自身初のミュージカルに挑戦! 俳優・北村一輝さんインタビュー
好き嫌いも反対意見もはっきり言います
「5年後10年後にどう成長できるか、何をやっていたいか、いつも考えます。それは、1本の映画のように頭の中でストーリー立てされて、客観的に見ている自分がいて。
30代の僕が描いていたストーリーは、過去を振り返らず、自分の足元さえも見ず、ひたすら走り抜くというもの。自分を見つめ直したり、振り返ったりするのは、40代、50代になってからやればいい。
よく聞く“素敵な大人”になるには、30代でたくさん間違えて、恥をかいておくことが必要だと思っていたのです。そうすれば、人の失敗や間違いも許せるようになるし、自分で納得した道を歩む限り心に余裕もできる。
僕の場合は、ですけどね。他人に完璧さばかりを求めて失敗を責めるような、ギスギスした世の中への挑戦でもあるのです」
気をつけているのは“会話の中で否定をしないこと”
北村さんが30代で出演した作品は、映画・ドラマ合わせて100本近く。主演作品も増え、「ぐんぐんと波にのっている」時期だった。
「作品数は多いけれど、実は同じ監督やプロデューサーとの仕事がとても多いですね。それを狙ったり、気に入られようとしてやっているわけではありません。どちらかといえば、好き嫌いも反対意見もはっきり言います。
ただひとつ気をつけているのは、会話の中で否定をしないということ。それが自分も楽しくいられて、結果、人に優しくできるとわかったのです。そして…間違ったらあとで謝る。それだけです」
自分中心で生きていると言いながら、その眼差しはいつも他者へ向いている。北村さんと「また」仕事をしたいと思わせる理由だ。
自分にできるのか、本当に大丈夫なのか
“ミュージカル”という新たな挑戦
前だけを見ていた30代を過ぎ、40代・50代で変わるのかと思いきや、今も失敗を恐れてはいない。むしろ、より強くなっている。ところが、昨年は新たな挑戦を前に立ち止まり、悩む日々があったという。
「僕にとって初めてのミュージカル『王様と私』出演にあたり、何度も自問自答しました。自分にできるのか、本当に大丈夫なのか。悩んだ末にやることを決めたのは、ひとつは、かつて一緒に声楽を習った仲間だったプロデューサーが勇気づけてくれたこと。
ミュージカル『王様と私』/1951年のブロードウェイでの初演以降、日本でもヒットを続けてきたミュージカル。1860年代のシャム(現タイ)で国の近代化を図る王(北村一輝)と、イギリスから来た家庭教師アンナ(明日海りお)を中心に、芝居・歌・ダンスを華麗に繰り広げる。4月9日 東京・日生劇場を皮切りに、大阪でも公演。詳細は『ミュージカル 王様と私』公式ホームページまで。
もうひとつは、ミュージカルの捉え方を自分なりに再確認したこと。ミュージカルというと、歌で内容を表現することが多いけれど、僕の主戦場はやっぱり芝居。芝居と歌を分断させることなく、芝居をメインに、その延長線上に歌があるというスタンスで。
それなら、自分なりの王様役をつくれるのではないか。過去に何人もの俳優がこの作品を演じてきたけれど、それをなぞるのではなく、まったく新しいものを。だから王様のビジュアルも、これまでと少し違います。──
ハードルを上げたらストイックにそれを超えていく
──チャレンジだし、賛否両論があることも理解しつつ、それがどんな評価になるかわかりませんが、今は気にしていられない。期待していてください。満を持してお引き受けしたわけですから、やるならハードルを高くしておいたほうが、いいんです(笑)」
自身でハードルを上げたら、それを越えるべく、ストイックなまでに準備を重ねていくのも、また北村さんの信念。ミュージカル出演が決まったときから、体のためにお酒は控え、生活リズムを整え、ボイストレーニングを始めた。
「週に1回、ボイストレーナーのもとで練習をして、時間があればひとりカラオケで歌って。1か月ほど続けたら、キーを下げて歌っていたB’zの曲も、原曲のキーで歌えるようになりました。
でも、うまくなったと思ってもまた落ち込んだり、ということの繰り返し。それでも成果が見えるのは楽しいものです。体調管理をしながら、あとは本番までにもう少し体を絞ります」
北村さんの思う『王様と私』の王様像とは
ミュージカル『王様と私』の開幕は目前。体は王様らしい風格を備え、それに伴って「気持ち」のほうも王様にシフトしてきている。
「大国に国交を迫られるシャム(現タイ)の国王は、威勢はあるけれど孤独で、葛藤していて、とても“人間らしい”。もしも、の話ですけど、僕が実際に一国の王になるなら…やっぱり“人間らしい”ことが最優先。
子供やお年寄りに優しく、目先の対策ではなく、5年先・10年先を見据えて国のシステムをつくる。そのために風通しよく、意見交換ができる国が理想です。それを貫くのは、並大抵のことではないでしょう。
でも、その過程で何かを失ったとしても、今の僕ならきっと取り戻せる。それくらいの覚悟は、これまでの経験で身についている気がします」
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【衣装】スーツ¥391,000(ランド オブ トゥモロー 丸の内店〈カルーゾ × ランド オブ トゥモロー〉) その他/スタイリスト私物
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2024年Oggi5月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/石倉和夫 スタイリスト/櫻井賢之(casico) ヘア&メイク/松本幸子 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
北村一輝(きたむら・かずき)
1969年生まれ、大阪府出身。1990年にドラマ『キモチいい恋したい!』で俳優デビュー。近年の出演作に、舞台『欲望という名の電車』、映画『カラオケ行こ!』『ゴールド・ボーイ』など。待機作品として映画『陰陽師0』(2024年4月公開)、4月スタートドラマ『366日』(フジテレビ系・月曜21時〜)に出演予定。