、変化を感じているという。
「健治は、思いたって教室を出てしまったり、屋上に行ったり、とにかく自由人。彼のもっている世界が、最初は不思議に感じたけれど、今は〝愛せる〟ようになりました。健治を理解するほど、不器用さや人の心が読めないところが、かわいいと思えたりも。きっと、社会に出て働いている人には、健治と同じように環境になじめなかったり、人と違うことをネガティブに感じたりする人もいるかもしれません。ですが、そこに個性があり、迎え入れてくれる人、場所は絶対にある、と僕は言いたいです。そういう僕も、健治と同じ自由人だったので」

高校2年で地元の劇団に志願し、その後フリーで役者を続けていた磯村さん。アルバイトを掛け持ちしながら小劇場を中心に舞台出演したのち、事務所に所属したのは22歳のとき。いつしか映画・ドラマに欠かせない存在になっていった。
「一作一作が挑戦で、次につながるきっかけとなるように。ひとつ役を終えたら、また違う役をやらせたいと思ってもらえるように。そういった意識で取り組んできました。今回のドラマを共にしたスタッフの皆さん、若い俳優の方々… また次につながっていくことを思いながら、日々過ごしていると言ってもいいかもしれません。もちろん、うまくいかないことも、傷ついたことも、たくさんありました。それでも、今いい方向に進んでいるのだとしたら、それらに負けなかった自分がいたから… かなと。結果論にはなりますが(笑)」

『僕達はまだ〜』で民放連ドラ初主演を叶えたのも、かつて一緒に仕事をしたスタッフからのラブコールだったという。磯村さんとの再共演を望む俳優もいるし、後輩からは愛をもって慕われる。その陰には、人との「つながり」を大事にする磯村さんならではの接し方がある。
「ドラマの生徒役の子たちとは、自分も生徒目線になって話します。お芝居の相談を受ければ、過去に自分が経験して学んだことを伝えたりも。こうして人と会話をするときに気をつけているのが、『普通に』という言葉。ドラマ『僕達はまだ〜』の健治は父親から『普通に』と言われて育った背景がありますが、使い方によっては個性を殺してしまったり、棘のある言葉になってしまう。ということは、僕も知らないうちに人を傷つけてしまうこともあるわけで…。
今は会話の中で『普通』という言葉を使わないようにしています。そして、自分が発した言葉を相手がどう受け取って、理解しているのか、表情や反応を感じながら話します。そういった相手の反応を確認せずに話が進んでしまうのは、僕にとってはすごく怖いことなんです」

繊細に、丁寧に、周囲の調和を肌で感じ取るコミュニケーション方法は、まさに磯村さんが演技で実践している方法でもある。
30代、まだ触れていない文化、言葉を学ぶ時間に
キャリアを重ねるほどに、コミュニケーションの精度を上げながら、いい仕事のためのコンディションを整える方法も身につけた。
「集中力を上げるために、しっかり朝食を食べるのが習慣です。ごはんと味噌汁、焼き魚。その程度ですが、後の動きが全然違います。そして、おなかがすいてイライラしそうになってしまったときは深呼吸をし、水を飲んで。夏バテしないよう、スイカジュースを手づくりし体の中からクールダウンすることも、いいですね。食べきれなかったスイカを冷凍して、そのままミキサーに入れるだけなのですが、すごくおいしいんです」

こんな日常を大切にしながら、主演ドラマが終盤に差しかかる9月、磯村さんは33歳を迎える。
「この仕事をしてよかった。一歩前進できた。33歳になるとき、そう思えるかどうか、すごく重要だと思っています。その先は、海外にも目を向けながら生きていたい。今後公開を控えている世界配信のドラマを成功させることも、そのひとつです。それだけでなく、世界にはさまざまな国、人種、食べ物があるにもかかわらず、そのほとんどを知らずに年を重ねていくことは、なんだか怖い気がして。多くの文化、言葉を学んだ自分は、どう変わるのか。どのような仲間ができ、どう接するのか。そのような想像をすることも、幸せなものです」
ドラマ『僕達はまだ〜』では、健治が宮沢賢治の一節を用いて「本当の幸いとは」を問いかける。
「僕にとっていちばんの幸せは、一緒に笑ってくれる仲間がいること。みんながいるから仕事ができ、楽しい思い出ができるのですから」
ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』

人生にも仕事にも臆病だった弁護士が、共学化で揺れる私立高校に「スクールロイヤー」(学校弁護士)として派遣され、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、向き合っていく。物語はこれから終盤へ。磯村さん演じる健治が生徒と共に成長する姿に期待! 毎週月曜夜10時 カンテレ・フジテレビ系放送中。
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ドルチェ&ガッバーナ ジャパン TEL:03-6833-6099
2025年Oggi10月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/中田陽子(Maettico) スタイリスト/笠井時夢 ヘア&メイク/髙田将樹 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
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