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「薬師」は2つの読み方と意味がある言葉
「薬師」は「くすし」または「やくし」と読み、意味は読み方により異なります。
「薬師(くすし)」は医者のこと、「薬師(やくし)」は仏様のことです。仏様である「薬師(やくし)」も、医薬に関係しています。
文字だけのメールや手紙などでやり取りする際は、それぞれの意味を取り違えないように気を付けましょう。
「薬師(くすし)」とは医者のこと
「くすし」と読んだ場合、「薬師」は医者を意味します。「くすりし」という古い読み方が変化したもののようです。
「薬師(くすし)」は、おもに病院の診察や治療を職業とする人を表します。
医薬品の調合や供給を仕事とする「薬剤師(やくざいし)」とは意味が異なるため、混同しないように注意してください。
くす‐し【▽薬師】
出典:小学館 デジタル大辞泉
《「くすりし」の音変化》医者。
「—ふりはへて、屠蘇 (とうそ) 、白散 (びゃくさん) 、酒くはへてもてきたり」〈土佐〉
「薬師(やくし)」とは薬師如来のこと
「やくし」と読んだ場合、「薬師」は仏様である「薬師如来(やくしにょらい)」を意味します。
薬師如来は、瑠璃のように清浄な世界「東方浄瑠璃世界(とうほうじょうるりせかい)」を開いたといわれる仏様のことです。また、医薬にまつわる仏様として知られています。

「薬師如来」は医薬の仏様
薬師如来は、古来、医薬の仏様として信仰されています。12の大きな願いを立て、人々を病気から救い、悟りに導くことを誓ったといわれる仏様です。
薬師如来の特徴は、左手に薬の入った壺を乗せていることといえます。右手は、人々の煩悩や恐れを取り除く印である「施無畏印(せむいいん)」を結んでいます。
寺院では、薬師如来のみが安置されるケースは珍しく、おもに日光菩薩(にっこうぼさつ)や月光菩薩(げっこうぼさつ)、十二神将(じゅうにしんしょう)などと共に祀られていることがほとんどです。
やくし‐にょらい【薬師如来】
出典:小学館 デジタル大辞泉
《(梵)Bhaiṣajyaguruの訳》東方浄瑠璃 (じょうるり) 世界の教主。12の大願を立てて、人々の病患を救うとともに悟りに導くことを誓った仏。古来、医薬の仏として信仰される。像は通例、右手に施無畏印 (せむいいん) を結び、左手に薬壺 (やっこ) を持つ。脇侍 (きょうじ) に日光菩薩と月光菩薩、眷属 (けんぞく) として十二神将が配される。薬師瑠璃光如来。薬師仏。
新年最初の薬師如来の縁日「初薬師」
薬師如来と深い関わりをもつお祭りに「初薬師(はつやくし)」があります。初薬師とは、新年で最初に開かれる薬師如来の縁日のことです。
そもそも「縁日」とは、神仏がこの世に縁(ゆかり)をもつ日のこと。正式には「有縁の日(うえんのひ)」や「結縁の日(けちえんのひ)」とされます。
縁日は、それぞれの寺社に祀られる神仏ごとに、定期的に開かれるといえるでしょう。東京・浅草寺の四万六千日(しまんろくせんにち)がその一例です。
薬師如来の縁日は、毎月8日と12日に開かれます。初薬師は1月8日にあたり、薬師如来を本尊とする各地の寺院には、新年早々多くの人々が訪れます。
「初薬師」と俳句との関係性
「初薬師」という言葉は、季語として俳句に用いられます。
そもそも「俳句」とは、五・七・五の17音を使う短歌のことです。俳句には、季語の使用が原則として設けられています。

「初薬師」は新年の季語
「初薬師」は、俳句で新年の季語として用いられます。
季語とは、季節感を表す言葉のことです。俳句だけでなく、手紙の「時候の挨拶」としても使用されます。
また、季語は1万語以上あるといわれ、四季に応じて変化します。
・春の季語(2月~4月)
・夏の季語(5月~7月)
・秋の季語(8月~10月)
・冬の季語(11月~1月)
夏の「8月」に秋の季語を用いるのは、季語が二十四節気(にじゅうしせっき)に基づいているためです。
二十四節気は地球上の1年を24にわけたもので、秋の始まりを指す「立秋(りっしゅう)」は、8月8日ごろにあたります。
季語は、該当する季節の一定期間使用できます。「初薬師」は冬の間でも、「新年」という限られた時期を指すのが大きな特徴といえるでしょう。
「初薬師」以外の新年の季語
ここからは「初薬師」以外の新年の季語をご紹介します。
・産土神参(うぶすなまいり)
・初観音(はつかんのん)
・初雀(はつすずめ)
風習や四季にまつわる言葉を知り、日本文化への理解を深めていきましょう。
「産土神参(うぶすなまいり)」
「産土神参」とは、産土神(うぶすながみ)が祀られた社を詣(もう)でることです。おもに、生まれた子が初めて産土神を詣でることを意味します。
産土神とは、生まれた土地の守り神のことです。地方により出生後の参拝時期は異なり、「宮参り」と呼ばれることもあります。
俳句の季語として「産土神参」を使用する際は、産土神の社への初詣(はつもうで)を指すのが一般的です。
「初観音(はつかんのん)」
「初薬師」がその年初めての薬師如来の縁日を指すのに対し、「初観音」は新年最初の観世音菩薩の縁日を意味します。
観世音菩薩は、人々の声を聞き苦悩から救済するといわれる菩薩です。代表的なものには、6体の「六観音(ろくかんのん)」、33種の「三十三観音(さんじゅうさんかんのん) 」などが挙げられます。
観世音菩薩の初縁日は1月18日にあたり、「初観音」は「初薬師」と同様、新年の季語として用いられます。
観音様を祀る多くの寺院では「初観音」にあわせ、さまざまな行事が執り行われるのが一般的です。
「初雀(はつすずめ)」
「初雀」とは、元旦の雀のことです。元旦に雀が発する、さえずりも表します。冬の雀は羽毛をふっくらと膨らませ、夏とは違う姿を見せます。
以下は、俳人「富安風生(とみやすふうせい)」が「初雀」を使って詠んだ、代表的な句のひとつです。
・廂 (ひさし)より垂れたる松の初雀
「薬師」の意味を正しく理解しよう
「薬師」は、医者と仏様の2つの意味をもつ言葉です。「薬師如来」は、医薬に関する仏様として信仰されています。
1月8日には「初薬師」が開かれるなど、「薬師(やくし)」は私たちの身近な存在といえるかもしれません。
「産土神参」や「初観音」など、他の新年の季語も含め、言葉の意味を正しく理解し日常生活で活用していきましょう。
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