脚本家・宮藤官九郎さんインタビュー
評価を気にするのは、自分が迷っているということ
「中高生のころから、みんなが真面目に何かやっているときや、笑ってはいけない空気のときほど、おかしくなるというクセがありました。それは今も変わっていなくて、お芝居を見ていても、みんなと違うところで笑いたくなってしまう。
そういうところに、まだ人が気づいていない、次の面白いもののヒントがある気がするから。度が過ぎると、バカにしていると思われちゃうから、気をつけなきゃいけないんですけど(笑)。
あ、もうひとつ変わってないのは、体型。たばこをやめても、忙しくても、太ることもこれ以上やせることもなく、ずーっとこのまんまです」
自分だけの着眼点を武器に、子供のころから文才を発揮し、作文コンクール受賞者の常連だった宮藤さんだが、脚本家として仕事を始めたのは、29歳のとき。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)の大ヒットを機に、30代での代表作『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』などへつながっていく。
「急にいろんな人から評価されて、自分じゃないもうひとりの自分に監視されているような、おかしな感覚がありました。それまでは演劇の舞台で、目の前にいるお客さんに向けて作品をつくってきたけれど、それがドラマや映画に広がって、見えない何かにビビって。世間にどう思われるだろう。面白くないと言われたらどうしよう…と。
やがて、代表作品が生まれて、それに対して質問されれば、理論武装もするようになる。いいこと言おうとしたり、飽きられないように構えたり。
思えば、『かっこ悪くないように』ばかり考えていたんです。今なら、人の評価を気にするということは、自分が迷っているということだとわかります。だから、迷うくらいなら、やらない。40代以降は、そうなっていきました」
まだ知らないことや新しいことを欲している
「かっこつけるほど、かっこ悪い。のちにそう気づかせてくれた30代。そして、今活動を一緒にしている仲間は、そのころからのつきあいです。未熟なお互いを許容したりガマンし合ったりしながら、関係が築かれていきました。それもこれも、今になってわかるわけで、30代真っ只中は、悩んだところで答えは出ないもの。
目の前のことに必死で、何かを追いかけ続けて。先輩たちのアドバイス——だんだん体の無理がきかなくなるよ、とか——だって、真剣に聞いてなかったけど、今なら確かにそうだなって。情報が多いほど、世の中が便利になるほど、すぐに答えが出ると思いがちだけど、そんなことは全然ないんですよね」
脚本家として活躍する前から、宮藤さんが続けているのが、「大人計画」での活動だ。大学在学中に演出助手を始め、やがて公演作品の作・演出を務めるように。
その中で、大きな舞台での公演と別に、自由なテーマで行う「ウーマンリブ」シリーズは、1996年から現在も続いているライフワークのひとつ。宮藤さんが企画・脚本・演出を手がけ、役者のひとりとしても舞台に出続けている。
「映画やドラマの脚本づくりを長距離走とするなら、コントは短距離走で違う筋肉や頭を使うもの。だから、どちらもバランスよく続けたいと思ってきました。
それにコントは、とにかく本番が楽しくて仕方ない。稽古がどんなにキツくても、途中でうまくいかないことがあっても、目の前のお客さんに笑ってもらったとき、すべてが報われた感覚になれるんです」
そして、やはり目を引くのは、シリーズ名にある「ウーマンリブ」という言葉。もとは、女性解放という意味をもつ言葉だが——。
「30年前に始めるとき、何かユニット名をつけないと長く続かないだろうと思って、仲間と考えた候補の中のひとつでした。決め手になったのは、『宮藤さんからいちばん遠い言葉』だからという理由で『ウーマンリブ』。そう、あのころは確かに深く意味を考えてはいなかったな。
『ウーマンリブ』公演も30年近くたって、振り返れば女性が中心の公演が増えたり、公演タイトルに女性の名前がついたり、何も考えずにつけた割には、そっちに引っ張られているような、いやその間に世の中が1周半くらい回って、多様性というものが無意識に定着したような。
かといって、それをテーマのど真ん中にもってこようと思ってはいません。ドラマ『不適切にもほどがある!』(2024年/TBS系)は、たまたま、みんなのモヤモヤを言葉にしたのでウケたけれど、同じ方法はもう使えませんし。
それより、スタッフの中でいちばん年上になってきて、若手に気を使わせないためにどうしたらいいか、日々考えているかな。先生扱いされて、人から意見を言ってもらえなくなったら終わりだから、自分から『ここ、ダメじゃない?』『ここ、直しましょうか』と提案するようにしています。
するとスタッフも意見を出しやすくなる。『私もそう思ってたんですけど…』と。ちょっと面倒くさいけど、今後は若い人たちと組んで仕事しないと、自分の感覚も変わらないですから」
「ウーマンリブ」に話を戻すと、現在準備中の公演がどうなるのか、気になるところ。
「新しいとか古いとか、面白いとかそうじゃないとか、そういう物差しではなくて、コントを見て“機嫌がよくなる”ことが、大事。そうすれば、みんな免疫力がアップして、また翌日から頑張れる。だから、タイトルは『免疫力がアップするコント』です」
今回のテーマは、「最近ちょっと働きすぎなので、たまには楽をさせていただこうと思って考えた」と冗談交じりに話す宮藤さんだが、それと同時にこんな思いもある。
「コントは頭の中にあっても、台本はこれから。集中力も体力も落ちてきて、パソコンに向かってても、ついYouTube見ちゃうし、ネットニュースを見て時間がたってる。
ということは、疲れたとか言いながら、まだ新しいことを欲してるということ。いつになっても、落ち着きがないまま、『もっと面白いことがあるんじゃないか』って言いながら死んでいくのも、悪くないと思っています」
【info】オムニバスコント公演が11月12月に上演! ウーマンリブ vol.16『主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本』
ウーマンリブ vol.16『主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本』/11月・12月にザ・スズナリ(東京)と松下IMPホール(大阪)で上演されるオムニバスコント公演。宮藤官九郎による新作コントの書き下ろしは約9年ぶり。笑ったあとは、免疫力がアップすること間違いなし!
作・演出:宮藤官九郎 出演:片桐はいり、勝地 涼、皆川猿時、伊勢志摩、北 香那、宮藤官九郎
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2024年Oggi11月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/高木亜麗 スタイリスト/チヨ 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年生まれ、宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。脚本家として2001年公開の映画『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞ほか多数の脚本賞を受賞。以降もテレビドラマ『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』などの脚本を手がけ、最新ドラマは『新宿野戦病院』。2005年『真夜中の弥次さん喜多さん』で長編映画監督デビューし、新藤兼人賞金賞受賞。パンクコントバンド「グループ魂」ではギターを担当。