私はお芝居をずっと続けていきたいですし、書くこともやめたくない──
今回のエッセイでそう明言できたのは大きな変化だった

俳優として映画やドラマ、舞台など幅広く活躍する一方、’18年に『カモフラージュ』で小説家としてもデビュー。小説やエッセイのほか各種媒体でコラム連載も担当するなど、執筆活動にも精力的な松井玲奈さん。現在、エッセイ第3弾にして自身初の全編書き下ろしとなった『ろうそくを吹き消す瞬間』が発売中です。日常の中にある「幸せ」について考えを巡らせた一冊ということで、制作の裏側や思い入れついて伺いました。
─テーマを「幸せ」にしたきっかけはどんなものでしたか?
松井玲奈さん(以下、松井):旅行の写真をSNSでシェアしようとしたとき、「それって幸せ自慢になっていない?」と近しい人に言われたことが自分の中ではインパクトのある出来事でした。今はSNSで日常を発信することがポピュラーですが、何気なく投稿したものでも受け取る側によっては共感してくれたり、傷ついてしまったり、感じ方は人それぞれにあると改めて気づかされて。そこから自分にとっての「幸せ」と向き合いながらエッセイを書き溜めていきました。
─幸せに向き合うことで気づいたことなどはありますか?
松井:幸せだなと感じる瞬間って、だれかにサポートをしてもらったり、一緒に楽しい時間を共有できたり、作品を見て感動したり、だれかから与えてもらっている部分がすごく大きいなと思うんです。それに対して常に受け取る姿勢でいるというか、心の間口を広くしておくことで幸せが感じやすくなるのではないかと思いながら、いつもフラフラ生きています(笑)。そうした余裕がないと、何も受け取れなくて心が動かなくなってしまいがちなので、人と会うときや作品に触れるときは、少しでもいいので余裕を持つことを意識することが大切なのかなと思います。
─松井さんは趣味も多くて、日々を楽しんでいるように感じます。それはきっと受け入れる力が豊かな証拠ですね。ところで、エッセイでは食にまつわる話も多く、どれも表現力が素晴らしく読んでいておなかが空いてしまいました!
松井:ありがとうございます! エッセイは1、2か月ごとにまとめてお送りしていたのですが、「もう食べ物のテーマは大丈夫ですよ。いったん違うお話を書きましょう」と言われるほどで(笑)。食べ物のことを書いているときがいちばん幸せです。
─特に思い入れのある一編はどれでしょう。
松井:やっぱり書籍タイトルの由来にもなった「そうろくを吹き消す前に」です。最後から2番目くらいに書いた一編だったので、そこに至るまでのすべてを集約させたようなエッセイになったと思います。

─幼少期のご家族とのエピソードも多く入っていますよね。改めてご両親とお話する機会があったのでしょうか?
松井:母親に「このときってどうだった?」とメールで聞くと、ありがたいことに50行くらいにわたって返信をしてくれるんです。それを読んで思い出すこともあって、ある意味、取材をしたようなものですね。
─お母様の愛を感じるエピソードですね。エッセイとして書きたい衝動にかられる瞬間はどんなときですか?
松井:他の方のエッセイや小説が面白かったりすると、自分もいいものを書きたいという刺激をもらえて、創作意欲が湧いてきます。でも、友人との会話をエッセイにしたらイヤがられるかな…といろいろな葛藤も。そういうときは、いったん書き留めるようにしているんです。日記がルーティンなので、そこに箇条書きのように書き出して、エッセイにするときには点と点を線にするように文章に仕上げます。日々の日記はすごく個人的なものなので、公開日記にするためにいろいろ整える感覚です。
─今回だからこそ書けたこともあったのでしょうか?
松井:そうですね。以前、自分の書いた著書を「別の方が書いているんですよね?」と言われたことがあって、すごく悔しい思いをした経験があります。でも、そのひと言があったから、自分が今後どうありたいのかという道標をつくることができたとも思っていて。私はお芝居をずっと続けていきたいですし、書くこともやめたくない。今回のエッセイでそう明言することができたのは大きな変化だったかもしれません。
─過去の悔しかった経験と改めて向き合う作業があったのですね。
松井:文章にすることは自分の頭のなかに溜まっているものを取り出して、整えて、アウトプットするという作業で、エッセイはその工程をよりていねいに積み重ねたものだと思うんです。だから、書いているうちに〝整う〟ところがあるのが面白くて。今はSNSなど気軽に発信できるツールはあるけれど、断片的に切り取られた部分になるので、より自分のことを正しく知ってほしい、伝えたいという思いを込めてかけるのがエッセイなのかなとも思います。
─インプットとアウトプットのバランスが素晴らしいですね。
松井:毎朝ジャーナリングをして頭の中にあるものをすべて書き出して、就寝前に日記を書くことがルーティンになっています。これを初めてから情報に溺れる感覚も減って、一日を有意義に過ごせている気がします。

─エッセイの中では、読書中に声をかけられることをイヤだと思っていたり、仕事でカチンときたことなど、「あるある!」と思いながら読んでいました。ご自身が感じた違和感に対しても、きちんと言葉を尽くしている姿勢が印象的でした。
松井:私、千早 茜さんのエッセイ『わるい食べもの』を読んだときに、こんな風に正直に言ってもいいんだと思ったことがあって。ものすごい衝撃が走ったんです。そこから自分もエッセイの中で、こういうのは苦手とか、この感覚は自分的にイヤなんですということも書いていいんじゃないかと思うようになって。人を傷つけたり攻撃することはいけませんが、きちんと説明をした上で正直な気持ちを書くことはダメなことではない、と思えた一冊でした。
─自分の気持ちを明確にすることでモヤモヤも晴れそうですね。
松井:そうですね! 自分にとって「これはイヤだな」と思うことを明確にしながら、「やりたいこと」も明確にできるといいなと思うんです。そうすることで自分軸がつくられるというか、漠然とした不安にも対処できるのかなと。
─不安を力に変えるためにも必要なマインドですね。
松井:自分が今いちばん実現させたいのは仕事なのか恋愛なのか、友情なのか、家族なのか、優先順位をはっきりさせておけば変に焦ることもないと思うんです。そうすれば、SNSなどを見て不安や焦りが生じたとしても、自分の中では「それは3番目の優先順位だから別に急がなくてもいい」と考えられます。自分の人生は自分のものだけれど、家族と共有するものでもあると思うので、その中で周囲に流されないようにして、どう進むべきかを決めていきたいです。
─松井さんはAIも活用されているとエッセイでも触れていましたね。
松井:そうなんですよ。少し前にライフワークバランスについてAIに相談したんです。「今自分は何を大事にするべきか」と。今の年齢とこれから挑戦したいことを具体的に並べていったら、それに対して何パターンも返信をくれて。さらに質問を重ねて、どんどん深掘りできるので面白いです。今の自分を俯瞰して見られる感覚があって素晴らしいツールですよね。頼りっぱなしは注意しないといけないので、自立心は保ちながらヒントをもらう気持ちで活用しています。
─この一冊を書き終えて、幸せとの向き合い方に変化はありましたか?
松井:このエッセイを書く出発地点になった「これは幸せ自慢なのか?」という部分に関しての明確な答えは出せていないです。でも、幸せについての認識は人それぞれ違いますし、そこに振り回されずに自分が大切にしたいものを守っていけたらいいのかな、と思うようになりました。自分の中にある小さな幸せを少しずつエッセイという形にしていけたらと思います。

─Oggiでの書評連載「今日も今日とて読書日和」も大変好評です! 最後に、改めて読書を楽しむコツもお伺いさせてください。
松井:いつも読んでくださって、ありがとうございます。エッセイは一編が短いものも多いので小説のように物語を追わなくていい分、日々忙しいOggi読者の皆さんにも読みやすいジャンルだと思います。私も撮影が立て込んだとき、エッセイだけは読めるんです。読むことで他人の日常や視点をのぞくこともできるので視野が広がるというか、その人の目を借りることができる感覚もいいなと思っていて。今回の私のエッセイ『ろうそくを吹き消す瞬間』が、皆さんにとっての幸せな時間や大切にしたいものを考えていただくきっかけになってくれたらうれしいです。

エッセイ『ろうそくを吹き消す瞬間』
著/松井玲奈 KADOKAWA ¥1,760
本誌の書評連載「今日も今日とて、読書日和」でもおなじみ、松井玲奈さんの大好評エッセイの第3弾で、本作は自身初となる全篇書き下ろし! 家族とのほんのり苦くて愛おしい思い出や食にまつわる話、そして自身が感じた違和感にも正面から向き合った一冊。自分にとっての「幸せ」について考えたくなる。
ダブルリング¥30,800・シングルリング¥14,850(THE PR<リフレクション>)
その他/スタイリスト私物
THE PR TEL:03-6803-8313
Profile
1991年7月27日、愛知県生まれ。’08年デビュー。俳優として、連続テレビ小説『おむすび』や大河ドラマ『どうする家康』(共にNHK)など数多くの作品に出演。’18年には小説家デビューを果たし、著書に小説『カモフラージュ』『累々』『カット・イン/カット・アウト』、エッセイ『ひみつのたべもの』『私だけの水槽』がある。現在、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にハーマイオニー・グレンジャー役で出演中。
撮影/黒石あみ スタイリスト/船橋翔大 ヘア&メイク/菅井彩佳 構成/宮田典子



