テレビプロデューサー・佐久間宣行さんインタビュー
自分を俯瞰することが身を助けてくれた
大学生になってひとり暮らしを始めたころから、大好きだった映画や演劇を見てばかりの毎日。大学に行かなくなり、エンタメ観賞とアルバイトに明け暮れていたという、かつての佐久間さん。留年はしたが、卒業後はテレビ東京に就職。深夜ドラマのAD(アシスタントディレクター)からキャリアはスタートした。
「入社3年目、自分の企画が通って、当時最年少でバラエティ番組のプロデューサーになったものの、番組は半年で終了。その後、5年目で総合演出をした番組も、半年で終わり。そんな経験もあって、自分が好きで企画するものは、大きなビジネスやゴールデン帯につながるような番組ではないのか…と、悩んだ時期もありました。
そして、俺が面白いと思うものは、案外レンジが狭いのかもしれない。そんな課題を抱えつつ、自分なりの仕事のやり方を考えないとまずいぞ、と右往左往していたのが、20代でした。でないと、日々の忙しさに巻き込まれてメンタルやられちゃうんじゃないかと。
となれば、自分で自分の市場をつくっていくしかありません。視聴率を取る以外の方法も確立しないと、生き残ることもできません。そこで僕がやったのは、担当した深夜番組に自分でスポンサーをつけたり、番組と連動したイベントを始めたり。いろんな〝初めて〟を仕掛けたことが、僕の身を助けてくれました。それから、自分の状況や向き不向きを俯瞰で考えることも。これは、僕の特技といってもいいかもしれません」
そのころに生まれた番組が、深夜の人気長寿番組となった『ゴッドタン』(2005年〜)、テレビ東京初の子供番組『ピラメキーノ』(2009〜2015年)だった。
「とにかく忙しかった30代。同世代の仲間はまだ朝まで飲んだり合コンもしていた中、僕は娘の幼稚園の送り迎えもしていたり。時間の制限があって悔しいと思うこともあったけれど、親になったことで子供番組のアイディアにもつながった。
それに、娘が好きなものを一緒に楽しんで、広い年代のカルチャーを知ることもできた。そして、いつしかそれが僕の強みにもなった。どの生き方が正解かはわからないけど、置かれた状況で、正解をつくっていくしかないんです」
報告だけはだれよりもマメにしていました
「自分にしかできない仕事」をつくり出すことを、「自分をブランド化する」と佐久間さんは表現している。それには、自分自身はもちろん、身を置く業界全体を俯瞰することも必要になる。
「テレビ業界はどちらかというと古い業界で、長い目で見れば、大きく変化したり、なくなってしまったりする可能性もある。それを嘆くのではなく、だからこそ、その業界で新しいことを始めることが、自分のリスクヘッジになると考えました。たとえば配信事業をやる、ライブやイベントをやる、そこで物販もやる、DVD化してそこに新しい試みを取り入れる…。
そういう新しいことが〝よくわからない〟年上の人たちにしてみれば、口出ししにくい。任せておいて大丈夫だと思ってもらえるように、報告だけはだれよりもマメにしていました。そうすることが、苦手な仕事や組織に振り回されず、疲弊することなく、楽しくご機嫌に仕事ができる方法だとわかりました」
余計なものを削ぎ落としながら、佐久間さんの軸となったのが、「お笑いとサブカルチャーを組み合わせる」ことだった。そして目指すのは、「自分が面白いと思った人たちを、世の中に出していくこと」。それは今もすべての仕事に通底している。
そして3年前、会社に惜しまれながらもフリーランスに。その経験をもとに、独立を考える人たちから相談されることはとても多い。
「よく話すのは、自分から会社の看板がなくなったとき、仕事をくれる人が3人以上思い浮かぶかどうか、ということ。さらに、その中のひとつが、今後の成長分野かどうか。それがはっきりするまでは辞めないほうがいい、と話します。
また、『佐久間さんみたいな仕事をやるにはどうしたらいいですか?』とよく聞かれるけど、今の俺と同じことじゃなくて、10年後に流行ることを探さないとダメ。会社を辞める予定がなくても、次なる成長分野を探し、それに向けて準備をすることは、だれにとってもやっておいて損はありません」
これからの目標は「変な仕事をする」!
準備のひとつとして、今も佐久間さん自身の仕事に役立っている「1行メモ」がある。短い企画メモをストックしておいて、定期的に見返すという方法だ。
「いちばんアイディアを思いつくのは、スマホから離れているとき。たとえばサウナでぼーっとしているとき、散歩をしているとき…。すぐにメモをとれないのがむしろよくて、思いついたことを忘れないように、何度も頭で繰り返し、考え直して。本当に面白いものだけが頭に残り、それをあとでスマホのメモに入れておく。
ほかにも1〜2行の短い企画をメモにストックしておいて、月1回見直すのが習慣です。面白いと思えたものは企画を具体化するけれど、みんなの反応がいまひとつのものもある。でも、『いまひとつ』のほうには、まだ世の中にない面白さが潜んでいるかもしれない。それを信じて、面白さが伝わらない理由を探しながら、磨き続けるのです。
たとえば、2019年にM-1で優勝したミルクボーイは、結成当初から優勝ネタと同じ漫才をやっていたけれど、なかなか受けなかったそうです。それでも同じことをやり続けて、『おかんが忘れた』というつかみにたどり着いたのが、12年後。自分がいいと思ったことは信じるべきで、信じたことが伝わるまで繰り返し考え続ける。それが大事なのだと思います」
その一方で、「歳を重ねること」がプラスになることばかりではない、と冷静な視点も欠かさない。
「ある程度続けていくと、どこかで〝裏切る〟ことも必要なのが、お笑いの世界です。これまでの仕事で得た知見を生かしながらも、また別のことも探し続けないといけない。
だから僕のこれからの目標は、〝変な仕事〟をする! 10月から日曜深夜に4分間の連続ドラマを始めたのも、そのひとつです。〝変な〟ことの中から、また将来自分の身を助けてくれることが生まれてくると信じながら。
ただ、自分だけが成功すればいいとは思いません。未来を描くときは、30代で目指した基本に立ち返る——『自分が面白いと思った人たちを、世の中に出していく』——。それを見て笑っていられたら、こんな楽しいことはありませんからね」
〝30代で読んでおきたい大人気エッセイ〟
今回のインタビューで紹介する仕事術のほか、生きるヒントがつまった本『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』(集英社)がヒット中。佐久間さんが「心を救われたエンタメ作品」なども収録された、手元に置いておきたい「おまもり的エッセイ」です。
最新刊『その悩み、佐久間さんに聞いてみよう』(ダイヤモンド社)では、会社でよくある悩みに回答。どちらも、働く全女性必読です!
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2025年Oggi1月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/中村和孝 スタイリスト/高橋めぐみ ヘア&メイク/五十嵐将寿 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
佐久間宣行(さくま・のぶゆき)
1975年生まれ、福島県いわき市出身。1999年4月テレビ東京に入社し、『ゴッドタン』『ピラメキーノ』『あちこちオードリー』などの番組を手がける。2019年4月から『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティに。2021年3月テレビ東京を退社し、4月からフリーランスに。ドラマとトークを組み合わせた『トークサバイバー!』シリーズ、星野 源と若林正恭のトークバラエティ『LIGHTHOUSE』(ともにNetflix)、コントバラエティ『インシデンツ』(DMM TV)など、配信番組でも次々とヒットを生み出す。テレビ東京にて愛のゲキジョー『愛の口喧嘩』(日曜深夜)がオンエア中。企画・出演・プロデュースを手がけるYouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」は登録者数230万人を突破(2024年10月現在)。