EXIT・りんたろー。初の絵本『しっぽのみじかいとかげくん』を出版!
EXITのりんたろー。さんが、初の絵本作品『しっぽのみじかいとかげくん』を出版。愛らしいキャラクター「とかげくん」と「くまくん」が、少しずつ心を通わせていく心温まるストーリー。前編では、作品に込めた想いや制作秘話を深掘りします。
生きづらさを抱える人の「心の穴」を、小さくすることができたら

──絵本を制作しようと決めたきっかけを教えてください。
‘23年に子供が生まれてから、絵本のお話はちょくちょくいただいていたんです。でも絵も描いたことがなければ、伝えたい想いもなくて。ずっとお断りしていました。だけど、ある時、自分のなかで届けたいメッセージが浮かんできたんです。そんなタイミングでオファーをいただいたので、チャレンジしてみようと。タイミングがばっちり合っちゃった感じですね!
──とても表情豊かでかわいらしい絵本に仕上がっているので、絵を描いたことがなかったとは、驚きです。初めての作画は、いかがでしたか?
めっっっちゃ大変でした。最初はまったくやり方がわからないから、iPadを買うところから始めて、絵画教室にも通って。どんなテイストがいいのかも見当がつかなくて、いったんいろんなパターンで描いてみたり。すべてが初めてすぎて、大変だったけれど、だんだんできあがっていくワクワク感もありました。楽しみながら、取り組んでいましたね。
──芸人としての活動が、作品に生きた部分はありますか。
物語を構成するという作業は、ネタづくりと似ていました。あとは、文章のリズム感。漫才のネタでも、フレーズの内容より心地いい「語呂」を優先させることは多いんです。そこはこだわった部分です。

──では、りんたろー。さんが『しっぽのみじかいとかげくん』に込めた、「届けたいメッセージ」とはどんな想いなのでしょう?
ふとした時に、世の中には生きづらさを抱えている人がたくさんいることに気づきました。トカゲが切れたしっぽを再生させるように、傷ついた心を修復する力を僕たちは自然に持っている。けれど、実はそうした力が備わっていない人もいて。
その人たちの生きづらさに寄り添うことで、彼らの心にぽっかり空いた穴を小さくできるんじゃないかと、そんな想いを込めて作りました。
以前は、その人自身がトラウマを乗り越えないと、回復することはできないのかな…と思っていたのですが、それとは違う方法──誰かが寄り添うことでも、癒すことはできるんじゃないかって。そんな楽観的な期待もあります。この本を読んで、ちょっと顔をあげて、「こんな子がいたな」と誰かを思い出してもらえたらうれしいです。
──「生きづらさ」の存在に気づいたきっかけがあったのでしょうか。
僕自身はわりと幸せな家庭で育ってきたこともあって、この年になるまで気付けずにいたんですが…きっかけとしては、相方の兼近(大樹)や妹の存在が大きいです。そういえば、小学校のころ毎日先生に怒られていたあの子も、そうだったのかな?なんて思い出すようにもなりました。
当時の僕は彼を「だらしない子」だと感じていたけれど、その背景にはなにか事情があったのかもしれない。自分が親になったからこそ、より考えるようになりました。もしあの時、彼に寄り添っていたら…今はそんなふうに考えます。
──今作の主人公・とかげくんは、兼近さんや妹さん、かつてのクラスメイトを少しずつ参考にしているんですね。
正直、妹が生きづらさを感じていたことを、僕は最近までまったく知らなかったんです。昔から服の素材や、音や光に敏感で疲れやすかったみたいで、そんななかで電車に乗ったり、夏の暑さ、冬の寒さを耐えたりして暮らすって、きっとものすごく大変ですよね。
──とかげくんの体色はピンク色で、兼近さんカラーですよね。
そこは影響を受けているかもしれないです(笑)。メンバーカラーじゃないですけど、EXITでは僕が緑で、かねちがピンクなことが多くて。なので自宅にも緑とピンクのものがたくさんあるのですが、うちの子がとにかくピンクのものをかわいがるんです! パパのグッズよりもかねちのグッズを手にとるんですよねえ。それもあってとかげくんをピンク色にしました。息子もとかげくんを見て、喜んでくれるんじゃないかな。

──作品の参考となった、兼近さんとの印象的なエピソードはありますか?
兼近が「自分のお腹が減っているのか、いないのか、わからない」と言う時があって。それがこの絵本のなかの「おなかがすくとどうなるの?」というシーンにもつながっています。もしかしたら、幼少期の出来事が背景にあるのかな、と考えたりして。
彼はまわりのことを「見過ぎ」なくらいよく見ています。今まで感じ取れなかったことを、必死に察しようとしているような。多くの人は、トカゲのように環境にあわせて色を変えて、やり過ごせるものです。けれど、その「ベース」となるものがないと、言い換えれば「普通」を知らないと、それも難しいのかもしれません。兼近はわからないからこそ、間違えて人を不快にさせないように、より慎重に注意深く周りを観察しているのはではないかなと思っています。
──お互いの執筆活動についてお話することはありますか?
作品について話すことはほとんどないんですが、けっこう、いろんなことをざっくばらんに話すコンビなんです。世の中で起きていることだったり、番組で共演した方についてだったり、よくしゃべりますね。その結果、僕の生き方に彼が与えた影響は大きいと思います。
──りんたろー。さんご自身にないものをたくさん持っているのでしょうか。
彼は過去にいろいろなことがあったので、すごく正しく自分を戒めて生きているところがあって…僕からしたら、「そんなところまで!?」と思うこともあるわけです。けれど、たくさんの人に応援していただくようになって、人として正しく生きることはとても大切だと意識するようになりました。そういう意味でも、兼近から受ける影響は大きいです。
──兼近さんといえば、Oggi本誌でエッセイ「オレって、こじれてますか?」を連載してくださっています。いかがですか?
どれどれ。「オレって、こじれてますか?」「演じ続けていればそれが真実になる」(Oggi12月号を手にとって見出しを読み上げるりんたろー。さん)──演じ続けている感じはしますよね、かねちは。どれが本音なんだろう? 本音でしゃべっているかどうかわからないのもまた、彼らしいというか。でも、僕はなんとなく本音に近い部分に触れている気がしていますけどね!
エッセイに書かれていることが本音かどうか? それは、僕にもわかんないです(笑)。きっと、上手に「見せていいところ」をアウトプットしているんじゃないかなあ。ただの僕の見解なんですけどね。

後編では、りんたろー。さんご自身の幼少期の思い出やお仕事観まで深掘りします。Oggi世代の心に刺さる!?アドバイスも必見。お楽しみに!
ヘアメイク/chiSa(SPEC) 撮影/田中麻以(小学館) 取材・文/徳永留依子
しっぽのみじかいとかげくん(小学館)

「とかげくん」のしっぽは、切れても生えてこず、短いまま。とかげのしっぽが短いのはおかしいと、みんなが笑うなか、ただひとり「くまくん」が寄り添います。しかしくまくんは、みんなが怒っているより笑っている方がいいという、とかげくんの気持ちがわかりません。「ふつうってなに?」とばかり聞くとかげくんに、くまくんは次第に嫌気がさして…。ふたりはどのように心を通わせていくのでしょうか。
芸人/りんたろー。
1986年生まれ、静岡県出身。NSC東京校14期出身。2017年、同校19期の兼近大樹と「EXIT」を結成。ネオ渋谷系チャラ男漫才とも称されるしゃべくり漫才のネタ作り・ツッコミを担当。お笑いのみならず、美容や筋トレ、執筆活動など他ジャンルで活躍中。1児の父。



