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LIFESTYLE

2023.12.30

俳優・役所広司さんの美しい生き方、歳の重ね方「これからの仕事で、お世話になった人たちに恩返しをしていきたい」

今年、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した役所広司さん。世界からその実力を認められ、日本映画界でベテランの域に達しても、ひとつひとつの仕事に全力で向き合い、事前の準備・研究を怠らない。それは仕事術というよりも、役所さんの「生き方」そのもの。強い意志をもちつつ、怠けそうになったら自分を叱咤して。そして穏やかに、静かに、歳を重ねることを慈しんでいる。そんな役所さんに今聞きたい“美しい生き方、歳の重ね方”とは。

第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞! 俳優・役所広司さん インタビュー

“彼”のような生き方ができたら

2023年5月、日本の映画界に「19年ぶり」のビッグニュースが舞い込んだ。第76回カンヌ国際映画祭で、役所広司さんが最優秀男優賞を受賞したのだ。

俳優部門での日本人の受賞は2004年以来ふたりめで、作品は『PERFECT DAYS』、監督はドイツの名監督ヴィム・ヴェンダース氏。

役所さんが演じたのは、東京でひとり暮らしをしながら、トイレの清掃員として働く、平山という人物だった。帰国後、「賞に恥じない俳優になりたい」と話した役所さん。

それから時間がたった今、演じた役を少し客観的に、でもどこか自分の一部のように見つめている。

映画『Perfect Days』イメージ画像
© 2023 MASTER MIND Ltd.

映画『PERFECT DAYS』/東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているように見えるが、彼にとって日々は常に新鮮で小さな喜びに満ちている。

『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などで知られるドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが指揮をとったことでも話題に。TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー。

◆平山という人物に見た“美しい生き方”

毎日同じルーティンで暮らし、それでも少しずつ新しい発見をしながら、木漏れ日に目を細め、写真を撮り、好きな本を読み、満足して眠りにつく…。

平山の生き方は、なんて美しいんだろうと思います。都会で生きていれば、なんでもお金で買えるけれど、どんなに〝もの〟を手に入れても満足することがないのが現実です。

そんな中で、彼だけ森の中でゆったりと生きているようで、こんな生き方ができたら、と思わずにはいられません。

役所広司さん

平山がどんな過去をもっているのか、明らかにされてはいないけれど、僕なりに彼の背景を考え、研究して、醸成して、アウトプットする。

——それが、俳優という『仕事』だと僕は考えているんです」

◆俳優の仕事は恥ずかしいことばかり

30代のころはまだ、その「仕事」の大切さには気づいていなかったという。

「29歳のときに出演した『タンポポ』という映画がヒットしましたが、その後、僕の30代は、テレビドラマと舞台が中心でした。それでもまだ、仕事を軽く見ているようなところがあって、〝真剣に〟〝死ぬ気で〟というところまではいっていなかった。

これくらいできていれば、いいだろう。そう思って、演じる役の背景や、その奥にあるものまで、研究することが必要だとは気づいていませんでした

役所広司さん

当時は、時代劇の所作や歴史的知識を学ぶ機会も少なかったし、資料もありませんでした。頼りになったのは、自分が今まで見てきた先輩たちの見様見真似だったのです。

だから、今になって思うんです。あのころ、もっと自分から勉強して臨んでいれば、そして未熟な僕を叱咤してくれる厳しい監督に出会っていれば。もっと、先の仕事が広がったんじゃないかと」

怖さも恥ずかしさも、乗り越える方法はひとつ

やがて、映画への出演が多くなり、海外でも評価されるようになると、役所さんの中に変化が起こった。

自分の仕事がフィルムに焼きつき、国境を越え、世界で映像として後世に残る。うまくいかなかったことを後悔しても、どうすることもできません。特に、最初に映画祭に参加したとき、その怖さを痛感しました。

それに、少し引いて見れば、俳優という仕事は〝恥ずかしい〟ことばかり。たくさんの人の前で、自分ではない人物になったり、話したりするのですからね。

役所広司さん

それは、どんな仕事も同じじゃないでしょうか。僕なら、演じる人物や時代背景についての本を読んで研究する、想像をふくらませて役の気持ちを考える…。

そして、ときに怠けそうな自分と闘う。演じた平山のように、決まったルーティンはないけれど、寝る前の読書だけは僕の習慣です。ただ…読み始めるとすぐに眠たくなってしまうのですけどね」

◆役所さんの思う、美しい生き方

冒頭で映画『PERFECT DAYS』の主人公・平山を「美しい生き方」だと語った役所さんだが、では役所さん自身の美しい生き方、そして「パーフェクトな日」とは——。

役所広司さん

「いい行いをしたとか、いいことがあった、というのは決してパーフェクトじゃない気がしていて。それよりも、だれかの役に立ったとき、観客のみなさんに喜んでもらえたときが、うれしいんです。

でも、どれだけ仕事を続けても、すべてパーフェクトで満足することは、きっと、ずっと、ないのかもしれません。人は欲深いものですからね。

今67歳、これからの仕事は、自分がいい演技をすることだけでなく、お世話になった人たちに恩返しをしていきたい。それが、僕にとっての〝パーフェクトな〟歳の重ね方です」

***

【衣装】シャツ¥47,300(yoshiokubo) その他/スタイリスト私物

⚫︎この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。

2023年Oggi1月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/YUJI TAKEUCHI(BALLPARK) スタイリスト/伊賀大介(band) ヘア&メイク/勇見勝彦(THYMON Inc.) 撮影協力/AWABEES 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部

役所広司(やくしょ・こうじ)

1956年生まれ、長崎県出身。1978年に俳優デビュー。1996年、後にハリウッドでもリメイクされた映画『Shall we ダンス?』がヒット。その後『うなぎ』『EUREKA ユリイカ』『バベル』『わが母の記』などで国際的にも高い評価を得る。2019年には『孤狼の血』で3度目の日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得。2023年は映画『銀河鉄道の父』、ドラマ『VIVANT』に出演。最新主演映画『PERFECT DAYS』で、第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞。

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