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2022.09.08

怒られてばかりいた社会人1年目。何がしたいのかと問われ「福祉がやりたい」と泣いた

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人たちは、どんなターニングポイントを迎えてきたのか。今回は、障害のあるアーティストが描くアートを世に放ち、福祉の枠を超えて注目を集める「ヘラルボニー」代表の松田崇弥さんにお話をうかがいました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

「ヘラルボニー」代表・松田崇弥さん

スーツ姿の男性

小山薫堂さん率いる企画会社「オレンジ・アンド・パートナーズ」への就職を機に、東北から上京。田舎者で、都会のシャワーを一身に浴びていたのが20代前半です。

大学までは学長賞をいただいたり、前に立つ機会も多かったり、「自分はできるんじゃないか」みたいな自信もちょっとあったんです。それが社会人になった途端、本当にダメダメで!

たとえば、宅配便の存在を知らずに送付物は全部ポストに直接投函するものだと思っていて、取引先から「必要な書類が届いてません」と連絡が来るとか。一事が万事で世間知らずなので、怒られてばかり。

出社前にクッションに顔を埋めて「仕事、行きたくないー!」と叫んでは、当時ルームシェアしていた友達に「大丈夫?」と声をかけてもらうような絶望の日々でした(笑)。

見かねた上司に「お前は何がしたいんだ?」と問われ、「福祉がやりたいんです!」と涙したのもそのころ。

後にも先にも仕事で泣いたのはその一回なのですが、4歳上の兄が知的障害を伴う自閉症ということもあり、当時から30歳までには福祉の領域に携われたらと思っていたんですね。

ただ、会社ではいちばん年下で20代は僕くらい。自分でプランニングしたくても、このままだと数年はアシスタント的ポジションで難しいだろうなと。

だから、社外で働く同世代の仲間と広告賞に応募しまくって、著名なCMクリエイターの方々が審査員を務めるアワードでなんとか受賞できたことで、徐々に社内でも企画を任せてもらえるようになっていきました。

転機は24歳の夏。「アート×福祉」事業のスタートはネクタイ

障害のある作家さんとアートライセンス契約を結んで世に送り出す、という今の事業につながる転機は、24歳の夏。

岩手に帰省していたときに、社会福祉法人が運営する「るんびにい美術館」で、障害のある人たちが描いた絵のかっこよさに衝撃を受けたことがきっかけです。

支援や貢献の文脈ではなく、ちゃんとプロデュースしてクオリティの高い製品にできたら面白いんじゃないかと思い立ち、すぐに双子の兄・文登に「アート×福祉で何かやろう!」と電話。まずは仲間内で副業として始めました。

最初につくったのは障害のある作家さんのアートをシルク織にしたネクタイです。数多くの工場に断られる中、紳士用品の老舗「銀座田屋」さんが快諾してくださいました。

絹100%で2万円以上の商品に想像以上の反響があり、福祉施設の方や作家さんの親御さんも喜んでくださって。

支援ではなく、幸せを追求して「障害」のイメージを変えていきたい

ショップ店内

特に忘れられないのは、NHKの番組で特集された後に、あるご家族からいただいた長文のメッセージです。

出生前診断でおなかの子がダウン症かもしれないとわかり、中絶も視野に入れていたけれど、僕らの活動を見て、「障害のある人があんなに楽しそうに笑っている姿に、初めて幸せをイメージすることができた。夫婦で話し合って、産む選択をしようと思います」と。

僕たちには産まなきゃいけないと啓発する意図は毛頭ないのですが、障害があっても幸せな人生もあるし、すごく楽しく生きてる人もいるんだよという部分は伝えていきたい。

ここまで人の感情を動かせる、障害のイメージを変えられる可能性のある活動なんだなと、改めて実感できた出来事でした。

27歳で会社設立、結婚。最初はビジネスの土俵に上がることができなかった

独立して「ヘラルボニー」という会社を設立したのが2018年、27歳のとき。双子の共同代表で僕が主にクリエイティブを、兄の文登が営業を担っています。

起業にはワクワクしかなくて不安はなかったものの、結婚したのも同時期。ラッキーなことに僕は授かり婚なのですが、最初の1年は福祉の仕事はほぼなく、前職のつてで企画の仕事をして食いつないでいたのが現実です。

どこの商談でも、「すばらしいことをされようとしていますね」とは言ってもらえるのに、ビジネスの土俵に上がれない。

ライセンス管理会社ではなく、ブランドとして見せ方を変えなくてはいけないと気づき、そこからは銀行で借り入れをして商品をつくり、店舗展開をして、ビジュアルにも注力。

こういう世界観がつくれるんだと見てもらうことで、少しずつ企業からお声がけいただけるようになってきたところです。

知的障害のある方とのコミュニケーションでは、子供扱いしないというのが大事な視点だと思っています。

丁寧に説明すればわかることはいろいろあるし、豊かな感性や大胆な発想、研ぎ澄まされた集中力というそれぞれの個性、そのすべてが「異彩」。

一方で、障害福祉施設で頑張ってつくったものが安価で販売されている事実には、悔しさを感じてきました。

ブランドが強くなれば、正当な対価で「すばらしいものだから買う」というお客様が増えていく。

さらにライセンスビジネスなら、納期に縛られる創作活動が難しい作家さんでも、すでにあるものを展開することで作品使用料として継続的に収入に還元できる。この循環をもっと強くしていきたいですね。

人生のお守りは、小山薫堂さんからいただいた言葉。「最高に幸せだった!」と思える選択をしていきたい

男性の横顔

悩み多き社会人1年目に前職の社長・小山薫堂さんからいただいた「あらゆる人に気を配り、だれよりも謙虚な人になりなさい」「その姿勢を忘れることなく、熱量のある仕事を」という言葉は、今でも人生のお守りです。

これから多角的に挑戦していけば、失敗する可能性はゼロじゃない。経営のプレッシャーがないわけではないけれど、自分の中で大事にしているのは、仕事って人生の優先順位で1番目にはなれないなという感覚です。

というのも、今、娘が本当にかわいくて生きる希望なんですよね。仕事柄、夜に会食や講演が入ることもあるのですが、週3日までとルールを決めて、保育園への送り迎えの時間帯もなるべく空けるようにしています。

愛おしさとか大切さとか、ひとりだったらわからなかったことで、もし「娘と会社、どっち選ぶんだ?」と聞かれたら、結局は娘を選ぶぞ、と。

きっと社員も同じで、ほかに大事なものや感情があるだろうし、そのほうが健全だと思います。だとしたら、会社は苦しいより楽しいほうがいいなと。

後、会社のビジョンとしては「ヘラルボニー=全員が参加できる」と思えるような概念になっていくといいなと思っています。

たとえば、今は知的障害のある人が通える習い事はほとんどないのですが、将来的に「ヘラルボニー・スイミングスクール」と書いてあったら、障害があってもなくても参加できるとわかる… というように。

自分個人としては、とにかく幸せに生きていたい。人間、最後に死ぬときに大事なのは、お金をもってるかとか何を成したかよりも、「幸せだったかどうか」ではないかと。

自分が関わったことで社会が前進しているとか、娘がたくさん笑ってるとか、過程でかいた汗も含めて、「最高に幸せだった!」と思える選択をしていけたらいいですね。

2022年9月1日(木)~28日(水)まで渋谷スクランブルスクエアにポップアップストア登場!

ネクタイが並んでいるところ

本社のある岩手の常設ショップやギャラリー以外では、イベントやオンラインを中心に販売しているヘラルボニーのライフスタイルブランド『HERALBONY』。

その多彩な魅力を、手に取って体感できるチャンス! 定番人気のネクタイやトートバッグ、スカーフのほか、新作アートの発表もお見逃しなく。詳細は公式HPで確認を。

2022年Oggi10月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 撮影協力/ANB Tokyo 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

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松田崇弥(まつだ・たかや)

1991年、岩手県生まれ。ヘラルボニー代表取締役社長。大学卒業後、企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。4歳上で自閉症の兄・翔太氏が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、双子の兄・文登氏と共に会社設立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、福祉実験ユニットとして障害のある作家のアートライセンス事業のほか、建設現場での仮囲いアートミュージアム、地域創生など福祉を起点に新たな文化を創出。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」ほか、受賞多数。2022年10月1日~2023年3月21日に金沢21世紀美術館 デザインギャラリーでの展覧会も予定されている。


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