緊張も難題も「楽しむ」ことで乗り越える、平和主義を貫くお仕事論
ここ2〜3年の仲 里依紗さんは、ノリにノッている。
3年前に開設したYouTubeチャンネルは登録者数約170万人に達し、2年前には自らがプロデュースするアパレルブランドがスタート。ドラマや映画では、濃いめのキャラを続々と誕生させている。
そのすべてが「大好き」で「楽しい」こと。それを模索した時期もあったけれど、「好き」がはっきりすると、ムダはなくなり、人の幸せにも思いをはせることができるようになる。
人生を楽しくするのは、他人じゃなくて自分
「こう見えて私、とっても平和主義です。イヤなことがあっても、気持ちをグッと抑えて、笑顔で乗りきる。で、終わったらすぐ次に切り替えます。
人ともめたり、気まずくなったりするより、みんなが幸せに仕事できたほうが、絶対にいいでしょ。ということもあるけど私、面倒くさがりなので(笑)。
だからといって、本音を我慢しているのとも、違うんです。自分に自信が持てなくて流されていた時期もあったけれど、今は好きなことが核にある。
私が好きなのは、ファッションやYouTube、そしてお芝居で別人格になりきること。それをやっていられたら、なんだって頑張れる。
だから、会社での毎日がつまらないって思ってる人は、何をやってる自分がいちばん楽しい? って自分に聞いてみようよ。ゲームでもいいし、メイクだっていい。人生を楽しくするのは、他人じゃなくて自分なんだから」
自分のことがわかってからの30代は、今まででいちばん楽しい
自分らしさがなんなのか、わかっていなかった20代までの自分
10代のときから俳優の仕事を始め、いわゆる清純派から過激なコスチュームをまとった役まで幅広く演じてきた。20代では結婚・出産・子育ても経験し、「楽しいこと」を知らなかったわけじゃない。
でも30代になってからの「楽しさ」は、それまでと違う「自分発信の」「責任もともなう」大人の楽しさだった。
「昔の写真を見返すと、自分がつまらなすぎて、消してしまいたくなります。周囲に合わせたり、人の目を気にしたメイクやヘアスタイル、服だってまったく私らしくない。そもそも、自分らしさがなんなのか、わかっていなかったんです」
素の『自分』を出すようになって変わり始めたこと。好きなことがはっきりすると、迷いもムダもなくなる
「両親が洋服の店をやっていたこともあって、小さいときからお洋服屋さんになることが私の夢でした。でも俳優の仕事のほうが早く始まり、本業以外で目立ったことをするのはダメなこと、と決めつけていたんです。
同時に、本当の自分を出せないもどかしさも、どこかでありました。それが、キャラの濃い役を演じるようになったり、SNSやYouTubeで素の『自分』を出すようになって、そこから、やがて服づくりにもつながって。
特に『服をつくりたい、つくりたい』って、常に口に出してきたことは、今になってみればよかったと思います。言葉は人に伝わり、どこかで協力してくれる人が現れるもの。
でも、10代からずーっと口にしているのに、『ゾンビになって映画に出ること』だけは実現してません。だから、まだまだ言い続けます。ホラーが好きだということもあるし、自分とは別人になりきって、理解不能なありえない世界を経験することは、脳も私自身もすごく喜ぶから。
こんなふうに、自分のことがわかってからの30代は、今まででいちばん楽しい。それに、好きなことがはっきりすると、迷いもムダもなくなります。今も爆買いは大好きだからやるけれど、実はムダな買い物はひとつもありません」
気持ちが張り詰めていた2年間、家族との日常生活
「自分とまったく違う人物になりきる」という体験を楽しむ
自分とまったく違う人物になりきること、それを楽しむこと。最近の体験でいうと、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』での、ミラ役をいちばんにあげる。
「謎の人物ミラは、シーズン1から2にかけて、会話劇と心理戦で人の心をかき回します。シーズン1を終えて2の撮影までの2年は、予定されている長いセリフと緊張感を乗りきれるかどうか、気持ちは張り詰めっぱなしでした。
学生のとき勉強嫌いだった私が、難しい心理戦を理解して、長いセリフを暗記するのは、とんでもなく難しいこと。いつもならひとりお風呂でぶつぶつ言いながら覚えますが、今回はそれでも間に合わなくて、妹に相手役になってもらって毎日練習。
ちなみに夫は、結末を知りたくないと言って、練習相手を断られました(笑)」
仲さん演じるミラは、言葉で人を翻弄したあと、終盤で意外な一面をのぞかせる。それは台本にも描かれていなかった予想外のひと幕。
Netflixシリーズ『今際の国のアリス』シーズン2
2020年のシーズン1に続き、植物化した東京で生き残りをかけた難易度の高い“げぇむ”が繰り広げられる。その黒幕にいるのはだれなのか、目的はなんなのか。仲 里依紗さんは、その鍵を握る重要人物ミラを演じる。出演:山﨑賢人 土屋太鳳ほか。Oggi専属モデルの朝比奈 彩も“げぇむ”参加者として出演。Netflixにて全世界独占配信中
息子は彼氏、夫は家族全体の舵を取ってくれる大事な運転手
ミラの物語にのめり込んだのと同時に、2年間引きずった緊張感がほぐれた瞬間でもあった。終わったあとは、大好物のタピオカドリンクで自分をねぎらって、そして家族との日常生活に戻る。
「息子は今年10歳。私はすぐキレる怖いママだし、いまだ宿題より遊びの予定を優先しちゃうところがあるけれど、息子はどういうわけかとても優しい子になりました。
道を歩くときは、『ママ危ないから内側ね』って私を守ってくれるんです。だから息子は彼氏、そして夫は運転手。運転手には、送り迎えやパシリを頼むこともあるけど、家族全体の舵を取ってくれるという意味での、大事な運転手。
なんでも話すし、大きな決断は必ず相談します。でも、何を聞いても『ダメ』って言わないのも、彼のいいところ。
どんな派手な服を着ても、『いいね〜』って。いや、待てよ。『今際の〜』でのゲームみたいに、ウソを言ってるってこともありうる? 私、ミラに影響されてる?(笑)」
* * *
ワンピース¥390,500・ピアス¥158,400・ネックレス[中]¥79,200・ネックレス[下]¥88,000・バングル¥111,100・ブレスレット[左手]¥143,000・リング¥68,200・ブーツ¥268,400(ヴェルサーチェ ジャパン〈ヴェルサーチェ〉) その他/スタイリスト私物
●この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。
2023年Oggi3月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/黒沼 諭(aosora) スタイリスト/番場直美 ヘア&メイク/mayu 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
仲 里依紗(なか・りいさ)
1989年生まれ、長崎県出身。2006年アニメ映画『時をかける少女』で主人公の声優を務め、注目を集める。以降の出演作は、実写映画『時をかける少女』『ゼブラーマン〜ゼブラシティの逆襲〜』『土竜の唄』シリーズ、ドラマ10『大奥』(放送中)。劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』は4月28日公開予定。