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何かを一瞬で失う。そんなとき、どう言葉にすればいいのか分からなくなることがありますよね。災害や戦争、火災などで、かけがえのないものが消えてしまったことを表現したい場合に、「灰燼に帰す」という言葉があります。
重重しい響きを持つ言葉ですが、意味や使い方を知っておくと、状況に寄り添った表現として使える場面が出てくるかもしれません。具体的な例文とともに、紹介します。
「灰燼に帰す」の読み方と意味|深刻な状況を伝える言葉
ニュースや歴史の記述など、深い喪失や大きな被害を語る場面で、しばしば「灰燼に帰す」を使います。「灰燼に帰す」の正しい読み方と意味を確認しましょう。
「灰燼に帰す」の読み方と意味
「灰燼に帰す」の読み方は「かいじんにきす」です。辞書で意味を確認しましょう。
灰燼(かいじん)に帰(き)・す
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
跡形もなくすっかり焼けてしまう。灰燼と化す。「重要な文化財が―・した」
「灰燼に帰す」は、火によってすべてが焼けてしまい、跡形もなく燃え尽きた状態を意味します。
「灰燼」とは何か?
「灰燼」という漢字は、「灰」と「燼(もえかす)」をあわせた言葉で、燃え尽きたあとの残りを意味します。
また、「帰す(きす)」は、「最後にはそうなる」といった意味を持つ動詞です。

「灰燼に帰す」を使う場面とは?
「灰燼に帰す」は、大きな損失や壊滅的な被害が起きたときに使います。日常ではあまり耳にしませんが、報道などを通して見聞きすることがあるでしょう。具体的な例文を読んで、理解を深めましょう。
「重要な文化財が灰燼に帰した」
火災によって重要な文化財が完全に焼失した場面を表しています。歴史的な建物や美術品が灰になってしまうと、その価値や記録は二度と取り戻すことができません。「灰燼に帰す」は、そうした回復不能な損失の深刻さを伝えます。
「戦火により山林に火の手がまわり、町全体と周囲の森林が灰燼に帰した」
この例文では、戦争によって発生した火災が町とその周辺の森林に広がり、すべてが焼き尽くされた場面を描いています。生活の場である建物だけでなく、自然環境までもが一瞬にして変貌してしまった深刻な状況です。
「灰燼に帰す」は、このように元の姿をとどめないほどの焼失を表すときに用い、被害の規模や深刻さを伝える言葉です。
「灰燼に帰す」の類語や言い換え表現は?
「灰燼に帰す」に近い意味を持つ言葉はいくつかあります。それぞれの語句をどんな場面で使うのかを知っておくと、状況にふさわしい表現を選びやすくなりますよ。
「焼け野原(やけのはら)になる」
「焼け野原になる」とは、火災や爆撃などの火によって一帯が焼きつくされて、何も無くなったことを表す言葉です。

「全焼(ぜんしょう)する」
「全焼する」とは、火事によって家屋や家財などがすべて焼けてしまう状態を表す言葉で、具体的な被害状況を伝える実用的な表現です。
参考:『日本国語大辞典』(小学館)
「灰燼に帰す」の対義語を紹介|違いをチェック
続いて、「灰燼に帰す」とは反対の意味を持つ言葉を紹介しましょう。
「復興(ふっこう)」
「復興」とは、一度衰えたり失ったりしたものが、再び勢いを取り戻すことを意味します。災害や戦争などで失われた町や人々の暮らしが、再興したときなどに使われる言葉ですね。
「再建(さいけん)」
「再建」とは、焼けたり、壊れたりしたものを、もう一度建て直すことを意味します。建物や組織、制度、さらには身体の一部に至るまで、元の状態に近づけるために復元する行為に対して使いますよ。

フィクションにも使われる「灰燼」
フィクション作品でも、「灰燼」という語を印象的に使うことがあります。タイトルに採用されたり、登場人物の背景に登場したりすることで、「すべてを焼き尽くす破壊」「再生不可能な喪失」といった印象を与えています。
「灰燼の蒼鬼(かいじんのそうき)」とは?
2006年にカプコンから発売されたPlayStation2用のゲーム『新鬼武者 DAWN OF DREAMS』の主人公「結城秀康(ゆうき・ひでやす)」の異名です。作中では、蒼い鎧を身に纏い、鬼神のように幻魔を討つ様から「灰燼の蒼鬼」と呼ばれるようになりました。
ちなみに、結城秀康は実在の人物で、徳川家康の次男にあたります。のちに豊臣秀吉の養子となったことでも知られており、本作では彼をモデルにしているようです。
最後に
「灰燼に帰す」は、単に焼けるというだけでなく、目の前のものが一瞬で消えてしまうような、取り返しのつかない喪失を、簡潔に伝える言葉です。
「灰燼に帰す」というフレーズは、ふだんの生活であまり使わないかもしれませんが、災害や戦争の被害を伝えるときには、その重みを言葉にするための表現手段になります。日本語の奥深さも感じますね。
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