小柄女性も、好きなおしゃれを楽しめる世界を作りたい。アパレルブランド〝COHINA〟ブランドディレクター・田中絢子さん
田中絢子さん:1994年生まれ・神奈川県出身。2018年に小柄女性向けのアパレルブランド〝COHINA〟を立ち上げ。今年2025年、ブランド初のコンセプトストア「Casa COHINA Aoyama」がオープン。
ブランドディレクターとして働くOggi世代

アパレルブランド・COHINAを立ち上げて7年になります。ディレクターの役割は、洋服のデザイン管理やブランドの世界観を守ること。お客様の要望や最新の流行をキャッチしながら、デザイナーらチームメンバーと協力してブランド作りに取り組んでいます。小柄女性向けのブランドゆえ、サイズ感のコントロールも大切なポイントです。
ディレクターと同時に事業責任者でもあり、ブランドをうまく営業して利益を生み出すのも重要な仕事。ともに働くスタッフたちを守る立場でもあり、事業の未来のために「決断」する責任もある。プレッシャーはありますが、ブランドが成長して挑戦できることが増えるたびに感じる喜びも大きいです。

平均的な1日の仕事内容は?
まずは日々5〜6本のミーティングに出席。洋服作り、マーケティング、採用…さまざまな打ち合わせの合間に、スナップ撮影や動画編集、インスタライブに取り組むのが平均的な1日の内容です。インスタライブは、設立初期から力を入れている活動。当時は予算もなく、ブランドのために今自分たちにできることは何か?を考えた結果でした。「インスタで気になるアイテムを見つけて衝動買いする」って、私にもよくあったので。実際、多くの人にCOHINAを知っていただくきっかけになったと思います。
こうして考えると1日じゅう話しっぱなしですね。疲れてきたらリップの色味を濃くして、血色を加えながら乗り切っています(笑)。

田中さんの1日のスケジュール
7:30 起床
9:00 近所のカフェにコーヒーを買いに行く
10:00 出社。ミーティングの合間に撮影や編集作業!
13:00 ランチ
19:00 退社
20:00 会食
23:00 自由時間。翌日のコーデを考える、インスタ投稿準備など
1:00 就寝
着たい服が見つからない。ブランド立ち上げのきっかけは「小柄女子」ゆえの悩み

私自身、身長148cmと小柄な体型。世の中にはたくさんの洋服が存在するのに、低身長女性が着られるものって本当に少ないんです。ぴったり着られるのは子供服かギャル向けブランドか。百貨店に行けば「小さめサイズ」はあるけれど、デザインが限られるうえ高価で気軽には手が出せない。自分が本当にしたいファッションはなかなか選べないのが実情でした。周囲の小柄女性に話を聞いても「困っている」という声が多くて。そんな悩みを解決できたらと始めたのが、COHINA立ち上げのきっかけでした。
大学在学中にブランド運営をスタート。そのかたわら、新卒でGoogleに入社した理由
COHINAをはじめたのは学生時代でした。ありがたいことに反響もあり「ビジネスとしていける!」という自信はあったのですが、当時の私の武器といえば「時間と体力と熱量」。ブランドの将来を考えると、若さと熱意だけでは限界があるとも感じていました。
企業で社会人のスキルを身につければ、自分自身もブランドも伸ばすことにつながる。それに「会社員」のことを知らずに会社の運営は難しいとも考えたんです。就職活動を経て、Google Japanに新卒入社を決めました。
Googleでは、とにかく「たくさんの人に必要とされるプロダクト」作りに心動かされました。GoogleマップにGmail、どれも日々の暮らしに欠かせない存在ですよね。だからこそ、今後ブランドを大きくしていくためのヒントが絶対に見つかると思ったんです。さらに社員のみなさんがキラキラと楽しそうに仕事に取り組んでいたことも、入社の決め手のひとつでした。
会社員とブランド運営の二足のわらじ。インスタライブ中に終電ダッシュも!?

両立時代はものすごく働きました。朝7時に起きて、8時から10時はCOHINAの仕事に全力。そのあとGoogleのオフィスに出社してフルタイム勤務。18時ごろからまたCOHINAのミーティングをして、サンプルチェックをして、夜はインスタライブをして…。
インスタライブ中に終電の時間が迫ってきて、配信しながら「終電やばいので帰ります! バイバイ!」なんてことも(笑)。慌ただしい毎日でしたが、そのあと視聴者から「電車間に合いましたか?」とDMが来たりして、なんだか友達がどんどん増えていくような、あたたかな手触りを感じる日々でした。
そしてGoogleで「会社」の仕組みがわかってきて、営業でも成績を出せるようになった頃。COHINAも想像以上のスピードで成長していきました。「今こそブランドにすべてを注力すべき」と2019年にGoogleを退社してCOHINA一本の生活へ。東京ガールズコレクションに出場したり、新しいブランドラインを増やしたり…今年2025年にはブランド初のコンセプトストア「Casa COHINA Aoyama」をオープンしました。
着る人が「自分を認められる洋服」を届けたい
これまで仕事をしてきて強く心に残っていることがあります。あるとき、お客さんが泣きながら試着室から出てきたんです。何かあったのかな?と心配していると「こんなにぴったり着られる洋服は始めて。この体型だから仕方ないと諦めていたから、感動しちゃいました」と…。
こんなふうに言っていただけて、本当にCOHINAをやってきてよかったと思いました。結局のところ、洋服のサイズが合わなくても人は生きてはいけるんです。けれど、おしゃれは自分に自信をもつためにとても重要なもの。とくに女性は、自己肯定感とたたかう日々を過ごしている方も多いと思います。だからこそ洋服を通じて女性が「自分を認められる瞬間」を作りたかった。その手助けをできたことを実感して感激した出来事です。

忙しい日々を乗り切るマインドの秘密
夢中になっているとあっという間に時間が過ぎるので、それが忙しくても乗り切れる秘訣かもしれません。仕事ばかりにならないように友達との時間も意識して作るようにしています。体調管理としては、定期的に美容皮膚科に通って肌状態にあわせたサプリを出してもらっています。肌が荒れていると、「鏡を見たくないな」「人に会いたくないな」とマインドもかなり落ちてしまうもの。なるべく「自分が気に入っている自分」でいることが、日々がんばるために大事なことだと思います。
プライベートでは双子の猫ちゃんに夢中!

今夢中になっているのは、家で一緒に過ごす双子の保護猫! そっくりすぎて見分けがつかないとよく言われます。名前は「ペール」と「エール」。ビールの「ペールエール」が由来です。お酒も大好きで、ほぼ毎日飲んでいるほど。ひとりで根を詰めるよりも、周囲の人から刺激を受ける方がリフレッシュになる気がするんです。飲むための言い訳かもしれませんが(笑)。

仕事で壁にぶつかったときは、まずは悩みの正体をはっきりさせる
壁にぶつかったときは一度引きこもります。モヤモヤの答えは自分のなかにあるもの。まずは思考を整理して凪の状態を作るんです。そしてノートに気持ちを書き出しながら、何に悩んでいるのかはっきりさせる。そのうえで、必要な答えを持っていそうな人に話を聞きにいくこともあります。友達や先輩、コーチングのプロに力を借りることも。今だったらとりあえずchatGPTに聞いてみるのもいいかもしれません。
今後の展望は?「自分の心に素直になれる人」を増やしたい

これからもCOHINAを必要な人にしっかりと届けたい。「もうお洋服に悩まなくて大丈夫。私たちがいるよ」と、あらゆる手段で伝えていきたいです。
もう少し未来を見据えるなら「自分の心に素直になれる人」を増やしていけたらうれしい。自由に好きな服を着ることは、自分の幸せを選ぶことにも通じると思います。それに私自身、COHINAを始めたことで生きる理由が見つかった感覚があるんです。みんなもっと自由でいいし、好きなことに忠実でいい。私の体験を発信することで、そんなふうに日本の女性のマインドを変えることができたら、COHINAにももっと大きな意味ができると考えています。
「自分が幸せな状態」は本人にしかわからない。「どんな自分が幸せか」がわかるように、みなさんの手助けをできたらうれしいです。
取材・文/徳永留依子
田中絢子さん
COHINAディレクター。身長148cm。1994年生まれ。2018年、早稲田大学在学中に、小柄女性向けアパレルブランド「COHINA」を立ち上げる。「あなたに陽が当たる服」をコンセプトに身長150cm前後の小柄女性を輝かせるファッションを提案。2022年には、大人の小柄女性のためのブランド「STRATA」もスタート。
Instagram:@ayako_cohina