価値観の違い? でもそれだけじゃない夫婦の微妙なすれ違い
会場となるMILANO-Zaの舞台にしつらえられたのは、木の床と中央の「回り舞台」。その周囲には、今回のキーアイテムとなる椅子や机。幕が開く前から出演者全員が舞台上でそれぞれの「日常」を送っているという、粋な演出からスタートします。映画を観た帰り道の夫婦――長澤まさみ演じるキヌと、森山未來演じるヒロヒコ――が感想を言い合いながら、回るステージの上を歩き出し…。冒頭だけでも、カップルによくある「価値観の違い」を表していて、クスリと笑えたり、「あるある」とうなづいたり。
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そこから10年をさかのぼり、夫婦の変化をたどっていく対話劇が、舞台の中心となります。キヌ(長澤まさみ)は自分の感情をうまく表現できないし、ヒロヒコ(森山未來)は自分の人生を哲学したりしながらも不器用で、とややこしい内面の持ち主でもあるこの夫婦。そんな難しいキャラクターをふたりが演じると、なんとも生々しく、おかしく、そしてときに苦しく、人間くさくなるのです。
また、ふたりの対話に加わる俳優陣も、人間くさい面々ばかり。キヌの弟でとても繊細な光也(timelesz 松島聡)、ヒロヒコに文章を書くバイトを斡旋する編集者・薮原(皆川猿時)、キヌの結婚に口出しをする母親・朋恵(伊藤蘭)、自由奔放なキヌのアシスタント・りく(小野花梨)。出演者は総勢9人で、主演のふたりの10年を追いかけながらも、9人の人生もオーバーラップするように描かれます。
特に注目したいのは、光也(松島 聡)の存在感。白い服(靴までも)が表しているようにピュアな内面をもちながら、ときに情緒が乱れたり、強く主張をしたり。それらが、決して他人事ではないと思わせるのは、松島さんの繊細な演技のたまものです。




この9人の会話劇を飽きさせることなく引き込むのは、蓬莱竜太(作家・演出家)だからできたこと。引っ張りだこの人気作家であるのも納得の、見事な手腕です。事前のコメントで、「新しい関係性のふたりをお見せすることができたら」と語っていたとおりの出来上がりになりました。
椅子や机の大事な役割にも注目
さて、最初に舞台上にあった椅子や机は、その後も物語のキーアイテムとなって登場します。序盤、あることをきっかけにヒロヒコが椅子を次々と倒していったり、夫婦が対話するときはそっと支える存在として椅子が使われたり。単なる道具ではない、まるで生きているような椅子や机の役割にも注目です。

10年の夫婦の変化をとおして、『おどる夫婦』のタイトルの意味が最後に明かされます。そしてふたりがインタビューでも語っていた、「おどる」場面はあるのか? それは観てのお楽しみ。
Bunkamura Production 2025『おどる夫婦』

数多くの演劇賞を受賞し、映画の脚本や人形劇ムービーで初監督を務めるなど、いま注目の作家・演出家・蓬莱竜太が新作書き下ろし。主演を務めるのは、14年ぶりに共演を果たす長澤まさみ(キヌ役)と、森山未來(ヒロヒコ役)。そのほかのキャストには、松島聡、皆川猿時、小野花梨、伊藤蘭など。詳細はこちら
【東京公演】2025年4月10日(木)~5月4日(日・祝)
THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【大阪公演】2025年5月10日(土)~19日(月)
森ノ宮ピロティホール
【新潟公演】2025年5月24日(土)・25日(日)
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
【長野公演】2025年5月31日(土)・6月1日(日)
サントミューゼ 大ホール(上田市交流文化芸術センター)
公演撮影/細野晋司 取材・文/南 ゆかり