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2024.12.29

50歳で官僚を辞め再出発「森を守り続けてきた人たちの未来をあきらめたくない」〈森林業コンサルタント・長野麻子さん〉

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、農林水産省で28年にわたり国家公務員として働き、50歳で官僚から転身した森林業コンサルタント・長野麻子さんにお話を伺いました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

森林業コンサルタント・長野麻子さんインタビュー

◆30代まではがむしゃらでした

国家公務員として農林水産省で働き、30代までは本当にがむしゃらでした。私の出身地である愛知県安城市は〝日本のデンマーク〟と呼ばれる農業先進都市で、周りは田んぼだらけ。食や農が、根源的で自分ごととして考えやすい分野だったんです。

ちょうど女性キャリア官僚が少しずつ増え始めた時代で、先輩方が苦労して道を拓いてくださったこともあり、男女同権で仕事ができる貴重な環境でした。係長や課長補佐として下積みを重ね、政策の企画や立案にも携われるようになっていきました。

農業法や国際問題予測学を学んだフランス留学を経て、部門を越えた協働の機会が増えたのが30歳を過ぎたあたりです。間伐材や、牛フン、食品廃棄物といった捨てられがちな資源をエネルギーや製品に活かす国家戦略「バイオマス・ニッポン」を始動。

森林業コンサルタント・長野麻子さん

「地方に眠る豊富な資源を活かし、地元に仕事を生んで都会からの資金も呼び込もう!」という地域活性の一環で、経産省や環境省、国交省、さらには民間企業とも連携して進めました。霞が関はよく〝縦割り〟と言われますが、未来のために必要なことならみんなで手を取り合って動かしていけるんだ、と体感できた経験でしたね。

34歳からの2年間、電通に出向していた時期は、もうこの世の春(笑)。というのも自分で提案をして、クライアントと直接話し合って自由に仕事を進められる環境が、公務員にとっては新鮮だったんです。当時は夜の会議も飲み会もざらでしたが、とにかく楽しくて。

でも、昼も夜も全力で働いて、夢中になりすぎたんでしょうね。気づいたら腎臓を壊してしまい、2か月ほど入院する事態に。以降は「過ぎたるは及ばざるがごとし、何事もバランスが大切だ」と肝に銘じました。それはどこか環境問題にも通じていて、電通で生物多様性プロジェクトに携わっていたこともあり、自然への関心が深まったのもこのころです。

◆出向を経て役所に戻ったあと“管理職”に

役所に戻った後は、ほどなくして管理職に。期待に応えたいと思いつつ、マネジメントの難しさには頭を悩ませる日々でした。年下から年上まで部下はさまざまで、相手のタイプや関係性によっては、自分の考えや手法が必ずしも通じるわけではありませんよね。

私自身は現場でプレーヤーとして動くのが好きな性分だったので、「管理職なんだから、ちょっと落ち着いて」と言われたことも(笑)。向いていないながらも皆さんに育ててもらい、ひとりではできない大きな仕事をチームで達成していく喜びがありました。

農水省には28年間在籍しましたが、実際には2〜3年ごとに担当や部局が変わり、転職を繰り返しているような感覚でした。その中で、全国の1次産業に従事する方々と出会い、現場でお話を聞くたびに地域の熱意が伝わり、それが私のやりがいになっていました。

ただ、50歳に近づくにつれ、どうも自分が薄っぺらい気がして。新しいことを学ぶのは好きだけれど、そろそろひとつの分野に腰を据えて向き合いたいなと。

◆2018年に林野庁に異動、新たな視点が…

バイオマス
(c)AdobeStock

そんな折、2018年に林野庁へ異動となり、木材利用推進「ウッド・チェンジ」を担当する課長のポストをいただきました。企業に木材を売り込むために林業の現場に足を運んで学んだのは、森林を持続させるにはただ保全するだけでなく、木を適切に利用して、また植えて、次世代に引き継ぐサイクルが必要だということ。

それまでもバイオマスやフードロス、BSE、鳥インフルエンザ、漁業とさまざまな分野を担当してきましたが、初めて〝森がすべての源〟という視点が生まれたんです。

水をたくわえ、生物や作物を育み、CO2を吸収して酸素を生む。土砂災害から人を守り、暮らしに役立つ木材を提供する。多くの恵みを与えてくれる森の大きな循環に触れ、「この分野で何かを残したい」という想いが強くなっていきました。

現代は技術も進み、耐火性や耐震性を確保して木材がオフィスビルに採用される時代です。世界最古の木造建築・法隆寺が1400年も残っているように、上手に使えば木材は持続可能な素材。

でも、コンクリートやプラスチック、鉄が主流となり、木は使われなくなり、森と街の距離もひらいてしまいました。それをもう一度つなぎ直し、残りの人生は森のために使いたいと思い、独立を決意。早期退職し、設立したのが「モリアゲ」という会社です。

◆50歳で起業「モリアゲ」がスタート

林を歩く人
(c)AdobeStock

50歳での起業に多少の不安はありましたが、これがもう最高にフリーダム! 何事も自分で決められますし、夫や家族も応援してくれているので、心置きなく挑戦できています。

スーツを着て当庁していた毎日が一転、今はパーカ姿で全国を飛び回り、森林業コンサルタントとして森の価値化を促すアドバイスや、森を支えたい企業との橋渡しを行っています。

今も林野庁と仕事ができ、公務員時代に出会った省庁や自治体、企業の方々との縁が続いていることに感謝していますね。企業だけでは動かしにくい課題も、官が関わることで前進することが多く、人手不足の時代には垣根なしの連携がますます大事になると思っています。

林業の先行きは、国産木材の需要減や従事者の高齢化など課題が山積みです。でもだからこそ、楽しくモリアゲたい。霞が関の政策だけでは解決できなくても、地域ごとに異なる自然条件やステークホルダーの掛け合わせでその地の森の価値は高めていける。

私が間に立って、企業の文脈に合うように翻訳しつつ、行政の事情をくみながらサポートできたらと思っています。これまで森を守ってきてくださった方々があきらめかけている姿を見ると、なんとか次代につなげたくて。

◆森に入る日々と“正解のない森づくり”

植樹
(c)AdobeStock

日本の国土の7割は森林ですから、森が元気になって仕事が生まれたら、地域も元気になっていく。講演や研修を通じて「明日からもう一度、森の力を信じてがんばってみようと思った」と言っていただけたときは、本当にうれしい瞬間ですね。

創業以来、『森林結社モリアゲ団』として仲間たちと一緒に長野県木島平村に通い、ブナ林の再生にも取り組んでいます。森づくりには正解がありません。場所ごとに土や気候も、棲む生き物も違って、同じ森はふたつとないんですよね。

共通するのは、森に入ると自然の大きな流れに包まれて、自分がその一部だと感じる瞬間があること。悠久の歴史を持つものに生かされていると知ると、自分の悩みが小さく見えて動じなくなるんです。実際、森に入ることでストレスホルモンの分泌量低下や免疫力の向上をもたらすということが科学的にも明らかになってきています。

たとえば会社で四半期の目標や利益に追われているとき、森で過ごしてみると「違う価値観もあるな」と心が軽くなるかもしれません。私自身の夢は、森の古民家で夫と柴犬と暮らすこと。自然の一部として謙虚に生き、いずれ自分の命も森に還っていけたら本望です。

次世代に森をつなげる! ブナ林を再生する植樹活動『森林結社モリアゲ団』

モリアゲ団

長野さんが経営するモリアゲでは、長野県木島平村と「森林の里親協定」を締結。カヤの平高原牧場の牧草地跡地を元のブナの森に戻す植樹活動を行っている。

森林結社モリアゲ団 グッズ

参加者は森林ボランティアメンバー『モリアゲ団』のほか、地域の住民、企業で働く人とその家族など多様。森林結社モリアゲ団の公式グッズ購入でも植樹活動をサポートできる!

森林結社モリアゲ団 公式suzuri売店

2025年Oggi1月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

長野麻子(ながの・あさこ)

1971年、愛知県生まれ。1994年、東京大学文学部フランス文学科を卒業し、農林水産省に入省。人事院長期留学生派遣制度でフランスへ留学、農業法などを学ぶ。バイオマス・ニッポン総合戦略検討チーム、電通出向などを経て、食品環境対策室長、大臣官房報道室長、新事業・食品産業産業政策課長などを歴任。2018年から、林野庁木材利用課長としてウッド・チェンジプロジェクトなどに取り組む。2022年6月に早期退職し、同年8月、モリアゲを設立。「森を想う人が7割となる未来」をビジョンに掲げ、日本各地の森を盛り上げている。

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