衆人環視とは?
衆人環視は「しゅうじんかんし」と読み、大勢の人から囲まれているという意味です。これが転じて「公の場で」「多くの人の前で」という意味になります。
ここでは、衆人環視という言葉の成り立ちや、使い方を解説します。
言葉の成り立ち
衆人環視の「衆人」とは、「大勢の人」という意味です。「衆」という字は「多くの人」という意味があり、衆人のほかにも「大衆」「民衆」「群衆」など、人数が多いことを表す言葉で使われます。
「環視」は「周りを取り囲んで見る」「多くの者が注目する」という意味があります。衆人環視はこれらを組み合わせ、「多くの人が周りを囲んで見ている状態」を表す言葉です。
衆人環視と似た言葉として、「衆目監視(しゅうもくかんし)」があります。「衆目」とは「多くの人の視線」という意味で、「多くの人に見られている」という衆人環視と意味はほとんど同じです。衆目には「多くの人が観察する」という意味もあり、「衆目を集める」「衆目を驚かす」という使い方もします。
しゅうじん‐かんし〔‐クワンシ〕【衆人環視】
出典:小学館 デジタル大辞泉
大勢の人々が周囲をとりかこむようにして見ていること。
「衆人監視」と書くのは誤り
衆人環視の「環視」を「監視」と書くのは誤りであるため、注意しましょう。「監視」とは、「警戒して見張る」という意味です。問題が発生する可能性がある状況で、見張りをする必要がある場合に使われます。衆人環視にはそのような状況がなく、ただ多くの人が囲んで見ていることを表します。
同じく間違いやすい漢字には、「看視」が挙げられます。「看視」とは、「注意して見守る」という意味です。
これらの「監視」や「看視」は、見守る側の視点で使われることが多い言葉です。これに対し、衆人環視は見ている側の状況ではなく、おもに見られている側について表現する場合に使われ、多くの人に見られているという状態を表します。
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衆人環視の使い方
衆人環視は、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも使われる言葉です。たとえば、「衆人環視のもとで選挙の開票が行われた」という文章では、多くの人の見守るなかで開票され、選挙が公正に行われたことを表し、ポジティブな意味で使われています。
一方、ネガティブな意味合いで使われている例として、次のような文章が挙げられます。
- 衆人環視の前で叱られ、恥をかいた
- 衆人環視のなかで暴力をふるわれた
「衆人環視の前で叱られ、恥をかいた」という文章では、人前であることが恥ずかしいというネガティブな感情を表しています。
「衆人環視のなかで暴力をふるわれた」は、周囲に多くの人がいても安全ではないというマイナスな意味合いで使われているといえます。
衆人環視の例文
衆人環視の使い方を確認するため、いくつかの例文をみていきましょう。
- 彼は衆人環視のもとで緊張することなく実力を発揮し、見事に優勝した
- 彼女は衆人環視の前で堂々とスピーチを行い、拍手喝采を浴びた
- オーディションは衆人環視のもとで行われ、多くの人が選考の過程をみることができた
- 社長は従業員が起こした不祥事について、衆人環視の前で謝罪した
- 彼は仕事で大きなミスをしてしまい、衆人環視のもとで説教された
- 犯行は衆人環視のなかで行われたにもかかわらず犯人は姿を消し、十分な目撃証言も得られなかった
- 衆人環視のなかで演奏するのは慣れていないため、彼女はひどく緊張してしまった
衆人環視の類義語・言い換え表現
衆人環視には、次のような類義語・言い換え表現があげられます。
- 公衆の面前(こうしゅうのめんぜん)
- 人前(ひとまえ)
どちらも「多くの人に見られる」という意味で、衆人環視と似た言葉です。
このほか、衆人環視と似た言葉に「雲霞の如く(うんかのごとく)」も挙げられます。雲や霞が空を覆うように、多くの人が集まる様子を表す言葉です。
ここでは、「公衆の面前」と「人前」について、さらに詳しくみていきましょう。
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公衆の面前
「公衆の面前」は、「大勢の人々がいる前」という意味です。「公衆」とは社会一般の人々のことで、「面前」は「目の前」「見ている前」という意味があります。
「多くの人に見られている」という意味の衆人環視と、ほぼ同じ状況を表すといえる言葉です。
「公衆」と似た言葉に「大衆」がありますが、意味は異なります。公衆は特定の場所や公共の場などに集まっている人々を指しますが、大衆とは、社会の大部分を占める一般の人々を指す言葉です。そのため、「大衆の面前」という表現はあまり使われません。
(例文)
- 公衆の面前で大失敗をしてしまい、彼はしばらく立ち直れなかった
- 彼女は公衆の面前でスピーチをするのに慣れていないため、緊張してうまく話せなかった
人前
人前とは、「多くの人のいる場所」もしくは「ほかの人の見ている前」という意味です。「人前に出るのが苦手」といった使い方をします。
また、「ほかの人の前での体裁」という意味もあり、「人前を飾る」「人前を取り繕う」というように使います。人の前ではいつもの自分ではなく、良く見せようとするという意味です。
人前は「多くの人の前」という意味において、衆人環視と共通しているといえるでしょう。
(例文)
- 彼は親しい人とは陽気に会話するが、人前に出ると緊張してしまい、あまり話ができなくなる
- 彼女は幼少のころ、よく親から「人前では常に礼儀正しく振る舞いなさい」といわれて育ったため、社会人としての作法もしっかりしている
衆人環視の書き方や意味を正しく覚えよう
衆人環視は、多くの人が見ている前という意味です。「環視」には「多くの者が注目する」という意味があり、「警戒して見張る」という意味の「監視」や、「注意して見守る」という意味の「看視」と間違えないようにしましょう。
衆人環視の類義語には「公衆の面前」や「人前」が挙げられます。一緒に覚えておけば、状況に応じて使い分けができます。
衆人環視の意味を理解し、正しく使いましょう。
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