俳優・松岡茉優さん インタビュー
30代に向けてのカウントダウン、松岡さんが目指す大人の姿とは
しっかりした核を持ちつつ、柔軟性も失わない。大事にすることがある一方で、いざというときは手放すことの必要性もわかっている。
仕事を続けるなかで、つかんできたバランス感覚は松岡さんの強みであり、仕事の充実に欠かせないもの。それを自身で楽しみながら、30代に向けてのカウントダウンが始まった。
小学生のときから、「将来の夢は俳優」と定めていたという松岡さん。いざ仕事を始めてみれば、生まれ持った器用さと勘のよさで、たちまち活躍の場は広まった。
◆生きていくことは、選択の連続
「その反面、部活動や習い事に打ち込んだ経験がないことは、ずっと頭の片隅にあります。それを悔いているわけではなくて、あれもこれも、すべてを手に入れて、すべてを経験できるわけではないから、選択の連続だなと思うのです。
何を選んで、何を手放すか。目の前にある道に進むかどうか。臆するような、選びたくないと感じる選択が、実はチャンスだったりもするから、最後は直感しかないのかもしれないですね。
その選択の先に、想像していなかった未来が感じられたとき、この選択をしてよかったと感じるのかもしれません」
それでも、すべてが予想したとおりにいくものではないし、自身が完璧ではないことも、よくわかっている。それを助けるのは、長い経験で身についた生きる技だ。
◆苦手なことは予定が変わること
「すべてが完璧な人は、たぶんいないのでは。苦手なところ、凹凸のあるところにこそ、その人らしさが出る気がして。私の苦手なことは、予定の変更に対応すること。
1時間先、3日後、10日後… 強く意識していなくても、予定に合わせて知らず知らずのうちに準備していて、体力と気力を逆算しながら過ごしているので、予定が狂うと戸惑ってしまうことがあります」
そんな松岡さんが、「完璧なスケジュールだった」と感謝を表したのが、最新主演映画『愛にイナズマ』の撮影だった。
「話の流れや思いを尊重した段取り、撮影のスケジュール… どれをとっても完璧で、各部に配慮された美しいスケジュールでした。
関わる全員が同じ方向をむき、必要なときには意見を交わすことができたのも、思いのこもったスケジュールのおかげだったように感じます。
そうして完成した作品を、観に来てくださった方とお会いできる舞台挨拶というのは、かけがえがなく、大好きなお仕事なのです。できることなら、上映してくださっている映画館を回って、観てくださる方にありがとうを伝えたいくらいです」
貫くこと、手放すこと。人生を慈しみながら生きる技
今回舞台挨拶に立つ映画『愛にイナズマ』は、松岡さん演じる折村花子(26歳)の仕事と家族が核となるストーリー。幼いころからの夢だった映画監督デビューを目前に、理不尽な理由でどん底に突き落とされる。そして花子は反撃を決意する。
映画『愛にイナズマ』/映画監督デビューを目前に控えた折村花子(松岡茉優)。空気が読めないが魅力的な舘 正夫(窪田正孝)と出会い、人生が輝きだすかと思いきや、無責任なプロデューサーのせいで花子はすべてを失う。反撃を決意した花子が頼ったのは、音信不通の家族だった。全国公開中。
◆貫く、壊す、避ける… 方法は人それぞれでいい
「長いものに巻かれず、自分の捨てられないもの、逃げたくないものと最後まで向き合う花子は、とてもかっこよくて。
花子のように、ときには何かを手放してでも叶えたいと思う仕事があって、譲れないものがあるのはすごくかっこいいけれど、一方で、闘うことが苦手な人もいるし、流れに沿って過ごすことが好きな人だっている。
方法は人それぞれでいいんじゃないかって。壁にぶつかったときも同じで、避けて通る人がいれば、壊して越える人もいるだろうし。
私なら、壁の前であぐらをかいて、ちょっと考えようかな。そして、仲間を呼んで作戦会議をしたり知恵を借りたりするかなと思います」
◆歳を重ねるのが楽しみだと思える大人を目指したい
自身が憧れだったという30代まで、あと1年ちょっととなった今。松岡さんの心中は、どこか穏やかで、幸福感にあふれている。
「こんなふうにポジティブに捉えられるのは、“歳を重ねることはすばらしい”と証明しながら、道を拓いてくれた先輩方がいたからです。私も、新たなる若い世代が、歳を重ねるのが楽しみだと思える大人を目指したいです。
そのために、まずは小さなことも、日々大事に生活したいなと感じます。
たとえば、仕事の帰りにスーパーに寄って、夕飯を何にしようか考えたり、料理をしたくないときは、お茶漬けだけでいいけれど、その代わりお湯は鉄瓶で沸かしてみたり」
◆息抜きやだれかに助けてもらうことも大切
「丁寧に、でも執着しすぎず、できないことは手放しながら。
毎年、8kgから1kgくらいの梅を漬けていたのですが、今年はドラマの撮影が忙しくなりそうだったので、断念しました。まあ、そんな年があっていいよね、って自分に言っています。
そのことを梅づくり友達に話したら、今年つくった梅干しを分けてくれるそうなんです。助けてくれる仲間がいるというのは、ありがたい。
全部をあきらめずに頑張るというのもいいけれど、息抜きをしたり、だれかに助けてもらったりというのも大切だなと感じました」
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【衣装】ブレザー¥103,400(Sakas PR〈SHOOP〉) イヤリング¥74,800・リング¥14,300(ソワリー) 靴¥143,000(アマン〈ペリーコ〉)
⚫︎この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。
2023年Oggi12月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/黒沼 諭(aosora) スタイリスト/池田未来(in the pink) ヘア&メイク/大上あづさ 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
松岡茉優(まつおか・まゆ)
1995年生まれ、東京都出身。幼いころから子役として活動、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で注目を集める。主な出演作に、映画『桐島、部活やめるってよ』『勝手にふるえてろ』『万引き家族』『蜜蜂と遠雷』『騙し絵の牙』、ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』など