傍観者になるより、業界の変化を肌で感じていたい。テレビ・ラジオへの愛が仕事を生み出す
週に6日の長時間生放送を担当しながら、空いた時間は仕事の準備と後輩の相談で埋まっていく。
管理職としてどっしり椅子に座るわけでもなく、地道な準備作業を怠らない。
入社25年。今も現場で汗を流しながら、これまでとまた違う、仕事の面白さを感じ始めている。
楽になるものだと思っていたけれど…
入社25年。毎週月曜から木曜は深夜2時に起きて、朝5時20分からの情報番組『THE TIME,』の総合司会を担当。
土曜夜は『情報7daysニュースキャスター』、そこから続いて日曜午前のラジオ『安住紳一郎の日曜天国』パーソナリティを。
週に6日、それも生放送での出演が続く。
情報番組『THE TIME,』(ザ タイム)
毎週月曜〜金曜日朝5時20分〜8時にTBS系で生放送中。
総合司会は安住紳一郎。写真で安住さんと一緒に写っているのは、番組キャラクター“シマエナガちゃん”一家の“パパエナガ”。
「経験を積んだら、自分のやり方が確立できて、もっと楽になるものだと思っていましたが…。おかしいですね。そうはなっていませんね。ずっと会社員でい続けるとも、思っていませんでした。
でも、私にはテレビやラジオへの愛がある。これは、だれにも負けません。
テレビ業界が厳しい状況にある中、自分にできることを尽くして、業界と会社の改革に関わっていたい。それを肌で感じていたい。だから続けている… と言ったら、かっこよすぎるでしょうか(笑)。
もちろん、会社を辞めてやる! と思うことは何度もあったし、今でもあります。
たとえば、日曜におしゃれなオープンカフェで同世代の人がお子さんを連れて、優雅にブランチをしている姿を見たりするとね。こっちはアラフィフになっても徹夜明けだというのに」
生き残ってきた自負はある
「私の30代を思い返すと、求められたことにひたすら応えることの繰り返しでした。失敗すれば怒鳴られるし、できなければ生き残れません。
そんな風潮は、今でこそ肯定できるものではないけれど、かといって、なかったことにもできません。
キツい環境でやってきて、そこから生き残って今があるという自負は、捨てちゃダメだと思っているんです」
そのころに担当した番組は、テレビ『ぴったんこカン・カン』(2003〜2021年)、『中居正広の金曜日のスマたちへ』『情報7daysニュースキャスター』(ともに2008年〜)、そして毎年夏の『音楽の日』(2011年〜)、年末の『輝く! 日本レコード大賞』(2021年〜)、ラジオ『安住紳一郎の日曜天国』(2005年〜)など。
どれもが、安住さんの30代を代表する番組であり、ご長寿番組である。
30代は通過地点、番組を長続きさせる秘訣は人間関係
「アナウンサーという職業は、40、50歳になって結果が出るものだと思っていたので、私にとって30代は通過地点でした。
何か目標があったわけでもなく、番組をもったなら10年は続けたいという思いだけ。
そのためには、スタッフとの人間関係が大事です。
番組が始まった当初から味方をつくっておき、お願いしたり相談したり、とにかく巻き込む。何か主張したいときは、自分の意見を恐れずにぶつける。
衝突することだって、もちろんあります。そんなときは、まず相手の言い分を理解して、それから自分の思いを伝えて。
妥協案を出すこともありますが、最終的には自分の考えにもっていく粘り勝ちが、私のパターンです。
また、ディレクターに意見を伝えるときは、メモに書いて渡します。書くことで、自分の気持ちが整理されるものです。
メモといっても、これがけっこう長くて、前半は褒めたり励ましたりを中心に。それに続けて、今回改善してほしいこと、希望するところをやわらかく伝える。
相手を否定したりせず、君ならデキるっていう気持ちを伝えるんです。最後に、『必ずうまくいく』と強気の将来展望を入れるのもポイントです」
人の3倍準備して、相手のことを好きだと思い込む
担当した番組がどれも10年以上続いているのは、そうしたスタッフとのコミュニケーションの賜物。でもそれだけではない。安住さんならではの「準備作業」も大きな勝因だ。
この作業は、どの番組でも生放送直前まで続き、また安住さん唯一の休日・金曜日が使われることも多い。
「インタビュー相手の本や過去の記事、ニュースはもちろん読むし、ファンの方に話を聞きに行くこともあります。地道なことでも、ほかのアナウンサーより『3倍準備する』。
すると、自分が取材相手のいちばんのファンだと思えてくるものです。もちろん、苦手な人もいますよ。でも、逃げられません。
そんなときでも、人の3倍その人のことを知ろうとしているのだから、十分好きな人だといえるはずだ、となります。
よく、だれとでも臆せずに話していると言われますが、実は前日から緊張で眠れないこともあります。そして本番となれば、空気を読み、相手の表情を見て、用意している質問を瞬時に選ぶ。
その瞬間のエネルギーもまた、人の3倍はかけているのではないでしょうか」
30代で2回、ロケを投げ出したこともある
そんな緊張を感じさせず、大物ゲストと軽やかに対話し、話を広げていく安住さん。ここにもまた、自分だけのテクニックがある。
「相手の話に乗っかって、リアクションして、自分のターンになったらこちらから技をかける。私たちの業界ではプロレスって言うんですけどね。これは今も私の得意とするところです。
ところが、30代のころに2回ほど、タレントさんとのロケ中にプロレスの気力がなくなり、途中で投げ出してしまったことがありました。今思うと、申し訳ないことをしましたね。
会話は、トレーニングしだいで力をつけることができます。私の場合、ラジオの生放送最初の30分で自分の話をするのですが、最初はこれがなかなかキツかった。
でも、筋トレだと思って続けると、やがて楽になるものです。そうなるまでに、5年ほどかかりました」
“美しい言葉”や“品のいい言葉”をストックすること
「みなさんの日常でできるトレーニングとしては、“美しい言葉” “品のいい言葉”をストックしておくのもひとつです。
“もえぎいろ”など色を表す言葉、“鈴を転がすような”と音を表す言葉、などいろいろあります。大和言葉を調べて覚えておくのも、役立ちます。
カタカナ続きの会議の中で、あえてそうした言葉を使ってみると、周囲の目が変わりますよ。
また、メールや手紙の定型句を変えてみる。『ご自愛ください』は当たり前なので、たとえば『どうぞお身体おいといください』というふうに」
思い描いていたのとは違う40代、「楽」をしていたら味わえなかった満足感
こうしたテクニックは、後輩にも惜しみなく伝える。仕事の相談はとことん聞くし、そこから答えの出ない人生相談に及ぶこともある。休日を削って、自ら乗馬やそば打ちに誘うこともある。
「後輩が早く成長できるように」「ひとりひとりが、最適な道を選べるように」と願いながら。
35歳を過ぎて感じたサラリーマンの醍醐味。私生活は家庭を持つ準備を
かつて思い描いていた「楽な」40代ではないけれど、楽していたのでは味わえなかった満足感もある。
「35歳を過ぎてからは、自分のことより後輩の成功を見るほうが、達成感があるものです。自己実現を超越した気持ちよさ、とでもいうのでしょうか。これこそ、組織で働くこと、サラリーマンの醍醐味です。
で、私自身はというと、朝の番組を担当してもうすぐ1年、後輩も立派に育ってきたので、そろそろ家庭をもつ準備をしようと思います。
そうですね、独身が長くなっちゃったので、別居婚のような形がベストでしょうか。
いや、離れて暮らしていたら、相手に興味がなくなっちゃうのかしら。困ったな。どうなるんでしょうか、私(笑)」
●着用しているものはすべてスタイリスト私物です。
2022年Oggi10月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/三宮幹史(TRIVAL) スタイリスト/藤井享子 ヘア&メイク/惣門亜希子 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
安住紳一郎(あずみ・しんいちろう)
1973年生まれ、北海道帯広市出身。明治大学文学部卒業後、1997年よりTBSアナウンサーに。現在の担当番組は、『THE TIME,』(ザ タイム)、『情報7daysニュースキャスター』、ラジオ『安住紳一郎の日曜天国』。過去にはドラマ『木更津キャッツアイ』、日曜劇場『GOOD LUCK!!』などに俳優として出演経験もある。現在の肩書きは、総合編成本部アナウンスセンター局長待遇エキスパート職。