目次Contents
「香具師」とは?意味と読み方
「香具師」とは、祭りや縁日などに店を出し、商売をする人のことです。漢字三文字ですが、実際には「やし」と読みます。
「こうぐし」と読むこともありますが、この場合は「香具屋」(こうぐや)という意味が含まれます。香具屋とは、白檀 (びゃくだん) や沈香(じんこう)などの植物を材料に、香りを楽しむ香具を作ったり、売ったりする人のことです。
「こうぐし」と読む理由には「香具師」の歴史が関係していますが、一般的に「やし」と読む場合は、露天商の意味が主となるといえるでしょう。
「香具師」の漢字と読み方の由来
辞書では「香具師」のほか、以下のような複数の漢字表記が確認できます。なお「香具師」の漢字と読み方の由来は諸説あるようです。
や‐し【香=具=師/野師/野士/弥四】
出典:小学館 デジタル大辞泉
盛り場・縁日・祭礼などに露店を出して商売したり、見世物などの興行をしたりする人。また、露天商の場所割りをし、世話をする人。的屋 (てきや) 。
「弥四」という表記があるように、かつて「弥四郎」という名前の者が初めて薬を売り歩いたという説も。
「やし」という読み方は、薬を売り歩いていた「薬師」(やくし)の「ク」の音が省略されたものだといわれています。

「香具師」の歴史
かつての「香具師」は、薬や香具、匂袋などを売るスタイルが主流だったとか。江戸時代になると、富山の香具師・松井一家が江戸の町で名を馳せるようになります。
松井一家は薬の一種、反魂丹(はんごうたん)を創製し、その宣伝や販売のために居合抜きや曲芸などの芸を人前で披露したといいます。
一方、江戸初期の江戸の町では、神社仏閣の参道や花火大会など、人手が見込まれる場所での出店は禁止されていたようです。そこで、移動しながら商売するスタイルを生み出したのが露天商人たちだといわれています。
商人たちが集まり江戸の町が賑わうと、やがて露店の権利争いや小競り合いなどが勃発し始めます。それらを治めるため、当時の南町奉行・大岡越前守が出した新法が「十三香具之沙汰」(じゅうさんやしのさた)でした。
製薬売りや独楽回し、居合抜きの傷薬売りなど、13の職業に限り露天商を認めるという新たな制度により、江戸の治安は安定していきます。
時代が江戸から明治へと移り、縁日が一般庶民に普及すると「香具師」が扱う品物のバリエーションも広がりを見せ始めます。お菓子やおもちゃ、日用品など、現代の私たちが目にするような商品が人々を楽しませるようになったようです。
「香具師」と「的屋」に違いはある?
辞書にあるように、「香具師」は「的屋」(てきや)と呼ばれることもあります。同義に扱われることもありますが、それぞれの意味や名前の由来は若干異なります。
ここでは、「香具師」と「的屋」の違いについて簡単に見ていきましょう。

「的屋」とは
「的屋」とは、「香具師」と同じような露天商のことです。異なるのは、「いかがわしい品物を売る商人」という意味が含まれる点にあるといえるでしょう。
てき‐や
出典:小学館 デジタル大辞泉
盛り場・縁日など人出の多い所に店を出し、いかがわしい品物などを売る商人。香具師(やし) 。
ただし、これはあくまで辞書での解説であり、「的屋」と呼ばれる人が必ずしもいかがわしい商売をしているとは限りません。また、現在は個人に対して「香具師」、一家の呼称として「的屋」を使うケースもあるようです。
「的屋」という呼び名が誕生したのは明治以降
「的屋」という呼称は「香具師」より新しく、登場したのは明治期以降という見方もあります。
由来は諸説あり、「的に屋が当たることになぞらえた」というのがそのひとつです。
露天商の仕事は、いつでも決まった収入が得られるとは限りません。一方で、当たれば大きな利益が得られることから「的屋」と呼ばれるようになったとも考えられます。
「香具師」の仕事につきものの「口上」
「香具師」の仕事には、「ガマの油売り」や「バナナの叩き売り」のように古くから受け継がれるものがあります。
これらの商売に欠かせないのが、「香具師」の口上です。「香具師」という言葉は知らなくても、「さぁさぁ、お立ち合い!」などのフレーズを耳にしたことはあるかもしれません。
ここでは、各地に受け継がれる「香具師」のパフォーマンスについて、紹介します。

「ガマの油売り」の口上
「ガマの油」とは、江戸時代に傷薬として用いられていた軟膏のこと。当時は客寄せのため、侍の格好をした商人が口上をいいながらガマの油を売っていたようです。
「ガマの油売り」で有名なのが、「一枚が二枚、二枚が四枚……」と、紙を刀で切りながらいう口上です。
江戸末期に始まったといわれる「ガマの油売り」のパフォーマンスは、現在、茨城県つくば市の無形文化財に指定されています。
「バナナの叩き売り」の口上
「バナナの叩き売り」は、福岡県北九州市が発祥の地といわれています。明治時代、台湾から輸入されたバナナの販売がその始まりだったとか。
輸送中に蒸れたり、痛んだりするバナナは高級のため、なるべく早く売ってしまわなくてはいけません。そこで生み出されたのが、口上で客を集める「バナナの叩き売り」です。
口上にはさまざまなスタイルがありますが、客とコミュニケーションをとりながら競りを行うのが一般的です。
通常の競りでは値段を上げていきますが、「バナナの叩き売り」では「高い!もう一声!」などの客の声を受け、「〇〇円ならどうだ!」と商人側が値を下げるという、一連のやり取りを楽しめます。
「香具師」は古くから現代に至るまで続く職業
本来、薬売りだった「香具師」の仕事は、時代とともに姿を変えてきました。現在は縁日に多くの露店が並び、「香具師」は私たちにとって身近な存在といえます。
また、各地には露天商の口上がひとつの文化として根づいています。お祭りなどで「香具師」を見かけたら、ぜひ言葉の意味や歴史を思い出してみてください。
メイン・アイキャッチ画像:(c)Adobe Stock