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2026.02.06

「必要とされなかった日々から、だれかの困りごとを解決できる自分へ」ネコプロダクト・デザイナー 太野由佳子さんインタビュー

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、ネコ用品ブランドを手がけるネコプロダクト・デザイナー 太野由佳子さんにお話をうかがいました。

ネコプロダクト・デザイナー 太野由佳子さんインタビュー

ネコプロダクト・デザイナー 太野由佳子さん

《Profile》ふとの・ゆかこ/1977年、岩手県生まれ。クロス・クローバー・ジャパン代表取締役。医療用システム会社勤務を経て、2005年に起業。ネコの生態や習性に寄り添った〝ネコ目線〟のオリジナルブランド『nekozuki』を立ち上げ、40点超のオリジナル商品を開発。2024年度までにグッドデザイン賞を7回受賞し、岩手の伝統工芸技術を生かしたプロダクトは国内外で支持されている。飼い主の学びを支える情報発信にも力を入れ、ネコと人が互いに心地よく暮らせる環境づくりに取り組む。

100回うまくいかなくても、ネコが心地よく生きられるならあきらめずに進める

このままの人生がずっと続くのかな… と疑問を抱き始めたのが、27歳のときでした。医療用システム会社で電子カルテの導入サポートの営業をしていて、仕事自体はやりがいがありました。でも、何をするにも会社の許可が必要で、「こうしたらもっとよくなるのに」とアイディアが浮かんでも、「前例がないから」と、自分の意思では動けないモヤモヤが積み重なっていきました。

支えになっていたのが、休日に続けていた動物保護団体でのボランティア。年代も職業もバラバラな人たちが集まっていて、起業家支援をしている方もいたんですね。私の動き方を見て「あなたは経営者が向いてるんじゃない?」と言われたんです。公務員の両親を見て育ち、起業なんて発想は一度もなかったのですが、むしろ〝わからなすぎて面白い〟と思って。そんな道もあるんだ、と視界が開けた気がしました。

実際に会社をつくるとしたら何をテーマにするのか、ノートに書き出していく〝好きなもの選手権〟を自分でやってみたところ、最後に残ったのが「ネコ」でした。だったらネコのための事業をやってみよう、と。そこから1年間しっかり引き継ぎをして円満に退職し、3日後にはクロス・クローバー・ジャパンを立ち上げました。

最初は仕入れたネコグッズを販売する小さなお店を盛岡に出したんですが、全然お客さんが来なくて(笑)。家賃が安いからという理由だけで選んだ場所で、まずだれも知らない。小売の経験もゼロだったので、とりあえず近所にチラシを配ってみたものの反応は薄くて。「世の中のだれにも必要とされていないんじゃないか」と思ってしまうほどでした。もちろん売上は立たず、生計を立てるために、夜はスーパーでレジ打ちのアルバイトをする生活でしたね。

転機になったのは、起業して10か月ほど経ったころ、「ネットで売る」という選択をしたことでした。盛岡ではまったく売れなかった商品が、ECに出した途端に売れ始めたんです。驚きと同時に理由が知りたくて、お客様に電話して「どうしてこの商品を選ばれたんですか?」と聞いてまわりました。怪しまれることもありましたが、困っていることを丁寧に教えてくださる方もいて。その声に応えたくて既存の商品を探しても、どうもしっくりこない。だったら自分でつくろう、と開発に踏み出しました。

初めて手がけたのは、愛猫・なるとが病気になったときの経験から生まれた介護用品です。当時はネコ用のエリザベスカラーがほぼなく、小型犬用の硬いプラスチック製を代用するしかありませんでした。でもそれでは重くて大きくて、保護具のはずが、どんどん元気をなくしていって。ネコグッズのお店をやっているのに、何もしてあげられない自分が悔しかったんですね。

ネコの介護用品

ただ、実績も知識もない若輩者でしたから工場探しは難航しました。数十社に断られたり、アポを取れても行ったらだれもいなかったり(笑)。それでも紙粘土や段ボールで模型をつくって通い続けるうちに、「本気なんだな」と少しずつ耳を傾けてもらえるように。職人さんにネコがいやがるポイントを動画で見せ、一緒に意見を出し合いながら信頼関係も生まれていきました。無事に商品化にこぎつけ、2010年にオリジナルブランド『nekozuki』が誕生しました。

現在でも岩手の工芸職人さんやスタッフ、そして一緒に暮らす保護猫のネコ社員たちと協力しながら、年に1~2点のペースで新作をつくっています。長く使えてネコにストレスが少ないものを追求していった結果、地元の木工や鉄器などの伝統技術に出合いました。江戸時代から続く岩谷堂簞笥の引き出しを応用した木製爪とぎボードは、職人さんに驚かれましたが、削りカスが落ちる構造がぴったりで、とても喜んでいただけました。壊れにくくメンテナンスもしやすいので、新しいものに警戒心の強いネコでも長く使えるのも魅力です。

ものづくりの軸は「主語がネコになること」。職人さんに嫌われたくなくて言いにくいことも、ネコの代弁者として伝えています。たとえば、自宅介護の皮下点滴時にネコが暴れず保定できる「ねこずきのおくるみ」は、6年かけて改良を重ねた商品です。従来の保定用品は全身を包む袋型が一般的でしたが、100回以上修正を繰り返すうちに、私の指示ミスで前足が出る試作品が届いたことがあったんです。でも、試しに使ってみたら驚くほどネコが落ち着いていて、「前足が床につくと安心するのかも」と気づけた。失敗から生まれたヒット作でした。もちろん「つきあいきれん!」と𠮟られることもありますが、お客様の感想が届くと職人さんも喜んでくださって、そこからさらに進化していくことが多いですね。

ネコプロダクト・デザイナー 太野由佳子さん

東日本大震災での経験も、今の仕事に影響しています。被災地へ物資を届けるボランティアに通う中、「一時的な支援ではなく、仕事として継続的な取り引きで力になれたら」と考えるようになりました。ご縁があって、現在は陸前高田の工場と一緒にネコの水煮フードを生産。うちのネコの体調が手づくり食で目に見えて改善したことがあり、三陸産の魚と水だけでつくる無添加フードは、私自身が欲しかったものでもあります。被災地では、人にとってペットがどれだけ大きな支えになるかも痛感しました。ネコのためにやっていることが、結果的に地域や社会につながっていく。不思議な巡り合わせだなと思います。

最近は商品づくりだけでなく、知識を届ける活動にも力を入れています。迷子のネコの探し方、災害時の備え、水質と健康の関係、アロマや柔軟剤の危険性など、知っていれば救える命があると思うからです。専門家への取材内容を『nekozukiの学校』として発信していて、中でも迷子ネコの捜索率99%以上の団体のノウハウは、全国の飼い主さんにぜひ知っていただきたいですね。

商品を世に出す瞬間は今でも毎回ドキドキします。新しいものには反発もあるし、誤解されることもある。でも使ってくれたネコと飼い主さんの声を聞くと、「ああ、必要としてくれる人がいる」と初心に返れるんです。ネコの寿命は30年前の約3倍に伸びていて、介護のために離職する飼い主さんもいます。ネコを取り巻く環境が変わる中でも、心地よく生きられる世界を少しでも広げたい。私自身、うちのネコたちに「この家に来てよかった」と思ってほしいし、同じようにだれかのネコも幸せであってほしいと願っています。完璧じゃなくても、まずは動かしてみることを大切に、コツコツ進んでいきたいと思っています。

グッドデザイン賞受賞続々! 徹底したネコ目線のグッズが見つかる『nekozuki』

徹底したネコ目線のグッズが見つかる『nekozuki』

太野さんが手がけるネコ用品ブランドで、自社ECと動物病院をベースに展開。地元岩手の伝統工芸技術を活かしたアイテムも生まれている。特許を取得し、2024年度グッドデザイン賞を受賞した「ねこずきのおくるみ」のほか、売上数万点規模のヒット作も多数。ネコ社員の〝お墨付き〟を得たものだけを商品化し、ネコの負担を軽くして、飼い主にも寄り添う商品がそろう。https://kurokuro.jp/

2026年Oggi2月号「The Turning Point~私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

Oggi編集部

「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
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